仲間ってなんですか?
仲間が増えます
ちゃっちゃらっちゃちゃりらり~ん♪
『おにぎりはレベルがあがった。HPが24増えた、OPが32増えた、力が2上がった、賢さが3上がった、素早さが1上がった・・・・』
「ふむ、レベルが上がったようだな、で、次の具はなんだ、是非出してみてくれ給え! ほら、ハリー、ハリー!」
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勇者に連れられた俺は、意外と近くにあった古代遺跡と言う名のダンジョンにやってきていた。
あの後、おむすびが食べ物だという事を見破った勇者に召喚させられたまでは良かったが、すっかりとおむすびを気に入った勇者に気を失うまで塩むすびを召喚させられ続け、一応は謝ってはくれたものの腹の虫を盛大に鳴らして催促を受け、また召喚、どうやらOPという数値がゼロになると気を失うというのが分かるまで3回気絶するハメになった。
自分自身では数値が見られず、勇者に見てもらわないと分からないのが厄介だ。
しかも何故か名前が「おにぎり」になっているらしい。
漢字の「鬼斬」とかなら許容範囲だが平仮名で「おにぎり」である。
勇者からも「オニギリくん」と呼ばれている。
なんか冴えない4コマ漫画の主人公のようで悲しい。
ちなみに気絶している間にOPはチャージされるらしく、満タンになると目を覚ますのだという。
その後、移動してこの遺跡に。
そして、リアルパワープレイングしているのが現在の状況だ。
最初のレベルアップで「しっとり」と「パリパリ」の二種類の海苔が付けられる様になり、その次のレベルアップで塩鮭の具が追加された。
レベルアップすれば、新しい味、そしてOPが増えて召喚出来るおむすびが増えるという事を理解した勇者の目は、恐ろしいほどにキラキラと輝いていた。
絶対、初心者が遭遇しないというか、遭遇したら人生終わりっていうレベルのモンスターをガンガンと狩っていく、勇者。
パーティ扱いで自動的に経験値が貯まり、ガンガンレベルアップしていく俺・・・。
一見、寄生プレイのようだが、戦闘、レベルアップごとに、今の様におむすびを召喚させられているため、一方的な負担を押し付けている訳ではないのが救いだ。
とはいっても戦闘に関連した数値はほとんど一桁しか上昇せず、ヒットポイントと、おむすび召喚のためのOPだけが急速に上昇しているのは悲しいものがある。
せっかくの異世界、それに男の子なんだから「俺つええー!」願望は俺だってあるのである。
あ、そうそう、自称・勇者ですが、生物学上は女性でした。
ボロボロの布を遺跡に入ってから脱いだら、まあ髪がボサボサ過ぎて顔は良く分からなかったんだけどね(ま、口元見る限り不細工ではないかな?)、金属鎧の胸に二つの突起、それも上げ底とか見栄はってんで無ければご立派な拝んじゃうサイズ。
・・・ただねぇ、最初が最初だったし、その後も食欲優先というか、レベルアップする→おむすび召喚量が増える→極限まで召喚させられる→気絶→起きると食い尽くされている→更に召喚請求・・・を数セットとかやられるとねぇ。
色気とか、女らしさとか、さっぱり感じませんわあ。
いや、これは女じゃなく「腹ペコ勇者」ってカテゴリの生き物だな。
フィクションの腹ペコ系は可愛いが、リアルだと、しかもその負担が自分に来るとそういう感情は持てないな。
これが料理作るのが好きで、食べた人のおいしそうな顔を見るのが好きなんて、女性から見た理想的な(都合のいい)男子なら別だが、俺はわけわからんチート(?)で召喚してるだけである(しかも召喚し過ぎると気絶する)
。
レベル上げに協力してくれてると考えれば感謝してもいいはずなんだけど、清清しいまでの自分の欲望優先っぷりに、そんな感情も天空の彼方に消え去ってしまった。
「増えた具は・・・これは(ニヤリ)召喚!」
「今度は何だろう、楽しみ・・・・・・お、お茶を、お茶をくれっ! な、なんなんだ、この酸っぱいものは!」
「これぞ、梅干、日本人のソウルフードのひとつ!(外人さんとかでも梅干苦手な人多いって言うしな、たまった鬱憤をはらさせて貰うぜ!)」
「・・・あ、でもこういうものだと理解して、おむすびとのバランスを考えながら食べるとおいしいな、うん、これもありだ!」
・・・な・・・んだと・・・。
おむすびの具トラップ上位の梅干を軽くクリアするとは・・・おそるべし、勇者!
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その後も勇者による順調なパワーレベリングで俺が召喚出来るおむすびの具も7種類まで増えた。
塩鮭、ツナマヨ、焼きタラコ、梅干、鳥そぼろ、桜でんぶ、そして納豆である。
梅干をクリアした勇者であったが、第二の刺客「納豆」には「うぼぁあ」という顔して、それでも勿体無いのかポリシーなのか吐き出さずに完食したが、「これは次からは無しで」と涙目だった。
少し、すっとしたが、その後、別の具で気絶3回(OPが上昇してるんで当初なら8回分相当)のおむすびを召喚させられたから、事態はあまり好転していない。
食後のお茶を飲みながら満足そうな顔をしている勇者を横目に自分の分のおむすびを召喚して食べる。
あまりにも召喚されたおむすびを見過ぎて食欲が失せてたんだが、流石に腹が減ったのだ。
「そう言えばオムスビくんは何か武器は持っていないのかい?」
「クーゲルシュライバーくらいしか持ってませんねぇ。」
「な・・・なんか強そうな名前だね。」
「これなんですけどね」とポケットからボールペンを出して見せる。
「魔法の道具かい?」
「単なる筆記具です。追い詰められれば対人とかなら目玉に突き刺すくらいは出来るかもですが・・・。」
「そ、そうか・・・すっかり世話になってしまっているし、予備の武器で良ければ余っているものがあるから君にあげよう!」
おお、勇者だもんな、色々、一般人が持ってない様なものとかも持ってるかもしれない。
「これが炎の剣、これがアイスブランドで、これがダークブレイド、これが雷の槍で、これが・・・・・・。」
ガシャガシャと伝説級らしい武器を積み上げていく勇者、しかしながら俺の視線はそれらが出てきた小汚い袋に釘付けだ。
「その袋って、もしかして重さとか無視していくらでも入るってヤツですか?」
「流石にいくらでもとはいかないが999種類のアイテムを最大99個ずつ入れられるな。」
「そ、それって売ってるんですか?」
「いや、これは勇者に選ばれた時に授かったものでな、売っているものは最大で99種類9個ずつだな。それでもちょっとした家が買える値段だぞ?」
流石、勇者汚い。
そしてファンタジー世界、世知辛え。
結局、ここでも「金」か!
剣持って「俺ツエー!」とか魔術で「ふっ、今のは~」とかは無理にしてもさ、無限道具袋とかアイテムボックスとか憧れるじゃん、やっぱり?
ん?
そんなもの持ってて、飲み物や食い物切らしたの?
「保存食? 当然、買ったぞ。でもな、戦うと腹が減るだろ? 食べると喉が渇くだろ? これまで手に入れた武器や防具は簡単には手放せないし、アイテムでも捨てられないものがある、袋の中を全て食べ物に、という訳にもいかんのだ。」
燃費悪すぎだろ、勇者?
国の食料食い尽くされないように旅立たせた、なんてオチじゃないだろうな?
まあいい、今は武器を見せてもらおう。
おお、やっぱ本物はカッコいいな!
え? ちょっと持ってみるかって?
おおお、すげぇ・・・・・・・・・重い。
水平に構えるのは無理だし、担ぐようにしても両刃だから自分を切っちまう。
「なんか、軽いのないですかね?」
「それなどは魔力のおかげで同じ大きさの鉄の剣より大分軽いのだがな・・・それより軽いとなると・・・これはどうだ?」
・・・・・・肥後之守?
「聖なるナイフだ。神殿で授かったものなのでな・・・流石に食事などには使えないし、少々困っておったのだ。」
いや、普通、聖なるナイフって、なんか高そうな金属使って、飾りもあって見てくれもいいものじゃないの?
「ありがとうございます。また、街に行ったら何か探すと言う事で、今はこれを借りさせてもらいます。」
「いや、あげてしまっても構わないのだがな、律儀なのだな、オニギリくんは!」
いや、これ、役に立つから捨てなかったってより、もらった相手が相手だから捨てられなくて困ってたものでしょ?
「私の場合、鎧などの効果の方が強いので余り意味は無いが、悪しきものから身を守る助けになると言われている。普通の武器では相手に出来ない悪霊なども斬ることが出来る・・・・・・そうだ。」
「そうだ」って思い切り伝聞・未確認情報じゃないっすか?
まあ、この辺のモンスター相手じゃ、もっと強い剣でも力不足で倒せないどころか倒されないことすら難しいですけどね。
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更に勇者に連れられて奥へといくと、開けた空間に出た。
「これはお約束だとヤバいパターン!」と後戻りしようとした俺の目の前で通路は塞がった。
赤く縁取りされた黒い炎が人の形を取った様な、要は俺がどんだけレベルアップしても敵いそうも無い相手が現れた。
勇者が手で「下がってて」と合図してくる。
当然、俺は部屋の隅に下がるが、見てくれから判断して、火の魔法を使うか、火を飛ばしてくるか、火を噴くかしそうな相手だ。
座り込んでしまいたいところだが、立った状態でいつでも避けられるようにと備える。
勇者がこれまでは使わなかった楯を左手に構え、剣を振るう。
どわっ、ダメージ受けただけでも火が飛んでくるのかよ!
て・・・うわっ、直撃コース!?
こなくそ!
「お茶ぁ------っ!」
・・・・・・ふう、ふう・・・死ぬかと思った。
お茶で消えてくれて助かった。
飛び散る分は普通の火と同じなのかな・・・色は黒いけど。
お茶に特別な力があるって感じはしないし・・・。
あー、やっぱ、安定の勇者さんですねぇ、事実上のソロであっさりと倒しちゃいました。
◆
◆
『汝の持てる物の中で最も価値の高き物を捧げよ』
ボスっぽい、炎人間を倒すと床に光が降り注ぎ(どこからだよ!)祭壇っぽいものがせり上がってきた。
「私の場合は、やはりこの剣だな!」
スパスパと敵を切り裂いて来た剣を勇者は何のためらいもなく祭壇に置いた。
光に包まれ微妙に外観が変化する・・・パワーアップイベントですね。
ひねくれたゲームだとここで最強武器ボッシュートなんて事もあるんですけどね。
無事に済んでなによりです。
「オニギリくんも何か置いてみるといい、きっと今後の役に立つ!」
俺の持ち物で価値の高いものねえ・・・やっぱ、スマホかな?
まんまじゃ充電器ないし、もしかしたら魔力とかそんな感じので動く様になるかもしれない!
祭壇にスマホを置く。
食べ物でないせいか勇者の関心は薄い。
スマホが光に包まれ・・・うおっ、まぶし!
「じゃんじゃじゃ~ん、みんなのアイドルスマホ妖精のスマ子ちゃんだよ~、だ~れだ~? 東○キャラかよ!? って言ったのは『祟るゾ』って、そんな能力ありませ~ん♪ あれあれ? ご主人様、ノリがわ・る・い・ゾ? さんざん私の体を弄繰り回したり、口を近づけて囁いたりしてたじゃない~?」
妖精?
スマホ本体の所々に黒いラインの入ったパールホワイトのレオタードと手袋とブーツを身につけ、ホログラム箔の様な不思議素材系の羽根を生やした幼女から少女への永遠の発展途上系というか、こういうのは二次元だけにしてくれと言いたくなる、貧乳と言うステータスを備えた存在が俺の目の前に浮いていた。
ふぁ、ファンタジーだ・・・なあ?
「この世界初心者のご主人様に最低な、じゃなかった最適なパートナーとして『私、爆誕!』おはようからおやすみまでしっかりサポートしちゃいますよ~、ただ、夜の生活は勘弁してネ?」
あー、今考えたら聖なるナイフという名の肥後之守置けば良かったじゃんなぁ・・・。
「ああ~? 無視ですか? スルー検定1級ですか? そんな事するとサイトの閲覧履歴公表しますよ~!」
ごめんなさい、それだけはやめて下さい、お願いします。
ちゃうんや、「見られる」道具があるのに見ない方が不健全やろ?
男の子なんやから、しゃあないんや!
「似非関西語とか、人格崩壊するレベルですか? 別にピー----がピー----でもいいじゃないですかね?」
「うん? なんのことかは分からないが、これから旅の仲間になるということだな、賑やかになっていいではないか!」
「ですよねー、宜しくお願いします、勇者様。てか、異世界でいきなり勇者のお供とか、ご主人様もなかなかやりますね!」
こうして俺はスマホの妖精(自称:スマ子)を仲間にした。
主人公にとって残酷、というか悲惨な描写でした