白い部屋の中へ
周りの景色はゆっくりと流れ、火照った頬に冷たい風があたる。
一定のリズムを刻みながら、鼓動と足音だけが静かに響いた。
タッタッタッタ トットットット
行き先は決めず小さな目標を立てながら、自分のペースでゆっくりと前へ。
朝方の冷たい空気を胸一杯に吸い込んで、白い息を小刻みに吐き出しながら。
タッタッタッタ トットットット
自分の足音だけが静かに流れていた。そんな私の前を走る年配の同姓。
私よりもかなり上の様だが、軽快に熟練されたフォームで走っている。
後姿なのでよく分からないが感じの良い走り方、私は挨拶をしようとペースを上げた。
年齢的にもこちらの方が有利と思いすぐ追いつけると思っていたが、不思議と距離は縮まらない。
先程からペースを上げるが追いつけない。
(趣味のジョギングじゃなく本物のランナー?)
逆に距離は開き始めいつの間にか見失ってしまった。
仕方が無くペースを落とし呼吸を整えながらまた走り始める。
タッタッタッタ トットットット
今度は後ろから近づく足音に気づき振り返る。自分よりも若い同姓がすごい勢いで近づいてくる。
元気の良い走りだなと感心してしまう程である。自分も負けまいと少し速度を上げてみた。
先ほどの年配の人もこんな気持ちだったのかなと思い返し苦笑する。呼吸を整え更にペースを上げた。
しかし、相手との距離が開かない、足音は近くに感じる。
振り返るが距離はまだあるように見えた、更にペースを上げたが呼吸音さえも聴こえてくる。
振り返れば相手を確認できる距離、振り返る事に躊躇し更に速度を上げた。
必要なかったかもしれない、道を譲っても良かったかもしれないが、すぐ近くの横道に駆け込む。
それを追うかのように相手も横道に入ってきた。
怖い、止まれない立ち止まれない、更に奥へと道を右に左に走りながらペースを上げる。
タタタタッ トトトトッ
いつの間にか狭い路地に迷いこんでしまい、高い塀が取り囲み薄暗い道にでた。
落ち着かず息苦しい、不慣れなペースで走ったからなのか息が乱れる。
何とか此処を抜け出したい、私は出口を探して走り続ける。
その頃には相手も居なく足音は聞こえない。それでもペースを落とさず出口を探した。
ようやく路地の向こうに広い道を発見し私はそこに向って更にペースを上げ走り始める。
広い道に出た瞬間、路地の暗さになれた視界に光が差し込み目がかすむ。
私は安堵し、そこで目を覚ました。