第一話 死が朽ちり異世界
死に囚われる人々は、もう居ない。
異世界、そう呼ばれる世界には死は叶わないのだから。
ケイメイ
青年【鶏鳴ニヒル】は机に向かいながら一考している
大学生は〝人生の夏休み〟と言われているが、理系はどうだろうか、と。
理系の道を選んだ人間なら一度は考える事だろう。だが、ニヒルには少々センシティブな話題だったろう。
「はぁ、あの時もっと頑張ってたら正解を知れたのに」
目を逸らしたくなる現実に敢えて皮肉を込めた。
「はぁ、風つえーな」
外の景色を意味も無く眺める。一応、外を眺める意味はあったが。数秒目を虚ながら眺め、そして声を発した。
「ん…あ!!忘れてた、定期取りに行かなきゃ。」
定期とは電車定期PASMOのこと。ニヒルは予備校に通っている為PASMOを定期購入しているのだが、壊れてしまい新しいのに交換をする為に駅まで行かなければならない。だが、その期日が今日までであった。
「いけねぇ、こういうところだよな」
悲しい得心を行い気分が落ち込みながら重い腰を上げ身支度を始めた。
「この際予備校辞めるってのもありか。はは、親に怒られるか」
ニヒルの家族構成は両親、ニヒル、猫一匹である。両親は予備校や来年の大学費用を貯める為に共働きしている。その事を考慮した結果ニヒルは心を曇らせた。
「、、、冗談でも、いけなかったか、今の」
「今日はこっから大雨になんのか。」
玄関の前でスマホで天気予報を見た。
「でもこのAI結構外すし、降んなかったら傘邪魔だしどうしようかな」
2028年6月 天気予報を見るのはAIが主流、だが当たる確率は前時代とさほど変わらない。
「まあ駅で定期貰うだけだし自転車だよな。なら傘じゃなくてカッパか。ん、それほど邪魔じゃねーか」
良い案が決まり少し口角を上げながらカッパを着て玄関から去った。
いってきます
駐輪場に向かってる途中、ふとあることに気づく
「ヘルメット、、、、、、、
、、、、、、、いいかまあ」
ニヒルは今、人生の分水嶺を選ぶ
「行くか」
ペダルを漕ぐ、ただ、漕ぐ。
「覚王山だから大体40分くらいか」
覚王山、名古屋市にあるそこそこの規模の駅だ。電車に乗る時はいつもここを始点とする。
漕ぎ始めて25分ほど、雨が降り始めた。最初は視界が少し見えづらくなる程度だったが、1分、また1分経つごとに降り注ぐ雨は強まった。
「ザーザーだな、AIに感謝しとかなきゃなぁ」
人と車の通りが少ない道で颯爽と漕ぎながら口走った。
そうしていると前方から自転車が走って来た。
時速30キロくらいだろうか。ニヒルより少し速く走っている。豆粒に見えた前方の自転車も瞬きを3回したらハッキリと造形が見えた。
ニヒルは車道が狭い故歩道を走行しているが相手も同じく歩道を走行している。
ニヒルは順走だが相手は逆走なので「どいてくれるだろ」と思った。運悪く相手も同じようだった。
雨のせいか。避けるタイミングは十全にあったが両者とも避けず…
恐ろしく速くぶつかった。
鈍い音が二種類。
自転車と人間の一種類ずつ
自転車は無事だった。相手のは。
体の方は無事だった。相手の方は。
ニヒルは…血が流れていた。
事故から3秒後、ニヒルは目を開く
「どこだ、ここ」
生きていた。だが、見覚えのない広場に立っていた。10メートルくらいの壁に囲まれ壁外は見えない仕組みになっている。広場の大きさは半径60メートルはあるかないかだ。
広場には数百人はいるがそれ以外の生き物はいない感じである。広場とは言ったが噴水やベンチなどはない。屋外ミニマリスト部屋と言えばいいか。
「え、、、なんだこれ」
ニヒルは事の状況に頭が追いつかず困惑するしかなかった。いきなり風景が変わり何もかもが理解不能。
他の人間も困惑してるのだろうか。皆困惑の色を隠せていない。
この場から立ち離れて良いのか、と思った瞬間、どこかから声が聞こえた。
“皆、おはよう。聞こえてるかな?僕はこの世界のマスターであるユイビだ。”
「!!??」
唐突だった。人生で1番驚嘆したはずだ。脳内か?あるいは脳に近いどこかのスピーカーか?なんとも不気味な声が聞こえた
周りの人間も騒ついている。他の人間も聞こえているのだろう。
“早速だが君たちには210年生きてもらう”
「え!?210年、って」
210年、現代ではどんな奇跡が起きようと生きれない年月だ。
「210年生きる、って何言ってんだ?」
“言葉の通りだよ。君たちには210年生きてもらう。その後にゲームをしてもらう”
「ゲ、ゲーム?んなぁ、どういう」
次から次へと理解不能な発言に皆は頭を悩ませた。ここはどこなのか、どういう状況なのか質問する者もいるがフルシカトされている。
“ゲームだから勿論賞品はある。ゲームで一位になった者は何でも願いを叶える。何でもね”
「な、何言ってんだ」
皮肉か、周囲の空気は嘲笑の渦に巻かれる。この場には子供は少数、大人が多数であるためこの流れはおかしなものではなかった。何でも叶えるなんて神様でも不可能だろう
“酷いな。嘘ついてないのに。君達の願いは死ぬことなんだからさ。”
勘のいい人間は点と点が繋がった、ニヒルは勘が良かった
“それじゃ、また210年後に”
「210年って、俺死んでるだろ」
ニヒルは余裕のないため息をつく。ニヒルはまさか、と思っていた事が、すぐに現実に現れた。
「ああーーーーーー!!!!つかない!!体に傷がつかない!!!!!」
どよめいた人間は26歳のサラリーマン風の男性である。隣の人とぶつかり転び膝を擦りむいた、はずだが膝に傷はない。彼は26年生きた中でどれほどの転び方をしたら傷がつくか知っている。今のは確実につくはずだ。
「そんな、そんな!!」
彼の動揺に皆も感染するように動揺する。事の真偽を確かめるため自傷行為をする者が複数人いた。皆傷はつかない
「本当だ、傷がつかない」
ニヒルは動揺をする心を必死に抑え死に物狂いで思考を巡らせる。パニックになっても何も得られないと知っているから。
「傷がつかない、このことから分かる事は」
寿命がなくなる、傷がつかないだけでその結論には達するはずがない。傷がつかないだけで病気や老化はあるはずだろうと思った。だが、ニヒルは【病気も老化もおそらくない】と思い至る。
「210年後ゲームをすると言っていた。老化か病気があるなら参加者が0になる」根拠はユイビと名乗ったゲームマスターの言葉。だがこの言葉を鵜呑みにするしか今を生きるしか無い。この超常的状況においては。
そうこう考えてるうちに外の外壁が倒れ落ちた。外壁の向こう、外界は和洋折衷と呼ぶに相応しい異界だ。例えが効かない街、と言えばいいか。
街の中で一際高い建物に過ぎた年月が書かれている。11分経過と書かれている。
外壁が壊れたことにより一人、また一人外界に向かう。ニヒルは興味を示さない。いや、示してはいけない。外界は広場とは違い生き物がおり草や木が生い茂る。あの中で210年生きていけば例え体と脳に老化がなかろうと脳の情報量過多で精神崩壊は免れない。
「どうする、刺激のない、つまり体から感じられる情報量を限りなく少なくする方法を早く考えないと」
目隠し、耳栓は必須だろう。空腹はおそらくないと仮定している。なんせ老化や傷がつかないのだから。
広場にある者たちは11人、皆確信を持ちこの地にいる。
もしゲームが個人戦ならこの11人が敵だろう。
どう生き延びるか、その事を考えているうちに、一つ大きな疑問を思い出す。ここがどこなのか、何なのか
「異世界、なのか?それともvrmmoとか、いや違うか。なら現実ってわけ、うーん、、、やめとくか。」
脳を壊す代物といち早く気づく。
それと同時に閃く。
「そうか!!」
心の中で叫び倒す。
210年後 広場はゲームの会場となり、21人の生存者の姿が見受けられる。外界で生き延びたのは13人、広場で生き延びたのは8人、4人を除き満身創痍でこの日を待ち続けた。
そして、遂にユイビの姿が現れた。
「21人か、まあまあだね。あー、結構余裕そうに生き残ってるのもいるのか。ならまあまあではなく、賞賛に値する」
ニヒルは満身創痍ではなかったが、余裕もあるほどではなかった。つまり四人のうちの一人。だが他の三人は余裕のさを垣間見得た。つまり格上だ。
格上と言える人間の内の一人が口を開く
「一つ聞きたい。なぜ210年前に何でも叶えると言った?何でもは無理だろ。俺たちを不死身に近い存在にさせた輩だとしても。一応言うが俺は死を求めない」
ニヒルは彼の言葉に同調する。そもそもこの中で死を求める者は少ない。元の地、家に帰るという目標があるのだから。
「まさか君、今日抱いてる感情が明日も同じだと思っているのかい?もしそうなら君はお花畑だよ」
「つまり俺が死にたくなると言いたいのか?」
「そうだよ」
即座に答えた。まるで未来を見ているかのよう
「俺は元の世界が210年先の世界で、知っている人間が皆死んでいると知っていても絶望はしない。」
「そんなことで絶望するなら210年生きてられないでしょ。君の想像している事のもっと先のことだよ、僕の言ってる事は」
満面の笑みで答えた。
「あ、一人だけとこんな長く会話してたら他の人間が不公平か。じゃあもう始めようか。210年生きた者だけが参加できるゲームを」
ゲームはこれより始まる。
ニヒル含めて四人は死を望んでいない。それ以外の多くも同じはずだろう…




