第27話:兄妹の距離、そして君を守る夜の約束
翌朝、目覚めた俺はまだ昨夜の出来事を引きずっていた。
(あれは……ただの分岐じゃない。もしかしたら禁忌ルート……)
昨夜関係スキルツリーに現れた特別ミッションは普通じゃない気がしていた。
エニグマの警告通り、進むべきじゃないのか!?
考えれば考えるほど不安になる。でも今は、現実をちゃんと見なくちゃいけない。
ふとリビングに下りると、妹──桐谷凛音がキッチンで朝食の準備をしていた。
「……おはよう」
久しぶりに交わす会話。梨璃栖の件以来だ。彼女ともう一度向き合う機会をと常に考えてはいるが、なかなか一歩を踏み出せないでいる。
「……お兄ちゃん、ちょっとだけいい?」
凛音が手を止め、真剣な表情でこちらを見つめてきた。
お兄ちゃん呼びが久しぶりすぎて思わず感動する俺。
「この前の、梨璃栖先輩の事なんとかなったんだね。私も勝手な事して悪かったと思ってる」
「ああ、お陰様でな。それにむしろこっちこそ。言いすぎたと思ってる。お前なりに、あのとき必死だったんだろ?」
小さな沈黙があって、でもそのあと、ふたりで同時にふっと笑った。
少しだけ、ほんの少しだけ兄妹の距離が縮まった気がした。
*
そんな昼下がり。スマホに一通の通知が届いた。
『from:天翔星花
ねえ、もしよかったら……二人きりで、テスト勉強しない?』
その文面に、心臓が跳ねた。
テスト勉強。もちろんそれが目的なんだろうけど、“二人きりで”という言葉が、やけに刺さった。
『もちろんOK。時間と場所、指定してくれたら行く』
すぐさま返事を送ると、待ち合わせは今日の午後、星花の家近くの図書館に決まった。
*
図書館前──
星花は白のブラウスに淡いベージュのカーディガン、そして膝丈のプリーツスカートという、どこか“真面目だけど可愛い”を地で行くような格好で現れた。
髪はゆるくまとめられていて、ほんの少しだけ揺れるアクセサリーが目を引く。
その姿に、勉強のはずなのに、俺の視線は何度も星花に吸い寄せられそうになった。
(可愛すぎるだろ……)
テスト勉強──
図書館の個室スペース。
向かい合うテーブルには参考書と問題集、そして、隣に座る星花。
「……でね、この問題、たぶんこう解くの。間違ってたら恥ずかしいけど」
「いや、合ってるよ。むしろ俺より速いな」
いつものツンとした態度が抜けていて、柔らかな雰囲気が漂う。
星花は髪を耳にかけながら、ちらりとこちらを見る。
「ふふっ、こうして一緒に勉強してるの、なんか新鮮かも。……うれしい」
その一言に、顔が熱くなるのを感じた。
「俺も……楽しいよ」
どこか告白みたいに聞こえてしまって、二人の間に静かな空気が流れる。
数時間も同じ場所でしかも二人きりで過ごしているせいでテンションが妙におかしかった。
……しかし、その空気は突然破られた。
星花のスマホが震えたのだ。
メッセージ通知の画面に映し出されたのは──
図書館に入る星花を、遠くから盗撮したと思われる写真。
「──っ、なに、これ……」
星花の手がわずかに震える。
まさか、ストーカー? 冗談じゃない。
その瞬間、俺の視界にノイズのような警告が走る。
【禁忌ルート:アクセス兆候検知】
続いて、あの“彼女”からの通知が届いた。
『from:Enigma
「そのルートは、もう限界を超えるよ──警告はしたからね」』
しかし、俺は……その警告を無視した。
(関係ない。そんなルールに、星花の不安を委ねるわけにはいかない)
俺は星花のスマホをそっと閉じ、彼女の肩に手を置いた。
「星花。……今日は、うちに泊まらないか?」
「えっ?」
「誰かがつけ回してるなら、一人にさせるわけにいかない。……俺が守るから」
星花は一瞬驚いた顔をして、でもすぐに小さくうなずいた。
「……うん、ありがとう。攻真くんがそばにいてくれるなら、安心できる」
そのとき、視界の端で再び赤黒いルートがちらりと揺れた──
だが今の俺には、何が正しいか、もう迷っていなかった。
(禁忌でも何でもいい。俺は、守るって決めた)
こうして、星花と俺の“お泊まりイベント”は、静かに始まろうとしていた。




