第34話:「新たな共鳴──想いを繋ぐスキルと、閉ざされた家族」
期末テストが終わって数日。
ようやく日常が戻ってきたはずなのに、俺の心は妙なざわつきを拭えないでいた。
──あの夜、VR空間で出会った“あの人”。
美しい魔法使いのアバターの奥に、俺は確かに感じた。何か、強く抱え込んでいるものを。
あの人は……間違いなくレイジの姉だ。
あの人が俺に対して嘘をつく意味がない。
確信がある。根拠は薄くても、直感が叫んでいる。
スキルツリーが示していた“家族を繋ぐ記憶”というルート名。
そこに浮かび上がったキーワード──《姉の異変》《妹の沈黙》《交差する兄弟の絆》。
そして“特別ミッション:家族を救え──二つの鍵を探せ”。
まるで俺に、あの姉弟の問題へ踏み込めと告げているようだった。
*
次の日の昼休み、俺は星花、アマリエと軽く会話を交わす。
「テスト終わってから、ちょっと疲れ出てない?」
「……え? そ、そんなことないよっ」
星花は少し驚いたような顔で微笑むが、その瞳の奥はどこか曇っていた。
“あのお泊まりの日以来彼女の様子はやはりおかしい。
もしかしたら怖い夢を見てそれに苦しめられてるのかもしれない。
アマリエはそんな星花の様子に気づきながら、そっと寄り添う。
「天翔さん、無理は禁物よ? 心の疲れは、勉強より回復しにくいんだから」
「うん、ありがとう……アマリエちゃん」
穏やかな空気が流れる昼休み。
だけど俺の意識は、やはり別の場所へと向かっていた。
──レイジ。そして、あの姉。
*
帰宅後、俺はスマホを手に取り、レイジへメッセージを送る。
『なあ、前にちょっと話してたけど……お前の姉ちゃん、元気か?』
少しして届いた返事は、どこか曖昧だった。
『あー、そういや俺、お前に相談したっけか。んー、まあ普通。あんま喋らんし、最近距離あるっつーか
正直、よくわかんね。ま、放っといても平気っしょ』
明らかに気にしてないフリだった。
……やっぱり、何かある。
彼自身が無自覚なら、家族の異変にも気づけないのかもしれない。
妹のことも、彼の口からは一切触れられなかった。
その夜、ネットの学習動画をBGM代わりに流しながら、俺はスキルツリーを起動する。
──表示が更新されていた。
【特別ミッション:家族を救え──二つの鍵を探せ】
《妹の病》《過去の代償》《交わらぬ想い》
(“妹の病”……?)
初めて見る単語に、息を呑む。
【情報取得済:症例No.0001──関係スキルツリー変異型による精神結合性疾患】
──世界でたった一人。
──現在治療法なし。
(これが……レイジの妹に起こってること?)
胸の奥が、ずしりと冷たく沈んだ。
彼女は誰にも言えず、だからこそレイジにすら距離を取っている。
*
夜。
俺は再び、VR空間にダイブする。
“セフィロト・ロビー”──仮想の夜空が広がる、静かな図書空間。
そこに、彼女はいた。
長い髪。冷えた目。美しい魔法使いの姿で、俺を見て──ふっと、小さく微笑む。
「……また来たのね。ふふ。やっぱり、そうなると思った」
「前に言ってた……レイジの姉って本当なんだろ?」
彼女は答えず、少しだけ目を伏せた。
それが、なにより確かな肯定だった。
「私は──“蓮華”。あの子の、姉よ」
……ようやく、名前を知ることができた。
「レイジはまだ何も知らない。……妹のことも、私のことも」
その声は震えていた。
無力感に近い、痛みのこもった響き。
「あなたは普通じゃなさそうだからお話しするけど、妹は難病なの。そして妹の病気は、もう普通の医者ではどうにもならない。
スキルツリーという現代科学の外側が絡んでいる限り、“人間の理屈”では届かないの」
「だから誰かに頼ったのか。──“代償”を払ってまで?」
俺は推測で物事を話す。
しかし同時に彼女は、その推測に驚きと感嘆の表情を見せた。
そして蓮華は、静かにうなずいた。
「驚いた。そんな事まで知ってたなんて。本当にあなた何者?」
「ただの平凡な男子高校生だよ。まあ……敢えて言うなら少しだけ人とは違う人生を歩んでる17歳。かな」
蓮華はその言葉に「ふふっ」と笑った。
その姿は誰をも魅了する美しさが兼ね備えられていた。
「だから私は、もう彼らとは関われない。
私が関わると、全部が崩れてしまいそうで……こわいの」
だけど、俺は言う。
「それでも、誰かが繋ぎに行かないと……二人とも、本当に壊れてしまう」
その言葉に、彼女の視線がわずかに揺れた。
──その瞬間、視界に通知が浮かぶ。
【ルート進行更新】
《蓮華ルート:好感度 +23》
【スキルツリー更新──新スキル取得条件達成】
新スキル:《サブリミナル・エコー》
──“微細な意識下の共鳴波を用いて、相手の感情や思考に揺らぎを与える”
(発動制限:対象との関係性が高い場合のみ効果あり/強制的な支配は不可)
(これは新たなスキル!?)
昨日の新スキルメンタルリンクと組み合わせれば……
(……これなら、届くかもしれない)
「……会ってほしい人がいるの」
蓮華が、そっと呟いた。
「──次に来たとき、連れてくるわ。あの子を、あなたに」
星の瞬きと共に、空間が揺れ、画面がゆっくりと暗転していく。
(もう……後戻りはできない)
目を閉じたその先に、また新しいルートが待っている気がした。




