僕の病気 2
「頑張ってくるね。」
そう言って春樹は手術室に入って行った。今日は夫は仕事を休んでついていてくれている。春樹は最初夫がいることに戸惑っていたが、やはり不安だったようで、夫がいることに安心していたようだった。嬉しそうにはにかんで、夫と話していた。とにかく、今日の手術の結果で出る病名が、命にかかわるものではないようにと、夫とともにただただ祈っていた。検査結果が出る日には、夫がまた休みを取って、一緒に医師の説明を聞いてくれると言ってくれたので、安心した。もし悪い結果が出た時に、私一人でそれを受け止めきれるのか、私には自信がなかったからだ。
手術が終わって、麻酔から覚めた春樹の最初の言葉は、お腹すいたーだったので、夫と一緒に笑い転げてしまった。それを聞いて私は根拠もないのに、大丈夫春樹は悪い病気なんかでは絶対ないと、そう思えた。でも、人生はそんなに甘くなかった。検査結果が出たのでと呼び出された病院で医師から告げられたのは・・・。
「春樹君の病気は、やはり悪性リンパ腫でした・・・。悪性リンパ腫は小児がんの一種で・・・」
という言葉だった。けれど私には、小児がんの言葉の後からは何を言われているのか、何を言っているのか、理解できなかった。いや、理解したくなかった。無意識に隣に座っている夫の腕を掴んでいた。自分の体の震えを止められぬままで・・・。
夫に抱えられる様にして、医師のもとを後にして、このままでは春樹のもとにつれていけないと思った夫に、車の中につれて行かれた。
「しっかりしなさい。まだ死ぬと決まったわけではない。治る可能性だって残っている。だから、私たちがしっかりしないといけない。そんな顔で春樹に会えるのか?」
夫の言葉にハッとした。春樹に病気のことを伝えるわけにはいかない。自分がこんなでは、春樹に心配をかけてしまう。少し冷静になった私に夫が言った。
「俺だってついている。今まで、春樹についていてやれなかった分、これからお前と春樹を支えていく。少し前から考えていたんだ。仕事が落ち着いてきたこともあって、これからは仕事を部下に任せて、春樹との時間を多く取っていこうって・・・。その矢先にこんなことになって、皮肉だけどな。俺は春樹は治ると信じている。それに、春樹が治るって言うならなんでもする、してみせる。幸い、今まで仕事人間だったおかげで、金はたまったしな・・・。そして、治った春樹とこれまでの分を取り戻すくらいに遊んでやるんだ。」
そう言った夫の目じりには、涙がにじんでいた。
「私も信じる。春樹はきっと治るって信じる。あなた、頑張りましょうね。」
こうして、私と夫と春樹のがんとの闘いが幕を開けた・・・。