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終焉の部隊  作者: 一夜
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第3話


 澪次と深紅は音をたてずに階段を上がり、その後ろをカインとティアーズが警戒しながら二人に続く。

 深紅がハンドガンなのに対し、澪次達NBDUは連動式小銃であることから、いかに偵察に適応するか、いかにBiohazard Infect Human 《生物感染的人類》―― B.I.H《感染者》を殲滅する事を念頭に置いたかの違いが分かる。


「そういや思ったんやけどアジアの様子は大丈夫なんか?」

「……分からない。日本国防支部の話では極東圏国の4分の1が壊滅してるらしい。――今のところ完全に耐えられてるのは日本、そして中国だけみたいで後はギリギリのラインで堪えてるけど、それも時間の問題だ」

「成る程な。澪次はロスに来てよかったんか?日本支部なんやからアジア圏を防衛せなあかんのちゃう?」


 国連軍の中にはNBDU以外に警察機動隊、情報管理部といった複数の組織が設立されているように、そのNBDUにもユーラシア支部、EU支部、豪州支部、中華防衛支部、日本国防支部、北米支部といった各圏域の防衛を義務付けられた支部が設立されている。


 ――澪次はその日本国防支部に専属しているのだが。


「そりゃ母国やその近隣諸国の安否も気になるよ。――でもNBDUここにいる以上任務を優先しなければいけないしね。別に嫌々って訳ではないから。本部の命令は世界のためになるってことは今まで遂行してきた僕達がよく知ってる」

「そうなんや。でもまあ澪次だけ別行動っちゅうわけにもいかんもんな。見たところ複数の支部から構成された部隊のようやから」

「「うん。彼らだって自国が心配なのは同じ……ッ!?――深紅!」」


 澪次の注意に深紅は即座にハンドガンを前方に構え、ティアーズがその方向を高性細光ライトで照らし出す。


「――盲点だったな」


 照らし出された物を見て澪次は無表情に呟く。

 そこにいたのは犬。

 いや、正確には犬の形をしたゾンビがこちらを睨み付けていた。


「動きが鈍いやつらならここには入ってこれはしないとは思っていたけど……犬のゾンビは計算外だ」

「B.I.H(感染者)が人以外に噛みつく例なんてあらへん。――とすればあれは空気感染したか……あるいは」

「人為的にBiohazard Infect Animal―― B.I.A(感染生物) にされたか、ですか?」


 話を聞いていたティアーズが予想したことを訊ねると澪次と深紅は頷いた。

 このビルでもこういったB.I.A に対する防衛システムは内蔵されてない。戦略兵器に対する対応性はあるものの、あくまでB.I.Hのような人型のゾンビにしか適応されていないかだ。

 おまけに小柄な為、些細な隙間からも侵入できるため今どこに何匹潜んでいるかも分かりはしない。


「油断するな。犬とは本能的に噛むことを習慣づけられている生物だからな。それにおいては人間より厄介だ」

「そうやね。にしても犬にまでこんなことする奴の気がしれんわ」

「目的のためには手段は問わない、ねえ…。相変わらずヘドがでますよ」


 澪次、深紅、ティアーズは正面のB .I. Aを注意深く観察し、カインは他にもいないか周囲を見渡す。

 チームの中で聴力が鋭いカインは、他にも吐息や鼻息の音を聞き取っていたからだ。


「――少なくとも他にも4、5匹はいますね。どうします?コイツら結構腹すかせてるみたいですよ」

「どうもこうもないさ。人を脅かすなら野犬でも駆除されるんだ。ならゾンビであってもなくてもやる事は同じだろう?」

「せやな。かわいそうやけど感染を拡大させるわけにはあかんし、ここでアウトしてもらおうな」


 話が決まると澪次とティアーズ、そして深紅は銃器をしまい、それぞれアーミーナイフとクナイを構える。

 始めにティアーズが切りかかるが、B.I.Aは素早い動きで横に飛びずさり避けられてしまう。


「逃げ足だけがコイツらの十八番ですからね。スタングレネードを使います!目を塞いでいてください!」


 そう言うとカインが小石ほどの鉄塊を放り投げ、後ろを向いて目を閉じた。

 ――瞬間、爆ぜるような閃光が空間を舐めつくし、途絶えると澪次と深紅は視力を奪われ右往左往しているB.I.Aの頭部を突き刺した。


「いい判断だカイン。この狭い空間でB.I.A相手ではこちらに部が悪い」

「こちらもクリアです!」


 スタングレネードによる閃光は暗視眼鏡を破壊する為、外した澪次とティアーズが状況を確認する。


「そんな兵器あるんやったら先に言ってくれへんか……うーん、視界が真っ白で何も見えへん」

「「「………」」」


 頭を押さえながらぶつぶつと呪詛のように三人に呟く深紅に、澪次達は乾いた笑いを浮かべながらひそひそと輪を作って話し合っていた。


「隊長…あの様子からして彼女」

「うん。もろにグレネードの閃光を直視したね」

「……にしてはB.I.Aの頭部をピンポイントで刺してませんでしたか?」

「いくら奴らの視力が無くなったとしても…」

「――まあ、それが深紅……だし?」

「「……成る程。さすが暗部」」


 疑問系で何の説得力も無い澪次の返答だったが、二人は何故かそれだけで納得してしまう。

 正規の軍隊と暗部の訓練はそれほど系統が違うのだろう。


【δ1よりδ3,4,5へ。ビル内部にB.I.Aを確認、δ2と通りすがりのエージェントとこれを掃討した。各自状況を報告せよ。『通りすがりは酷いで』……ごめん】

【………………δ3よりδ1。こちらは異常ありません】

【………………δ4よりδ1。同じく異常ありません】


 通りすがりの女性が非常に気になるのか、応答にしばしの間があくδ3と4。

 しかしそれは続く無線に中断された。


【――δ5より報告。目前の通路にテロリストらしき武装兵が複数。恐らく議員が籠城しているエリアに続く通路だと推測される】

【――δ1よりδ5。了解した。δ5はそこで待機し、敵の動向を見張れ。δ3とδ4は五階の階段に向かえ。そこで合流する】

【【【ラジャー】】】

「そうと決まれば――」


 澪次は無線を切ると端末を取りだし、外部にアクセスしはじめる。

 本部を経由するように回線を繋げると、もはやすっかり覚えてしまったシグナルNo.を入力する。 

 そして数回のコール音の後にそれは出た。


【こちら機動隊官舎五号室情報assistant雨宮つぐ――ってぇぇぇ!!?】

「………毎回驚きすぎ。二時間程前に回線したばかりじゃない」

【みゅ~…ごめんレイくん。それでどうしたの?】

「ビル内部の構造データを送るから、悪いけど比較的障害の少ない最短ルートの案内頼めるかな」


 そう言って端末にこの高層ビルの構造が記録されたチップを挿入する。

 これは内部に入ったとき、中央フロアに設置されてあるビル案内装置のコードを読み取り、それを澪次が図面化したデータが内蔵されているチップである。


【……すごいhigh technologyな建物】

「対爆用に建てられた国連議会用の建造物だからね。それで、頼めるかな?」

【――うん。これだけ詳細なデータなら大丈夫だよ。任せて】

「さっすがつぐみや!頼りにしてるで♪」

【―――ふぇ?え、え、えちょっとなんでみ】

「では行くぞ!」


 何でそこに深紅がいるのか?――とつぐみがパニックに陥りそうなのが予想でき、面倒くさい事になりそうだっので澪次は即座に会話を切った。



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