第20話:星空の選択──それでも、君を想う
《ルート確定まで:00:01:59》
画面に浮かぶタイマーが、容赦なくカウントを刻む。
《星花/梨璃栖/アマリエ──いずれかを選択してください》
「くそ……どうすれば……」
机の下、震える指先を押さえつけるように拳を握る。
選べば、誰かが傷つく。
選ばなければ、誰の想いも応えられない。
《00:01:10》
(星花……あのとき、秘密の場所で俺を待ってくれてた。名前を呼んでくれてた。何も言わずに、ただ隣にいてくれた──)
彼女の瞳に浮かんだ、涙と微笑み。あれは嘘なんかじゃない。
(でも……梨璃栖も。俺のこと、誰よりも気にかけてくれて、ずっと寄り添おうとしてくれた)
スマホの画面には、彼女からの未読メッセージがいくつも並んでいた。
《やっぱり──最後に名前を呼んで欲しいのは、攻真なんだと思う》
(アマリエも……初めて話したとき、緊張していた。でもあの手紙、震えてた。きっと……勇気を出してくれたんだ)
《放課後、少しだけ話せますか? お茶でも──アマリエ》
メモの文字が、なぜか滲んで見えた。
《00:00:42》
「……答えは、もう決まってたんだよな、きっと」
最初から心のどこかで決めていた。けれどそれを認めるのが、怖かった。
誰かの想いを選ぶってことは──他の誰かを選ばないってことだ。
《00:00:25》
「それでも……!」
胸の奥から、言葉がこぼれた。
「俺は、前に進みたいんだ!」
──
《選択:天翔星花──確定》
《三者共有運命イベント“クロスリンク・パス”エンディング分岐中》
──
放課後、校舎裏の桜並木。
彼女はそこに、ひとりで立っていた。
夕陽がその髪を照らし、散りかけた花びらが舞い、頬を撫でていく。
「……来てくれたんだ」
振り返った彼女の声は、ほんの少し震えていた。でもその瞳には、確かな光が宿っていた。
「ごめん。待たせた」
「ううん……待ってた。ずっと」
並んで座ったベンチ。沈黙の中に流れる、やさしい風。
「ねえ……昨日私が言った事、覚えてる?」
「ん?」
「昔、“私ってめんどくさいよね”って言ったとき……なんて答えてくれたかってやつ」
「ああ、覚えてるよ」
俺は少し笑って、目を細める。
「“それでも、星花は星花だろ”って──俺、言ったんだっけ」
「ふふっ、そう。それが、ずっと救いだったんだよ」
彼女はそっと俺の袖をつまんだ。その指先が、かすかに震えていた。
「今でも、そう思ってる……?」
「もちろん」
その一言に、彼女の目尻が少しだけ潤んで、でも泣かずに笑った。
「──ありがとう、攻真」
静かな微笑みと、寄り添うぬくもりが、胸に染みた。
その瞬間、空を見上げると──茜色の空に、最初の星が一つ、輝きを灯していた。
《スキルポイントを1獲得しました》
《イベントエンディング“星空の誓い”達成──ルート保存完了》
──
同じ頃、画面の外。
梨璃栖は、静かな部屋でスマホを閉じ、ぽつりと呟いた。
「やっぱり──負けちゃった、か」
少しだけ唇が震えた。でもその瞳には、かすかな笑みが残っていた。
「……でも、これで終わりなんかじゃない。そうでしょ?」
──
アマリエは校門の前で、夕焼けを背に佇んでいた。
誰もいない空間で、ポケットのメモを握りしめる。
「……負けじゃないわ。ただ、まだ物語が始まっていないだけ」
彼女の青い瞳が、夜空を見つめる。
──
その夜。
俺のスマホに、ひとつの通知が届いた。
《アルシウムより通信:運命の選択──それはまだ“始まり”に過ぎない》
読み終えたその文面を、俺はしばらく見つめたまま動けなかった。
(これは……本当の選択が、これからってことか)
夜空を仰ぐと、星が、さっきよりもずっと輝いていた。
──選んだからこそ、たどり着ける未来がある。
俺はもう、迷わない。
たとえこの先、もっと深くて複雑な“運命”が待っていたとしても。
第20話、最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は「三者共有運命イベント」という形で、物語が少し特別な分岐を迎えました。選ばれたのは星花ですが、これはまだ物語全体のゴールではなく、あくまでイベント用のエンディングです。
読後にほんの少しでも余韻や切なさを感じてもらえたなら、書き手としてとても嬉しいです。
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次回も、引き続きよろしくお願いいたします。




