第30話:「選ばれた未来──君を想うがゆえの、決意」(星花視点)
暗い。
何も見えないほどに、世界が深い霧に包まれていた。
でも、そこに――彼がいた。
「やめて……攻真くん、来ちゃダメ……!」
声は届かない。
彼はまっすぐに歩いてくる。私のほうへ、手を伸ばしながら。
その背後で、黒い枝のようなものが絡みついていく。
スキルツリーなんて知らない。だけど、それが“運命”を縛る何かだと、本能が告げていた。
そして、彼が私の名を呼んだその瞬間――
ズドンッ!
鈍く重い音。真っ赤に染まる彼の胸。
「────攻真くん!!」
私は彼の元へ走る。けれど足が動かない。
何度も叫ぶ。だけど、その顔はもう、笑ってくれなかった。
「大丈夫、星花。君を、選べて、よかった……」
そう言って微笑んだ彼の姿が、赤黒いルートの中へと消えていく――
*
「──っ……!」
目を覚ました瞬間、私は息を荒くしていた。
視界が揺れる。鼓動が、早い。夢だって、わかってる。
でも、あまりにリアルすぎて、胸が押し潰されそうだった。
(夢……だったんだよね……?)
静かな部屋。窓の外には淡い朝の光。
隣には誰もいない。……そうだ。攻真くんは、朝方、そっとリビングで寝るって言っていた。
私はゆっくりと体を起こし、掌で顔を覆った。
(なんで……あんな夢……)
胸が痛い。息が詰まる。涙がにじんでくる。
怖かった。ただただ、怖かった。
攻真くんが、私を選んだせいで、命を落とすなんて――
「そんなの……やだよ……!」
ポツリと、声が漏れる。
怖いのは夢じゃない。
あの夢で見たように、攻真くんが私のせいで傷つく未来が、本当に来るかもしれないという不安だった。
(好き……だよ。こんなにも、怖くなるくらい……)
改めて、私は気づいてしまった。
私は、桐谷攻真のことが、本当に、好きなんだ――と。
でも、それを伝えていいの?
私がそばにいたら、彼はまた苦しむんじゃないの?
あの夢は、その警告なんじゃないの……?
「……どうすればいいの、わたし……」
そう呟いた声は、まだ震えていた。
けれど胸の奥には、確かに灯った想いがあった。
それはまだ不安定で、すぐに消えてしまいそうな火だったけれど。
私は、初めて“この想い”を抱いたまま、朝を迎えた。
そして私は、静かに決意する。
(今日一日……ちゃんと、考えよう。彼と、どう向き合うかを)
遠くで、リビングのソファから寝息が聞こえる。
それだけで、少しだけ、心が温かくなった。




