第21話:仮想に潜む真実──“彼女”は、知っていた
翌朝。クロスリンク・パスという大イベントが終わっても、教室は何事もなかったかのように静かだった。
──でも、俺の中では何かが明らかに変わっていた。
天翔星花との距離が、ぐっと近づいた。
あの日、夕暮れの下で並んで笑い合えたことが、夢じゃないと感じられる。彼女の声、視線、そしてあの小さな「ありがとう」が、今も心に残ってる。
……だけど、まだ「恋人」には届いていない。気持ちが通じ合ったと思える瞬間があっても、それは始まりに過ぎない。
そして──梨璃栖とアマリエのこと。
選ばなかったことで、どこか胸の奥に引っかかるものがある。彼女たちは今まで通り接してくれている。でも、どこか微妙に……空気が違う。
昼休み、星花がふと笑いかけてくれた。
ほんの少し照れたような、でも嬉しそうな表情で。
それだけで、俺の胸は不思議なほど温かくなる。
一方で、梨璃栖とのチャットは、どこかぎこちない。文面は明るいけど、絵文字が減っていた。アマリエも、柔らかな微笑みを見せてくれるけど、それ以上の距離は縮まらない。
(……全部、俺のせいだよな)
複雑な感情を抱えたまま、俺は放課後、気分転換のつもりでVRソーシャルゲームを起動した。
──
ログインすると、仮想空間の街が視界いっぱいに広がる。
「ログイン完了……っと」
軽くストレッチするようにアバターを動かし、人気の広場へと向かう。華やかなプレイヤーたち、チャットの流れ、浮かぶエモーション──まるで別世界だ。
そんな中、不意に声がかかった。
「おやおや、迷える子羊さん?」
振り返ると、そこには異彩を放つ美少女アバターがいた。真紅の瞳に黒のフード、細部まで作り込まれた精緻な衣装。その口元には、不敵な笑み。
「……誰だ?」
「誰でもなくて、誰でもある。そうね、“エニグマ”とでも呼んでくれたらいいわ」
その名に、背筋がぞわりとした。妙に印象に残る響き。どこかで……聞いたような。
「ねえ、君。関係スキルツリー、知ってるよね?」
「……!」
一瞬、時が止まったようだった。
(なんで──こいつ、スキルツリーのことを……)
「ふふっ、その反応。やっぱり君が桐谷攻真で、間違いないみたいね」
「どこで、それを……?」
「さあ? 表じゃない場所。たとえば……ダークな深海の底。真実が沈んでる場所よ」
(こいつ……なに言ってんだ? ダークウェブってことか?)
「私に出会えたあなたは幸運の子羊。しかし、幸運とは転じて災いにも変化を起こす」
口調がころころ変わる。芝居じみた語り口から、急にフラットな調子になったり、一人称まで変わったりする。
(仮想空間ではこんなに喋るが、現実じゃ……逆かもな)
そして、ひとつ気づいた。
(この声──微妙に変えてるけど、どこかで聞いたことがある)
正体までは分からない。でも、勘が告げていた。
──この子は、ただのプレイヤーじゃない。
「君に用があるわけじゃない。まだ、ね」
「……まだ?」
「選ばなかった道にも、真実はある。気づいてる?」
そう言って、彼女──“エニグマ”は笑い、仮想の雑踏の中へと姿を消した。
残された俺は、呆然とその場に立ち尽くす。
(選ばなかった道にも……真実……?)
その言葉の意味が、ずっと胸の中に残っていた。
まるで、「これからが本番だ」とでも言うように。
──
あとがき
新章突入です!
新たなキャラが登場しました。彼女エニグマはこの物語の重要人物なのか!?
今後ますます主人公とヒロイン達の恋物語が展開されていきます。そして事態は思わぬ展開に?
いつも応援してくださってる読者様本当にありがとうございます。
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今後ともよろしくお願いします!
では次回でお会いしましょう!




