第23話:波打つ視線──星花の水着と、“観測者”からの警告
クロスリンク・パスの終了から、二日。
日常が戻ったかのように見えて、頭の片隅にはずっと、あの言葉が残っていた。
《星花ルートが“トゥルーエンド”だと、本当に思ってる?》
そして、スキルツリーの奥に浮かんだ──《禁忌ルート/接続不可》の赤い警告文。
(まだ、何かある。だけど……今は考えるのをやめよう)
今日はプール授業。高校生活の中でも数少ない、ちょっと特別な日だ。
男子更衣室では、水泳帽の位置を直しながら、何気ない会話が飛び交っている。
「桐谷、泳げるっけ?」
「一応、クロールと平泳ぎは……まあまあ」
いつものようで、どこか落ち着かない。
外に出ると、広がる青いプールと眩しい夏の光。そして──
「え、あれ天翔じゃね?」
「……やば、あんなに可愛いのに、品があるってズルくない?」
男子たちの視線が一点に集まっていた。
プールサイドに立つのは、天翔星花。
肩までの髪を軽く結び、シンプルなスクール水着に身を包んでいる。露出は控えめなのに、彼女の透明感が際立っていた。直射日光の下でも、どこか涼やかで清楚に見えるのは、たぶん“星花だから”だ。
「……隣、空いてる?」
気づけば、彼女が俺のすぐ横に来ていた。
「あ、ああ。どうぞ」
少しだけ汗ばんだ手がタオルを握りしめている。彼女の指先が視界に入り、心臓が跳ねた。
「なんか……男子の視線がすごくて、ちょっと落ち着かなくて」
「いや、そりゃ、あれだけ注目されたら……。ていうか……うん、似合ってる」
「……ふふ、ありがとう。君が言ってくれるのが一番嬉しい」
その一言で、今日の授業が特別なものに変わった気がした。
水中ウォーキングや、バタ足の練習。普段はだるいと思う内容も、隣に彼女がいるだけで、不思議と楽しかった。
──そして。
《未解放分岐が浮上しました──「観測者ルート/条件不明」》
視界の端に、新たなスキルツリーの枝が浮かび上がる。
その直後、ポケットのスマホがわずかに振動した。
休憩中、ふと確認した通知には、昨日VRで出会った“エニグマ”からのメッセージが届いていた。
「ねぇ……星花ルートが“本当の終点”だって、誰が決めたの?」
──背筋が冷えた。
その瞬間、視界の裏側にチラリと、昨日よりも濃く警告が映る。
《禁忌ルート/警告:接続厳禁》
(……俺は、いったい何に巻き込まれてるんだ)
波打つ水面のように、心が揺れていた。
けれど今、隣で笑う彼女の存在だけは──確かだった。
星花との距離がまた一歩近づいた第23話でした。
でも、彼女の笑顔の裏で動き出している、スキルツリーの異変と“エニグマ”の存在……。
次回からさらに物語が動き出します。
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