第29話:すぐ隣の、恋心──止まらない想いと、一夜のぬくもり
夜の帳が降りて、家の中は静寂に包まれていた。
母はすでに寝室に引き上げ、妹の凛音も自室にいる。
星花と俺、そしてこの一つの部屋だけが、まだ起きている世界のようだった。
「ベッド使っていいよ。俺はリビングで寝るから」
そう言って立ち上がろうとした俺を、星花の声が引き止める。
「……ねえ、攻真くん。今夜は、そばにいてくれる……?」
その声はかすかに震えていて、強がりを少しだけ脱いだような響きがあった。
俺は迷わずうなずく。
「わかった。……じゃあ、ここで一緒に過ごすよ。床に布団敷くから」
「ううん……今は、そばに座っててくれるだけでいい」
そうして、俺は彼女のベッドの隣に腰を下ろした。
横になった星花は、布団の端を指先できゅっとつまみながら、こちらを見上げてくる。
「怖い夢、見そうで……。でも、攻真くんが隣にいてくれるなら、たぶん大丈夫」
その不安なまなざしを受け止めるように、俺はそっと彼女の手を取った。
ほんのりとした体温が、じんわりと掌から伝わってくる。
「何があっても、守るよ。だから安心して、星花」
彼女は小さくうなずき、目を閉じた。
──その瞬間、視界に柔らかい光が浮かぶ。
【関係スキルツリー進行:星花ルート】
《心の交差》《手をつなぐ夜》《0.3mの距離──深度上昇》
【好感度:+想いが揺れた】
“数値”でも“???”でもない、新しい表示。
まるでスキルツリーが感情そのものに呼応し始めているかのように。
と、同時に、その裏にノイズが走る。
【──禁忌ルート:観測断片発生──干渉不能】
【分岐抑制継続中】
(……あれは、まだ消えてない。でも今は──)
星花の寝息が穏やかになるのを感じながら、俺は静かに彼女の隣で過ごし続けた。
*
「……攻真くんって、昔から変わらないよね」
眠りにつく前、星花がぽつりとつぶやいた。
「え?」
「私が泣いてたときも、変な夢を見て怖かったときも。……いつも黙ってそばにいてくれた」
「……そんなこと、あったっけ」
「うん。たぶん、今でも同じ。だから……落ち着くんだと思う」
その声はやさしく、どこか懐かしい響きを帯びていた。
星花が上半身を起こし、俺の方に身を寄せてくる。
そして――おでことおでこが、ふわりと触れた。
「……鼓動、聞こえるね」
その距離、ゼロ。
俺の心臓が跳ねる。
「星花……?」
呼んだだけで返事はなかったが、彼女の瞳がしっかり俺を見ていた。
このまま何かを伝えようとすれば、何かが変わってしまいそうで。
でも、それを止めたくはなかった。
俺はそっとその額を撫で、距離を戻す。
「……おやすみ」
「……うん」
星花は布団に戻り、静かに目を閉じた。
その手はまだ、俺の手を軽く握ったままで。
その夜、俺は彼女の隣で、ひと晩中――
ただ静かに、鼓動と想いを重ねながら、目を閉じなかった。




