表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の煌蝶  作者: kuku
3/11

二話

細く歪んだ躯、

切る。

青く濁った眼、

叩き潰す。


同じ顔をこれで何人殺った?

息をつきながら思う。

何人目だ。

何人目?

違う、こいつ等は人間じゃない。

姿形はヒトを模しているが、これは。

ぽっかりと虚ろに空いた口が、意味を為さない言葉を発する前に、

俺はレイピアを抉りこむ様にそれに突き刺した。


金属が鈍く擦れ合うような音をさせて、

それは呆気無く崩れ落ちた。

うっかり顔を上げた俺の目に映った、顔が。

何も見ていない、何の感情も無い顔が。

これは、人間じゃない。


生きてすらいない。

「う、あ」

慌ててそれの腹に突き立ったままの剣を引く。

血が。

血が滑る。

いやらしい音をたてて剣が抜けた時には、

息があがっていた。

「アシュレー」

掛けられた声に振り向く。

いつのまにか俺のすぐ後ろに立っていた男。

肩までの赤毛に、長身。

細い柳眉は情け無く八の字にしている。

ヒョードル。

俺の兄だ。

ただし、全く似ていない。

「どうした、怪我でもしたのか?」

そう言って覗き込んでくるのを、少し乱暴に押しのけた。


人を模したモノ達は、残らず床一面に倒れ伏している。

どうやら俺が動揺している間に、すべて兄がかたずけたらしい。

兄はまず珍しいものを見るように俺を見つめて、

次に一歩引いて俺を眺めてから、いつものようにニカっと笑って、言った。

「返り血でベタベタだな。」

次行くぞ。と続けて、自分はスタスタとドアに向かって歩き出す。

慌てて大股で並ぶ俺を横目で確認すると、速度を緩めず歩き続ける。


「服を汚さないように、もっと上手く立ちまわった方が良い。

 うん、ここの奴らは練習に調度いいかもな。」

長い廊下の途中でかけられたあまりな言葉に、一瞬思考が停止する。

ふざけにしても酷すぎる。

暫時の後カッとなって睨み付けると、

思いのほか真剣な兄の顔がそこにあった。

「アシュレー、わかってるなおい…こいつらは人間じゃない。

 それにお前、人間だって斬ったことあるだろう。

 今更なにを怯えている?」

「誰が怯えてるんだよ。俺はビビッてなんかない」

何時間かぶりに出した声は、嫌に掠れていた。

舌で唇を湿らして続ける。

「ビビッてねぇ、けど、こいつら反撃しねぇ、抵抗もしねぇ。悲鳴だってあげやしねぇ。

 …気色悪いんだよ。」

それが怯えているんだ。と言われるような気がしたが、

兄は妙に神妙な顔で一つ頷いた。

「うん、俺も気味が悪い。

 だけど、それがこいつらが人じゃないっていう

 証拠みたいなもんだろ。

 恐怖も痛みも、何も感じないのかもな。

 …ひょっとすると、生き物ですらないのかもしれない。」

最後は呟くようにして、ふと黙り込んだ。


生き物じゃない


そう兄も感じていたことを知って、俺は正直安堵した。

なんだ、こいつだってビビッんじゃねぇか。

そう思った瞬間に、やっといつもの平衡感覚を取り戻した気がした。


そういえば、一緒に潜入したガキと女がいなくなっていた。

ヒョードルに聞くと苦笑しながら―お前こそガキだろうとでも

思っているんだろう、どうせ―返事が返ってくる。

「プラナとトラシーボなら、俺達がアレを処分してる間に先に行った。

 別働隊ってやつだな。奥の部屋を見てくるらしい。」

マジかよ、と思った。人ががんばってる間に先に行くだろうか普通?

「ったく、だからエリュシオン連中は嫌いっつーんだよ」

「そういうなアシュレー。俺達と彼等は

 今は同盟を組んでいるんだからな。」

仲良くしろってか。

俺達シグルーンとあのエリュシオンの間に結ばれた、クソいまいましい同盟。

思い出したくもない事実を思い出させられて、溜息がでた。

とにかく早く追いつこう。そう言って更に足を早める兄の背中を、

今は追いかけることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ