大海原ってなんですか?
なんか書けたので
見渡す限り、三百六十度水平線。
漁船の中には勇者&魔王ご一行。
当然、俺も連行されている。
まあ、客観的に見ても漂流状態。
にも関わらず空気は緩い。
「オニギリくん、天むす10個!」
「妾には肉巻きおむすびを12個貰おうかの?」
「ん、なら私にはオムライスを14個だ!」
「おかかと鮭とタラコとエビマヨとカニマヨを一つずつ貰うのにゃ」
「ご主人さま、スマ子におはぎの三色セットをください!」
漂流時の最大の懸念事項、食い物と飲み物は俺が存在している時点で確保されている。
天候の変化と海洋のモンスターは見渡す限り何も遮るものが無い現状+勇者と魔王という理不尽コンビが居る時点で問題無い。
という訳なんだが、こいつら図太過ぎだろ?
しかも元凶二人!
少しは反省しろよ!
「こうしてきちんと食事を取ることで不測の事態に備えておるのじゃ」
「腹が減っては戦は出来ないと言うではないか! 食事は大事だぞ、オニギリくん!」
もう、嫌、この二人……。
◆
◆
俺らが何故こんな目に遭っているのかと言うと、話はクラーケンとシーサーペントを倒した後の宴会の翌日にまで遡る。
お祭り騒ぎ(産業用ロボット顔負けのペースでおにぎりとおはぎを作り、お茶を注ぎまくった俺には無縁だったがな!?)の後、勇者が「船乗って波に揺られて昼寝とかしたい!」と言い出し、それに魔王もネコ神官も同意したところ、「お礼にもなりませんが自由に使ってください」と漁船を一艘もらってしまった。
なんでか知らんが(まあ、おそらく勇者や魔王では会話が成立しないと思われたんだろうが)こういう話って俺のトコに来るんだよな。
面倒そうなことの場合、ネコ神官さんはステルスモードを発揮して、話をふられるのを回避するし……。
まあ、漁船貰ってもどうしようも無いんだが要は「色々気にせず、この船は使ってもらってかまいませんよ」ということなんだろう。
はしゃいだ勇者と魔王が早速乗り込み、俺も引きずり込まれ、何の準備もしないまま、出航。
ムキになって艪を漕ぐ勇者とそれを煽る魔王。
気付けば周囲に何一つ無い海の真ん中。
そして現在に至る、という訳である。
時折何も無い海面に魔王が魔法を撃ったり、勇者が剣を振ったりしている。
まあ、あの静かな海面の下になんか居るんだろう。
ネコ神官さんは船の中に転がってた釣竿に餌もつけずに釣りっぽいことをしている。
スマ子は退屈なのかスマホ形状に戻って寝ている。
あー、お茶がうめえ。
宴会ではおむすびマシーンと化していた俺だが、自分で出したおにぎりを食ったり、自分でお茶を出したりして一応は食い物を口にしていた。
で、その時に出したお茶を飲む用に貸してもらった湯呑みがいい感じだったので貰って来たのだ。
自分の荷物は少なくとも外に出る時は絶対に身に付けている俺は(じゃないと勇者の気まぐれで荷物置いた場所に戻れないなんてことが普通にあるからな)湯呑みを失わずんに済んだというわけだ。
命の心配はいらないだろうが、本当にすることが無い。
釣竿を借りておむすびの端っこを丸めて餌にする。
すぐに溶けてしまうだろうが、餌無しよりはまだ釣れる可能性がある。
勇者と魔王はまるで水を得た魚の様にだらけている。
仲間の目しか無い今の状況にすっかりリラックスして、ボケ~っと空を見上げている。
ネコ神官さんは目をつぶって休んで居るが、俺が釣竿を動かす度に反応していて、どうやら釣果を期待しているらしい。
釣竿を上げては無くなっている餌を付け直す。
最初から釣果は期待して無いが、これ当たりとか来ても俺分かるんかな?
浮きとか無い上に波があって、船自体も揺れ動いている。
針はかなり小さかった。
実際、溶けてるのか盗られてるのか分からんのだよね。
まあ、暇つぶしだからいいんだけど……。
この世界って海流とかどうなってるんだろうね?
まあ、本当にどうしようもなくなったら勇者か魔王がなんとかするだろうけどな。
そうこうする内にウトウトとして、カクンっとなった拍子に釣竿を立てると「痛い! 痛い!」という声。
「誰かにひっかけたか?」と思ったが、良く考えたら素直にそんな目にあう相手など居ない。
声の先を見ると海面に肩まで出した女の子が居た。
「人魚じゃの」
「流石にあれは食べられない」
「こっちに来るのにゃ、針を抜いて治療魔法をかけるのにゃ」
まあ、ネコ頭の人間が居る上に神まで居るんだ、人魚くらい居ても当然だろう。
海の中でおむすびの欠片を食べていたのはこの子だったらしい。
釣り針の怖さは良く聞かされていたので、注意して指で崩してから食べていたのだが、俺が急に動かしたせいで指に刺さってしまったのだ。
ネコ神官さんのひざの上にだっこされながら、俺の出したおむすびを食べている人魚の少女。
オムライスやチキンライスなどケチャップの味が付いたものが好きなようだ。
親とはぐれたらしいのだが、自分が迷子だと言う自覚が全く無く、その上現在地も把握していない。
よっぽど強い海流にでも流されでもしない限り、それほど遠くから来た訳でもないだろう、と保護することになった。
俺らにしても漂流()している立場だが、それでも海の中に放置しておくよりはマシだろう。
食い物もあるしな。
それにしても同じ様に食べ物を喜んで次から次へ消費していくのに、勇者とかと比べると腹が立たないのはどうしてなんだろうな?
邪気の無さじゃ大差無いぞ?
勇者は本能と直感だけで生きてるからな。
まだ、この人魚少女の方が物を考えているに違いない。
ネコ神官さんは「いい匂いなのにゃ」と猫可愛がりしている。
食欲に繋がっていないかちと不安になる。
勇者も魔王も普通に子供に接する調子で接している。
怪我を治してくれたということもあって、ネコ神官さんに懐いているようだから、このまま任せてしまっても平気だろう……たぶん。
おむすびばかりでおかずが無いと、勇者が言い出し、異次元収納から魔王が取り出した食材を勇者が炎の剣で焼き始めた。
「この剣は切れ味は大したことはないのだがな、火が無いところでも鉄板焼きが楽しめるという優れものなのだ! 肉でも魚でも野菜でもなんでもこいだぞ?」
剣を打った鍛治師が見たら泣くぞ!?
「おいしい、おいしい!」片手におむすび、片手に串に刺した魚。
どっかの無敵幼女の様な人魚である。
親が見つかればその時点でさよならだが、こうして俺たち一行に更なるメンバーが加わったのであった。
ただ、一話分漂流してるだけ、という