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日本から召喚しました

王子殿下の召喚に応じました

 王宮の地下深くにある召喚室に、同い年の二人の王子と、魔導士長の3人だけがいた。


「では、これより、第一王子殿下並びに第二王子殿下のパートナーを、それぞれ召喚いたします。

 チェンジは2回まで。一度目の召喚でパートナーとしてこの世に留めた場合は、2回目以降の召喚は金輪際行われません。また、2回のチェンジを経て、3回目の召喚で現れたものは、いかに本意でなかろうと、パートナーに決定し、覆すことはできません。よろしいですか」


 魔導士長の説明に、二人の王子は頷いた。

 二人とも、両手でそれぞれの水晶玉を持っている。


 オプチミスト王国の王室では、王子または王女は、成人の15歳になると、伝統に則り生涯のパートナーを召喚する。ただし、強制ではない。後日というのも許されている。

 パートナーは、大抵は国内の有力な貴族の子息・息女で、配偶者となる場合もあれば、側近となることもある。また生き物であれば何らかの能力を持った幻獣か妖精で、彼らと契約することにより、人生が豊かになると言われている。

 しかし、動物に関しては眉唾だという噂も根強い。というのも、これまでにパートナーとなった動物は、建国の祖であるアルゴリズム王のフェンリルだけで、それ以降150年の間に、一度も現れていないからだ。フェンリルについては、箔付けのために後世に捏造された記録との見方が有力である。


「では、第一王子殿下、こちらへ」


 魔導士長の招きで、正妃腹のリセマラ王子が、魔法陣の傍らに立った。持っていた手のひらサイズの水晶玉を両手でしっかり包み、額に当てて、『パートナーを』と願った。


 魔法陣がまばゆく光り、おさまった後には、5歳くらいのおかっぱの少女がぽつんと立っていた。黒髪に黒い瞳。不思議そうに見渡している。


「チェンジ!」


 リセマラ王子は叫んだ。名前すら聞くこともなく、ぶしつけに呼び出したことに謝罪もせず、追い返した。

 王子は再び水晶玉を額に当て、『パートナーを』と願った。


 先ほどと寸分たがわず魔法陣が輝き、真ん中に10歳くらいのおかっぱの少女が現れた。顔が似ていた。


「チェンジ!」

 

 リセマラ王子が叫んだ。魔導士長が、止めて確認する間もなかった。


「リセマラ殿下、次はどうあっても交換できませんよ。分かっておられますか」

「ふん、あんなガキどもが、王太子たる私のパートナーなどど、おこがましいわ。次で決める」


 常より、いささか考えなしなところのあるリセマラ王子だ。次も気に入らなければ、また無欲な第二王子にしわ寄せがくるだろう。魔導士長は、この後を想像して憂鬱になった。


 また魔法陣が輝いた。キラキラと先ほどより眩しく光が踊る。


「見ろ、今度こそ、私にふさわしいパートナーの登場だ!」


 リセマラ王子は、歓喜に声を震わせたが、光のおさまった魔法陣の中央に、ちんまりとうずくまっていたのは、茶色の子犬だった。いずれ成長したところで、フェンリルになるようには見えなかった。


「リセマラ殿下のパートナーは、この子犬と」

「ま、待て! こいつは違う。こいつは第二王子のパートナーだ」

 

 リセマラ王子が、往生際悪く主張し始めた。


「私は、最後は心の中で、弟のパートナーを、願ったのだ。だから、この子犬は弟のものだ」

「リセマラ殿下、あなたはすでに3回の召喚を終えました。変更は利きません。この犬をどうするおつもりですか」

「そんなただのペットは弟や妹にくれてやる」


「ならば、僕がもらい受けます」


 これまで黙って聞いていた、側妃腹の第二王子であるムカキン王子が申し出た。


「いいぞ、お前にくれてやる。その代わり、お前の水晶玉で、私のパートナーを願え。お前が願う分には構わないのだろう?」

「魔導士長、できますか?」

「技術的には可能です。倫理的には、アウトですが。ムカキン王子は、それで良いのですか」

「はい、その前に兄上に約束してほしいのですが」

「なんだ」

「この子犬を、あとから自分のものだと主張しないでください」

「もちろんだ」

「それと、僕が兄上のために召喚を願うのは、一度きりです。何が来ようと、今度こそ納得してください」

「いいとも、約束しよう。幼児や犬っころより下はないだろうからな」

 リセマラ王子がそう言ったので、ムカキン王子は魔導士長に、今の内容を魔法契約にしてもらうことにした。


 そうして、ムカキン王子が、魔法陣の端に立ち、水晶玉を額に当て、『リセマラ兄上のパートナーを』と願った。


 キラキラと魔法陣が輝きだすのと同時に、ムカキン王子はリセマラ王子に場所を譲った。


 魔法陣の真ん中に現れたのは、この国の公爵家の令嬢、エリスだった。金の髪に碧い目、王子の2歳年下で、王立学園でも注目を一身に浴びている美少女だった。リセマラ王子とはハトコに当たる。


「エリス」

「リセマラ殿下」


 二人はすぐさま手を取り合って、互いを見つめた。まるで、昔からの思い人同士であるかのように。


「ではこれで、第一王子殿下と第二王子殿下の召喚の儀を終了します。

 魔導士長が厳かに告げた。



◇  ◇  ◇  ◇



 召喚の結果は、直ちに国王夫妻に報告された。


「リセマラよ、そなたはエリスの能力をどう生かすつもりだ。学業も魔法の腕前も優秀と聞く。妃でも側近でも、問題なくやっていけるだろう」

「私はエリスを妃に迎えたいと思います」

「して、エリスの希望はどうだ」

「はい、わたくしも、リセマラ殿下をすぐ隣で支えたいと存じます」


 こうしてリセマラ王子と公爵家次女エリスの婚約が内定した。

 リセマラ王子もエリスも、これ以上ない僥倖に酔いしれていた。



「ムカキンよ。そなたの抱いているのは、犬か?」

「はい、犬に相違ございません」


 陛下とムカキン王子のやり取りに、リセマラ王子はくすりと笑った。エリスも、ありふれた茶色の子犬を見て、自分の方がよほど上等だと悦に入った。


「魔力は感じないか」

「魔力は感じませんが、強いて言えば、神通力を感じます」

 

 リセマラ王子の頬がピクリと動いた。聞いてないぞ、と。


「神通力とは何か」

「はい、ていに言いますと、修行によって神から与えられた超常的な能力のことです」

「嘘です、それはただの犬です。ペットとしての価値しかありません」

「リセマラよ、召喚で得られたパートナーは、どんな姿かたちをしていようと、一見なんの役に立たなそうに見えても、召喚主にとっては、かけがえのない相手なのだ。ゆめゆめ侮るでないぞ」

「はい」

 リセマラ王子は、大人しく引き下がるしかなかった。


「して、ムカキンよ、その犬が、そのような力を有していいると、なぜ分かるのだ」

「彼女から聞きました」

 

 プッ、とリセマラ王子が吹き出した。

「なぜ、犬がしゃべるのだ」

「リセマラ」

 今度は王妃がたしなめた。


「陛下は、我が王家の召喚に応えるものには、王家の人間のパートナーとしてふさわしい力が与えらることはご存じのことと思いますが、この子は、都合3回召喚されております」

「ん? どういうことだ」

「兄上は、この子を2度チェンジしています」


「なんだと、私がチェンジしたのは、幼い女児と、いたいけな少女だったではないか。しかも、異国、あるいは異世界の子どもに見えたぞ。そのような子どもを、親元から引き離してパートナーにするなど、可哀そうだと思ったのだ」

「一度目の子供の成長した姿が、2度目の子です」

「そこまでは分からぬでもない、だがその次が犬とは、理屈が通らぬであろう」


「リセマラよ、お前が口を挟むと話が進まぬ。しばし控えろ」

「申し訳ありません」


「で、続きを」


と、陛下が言ったところで、玉座の後ろのドアから、ひとりの女性が現れた。


「ポチ!」

 側妃のサクラが駆け寄ってきて、ムカキン王子の抱いていた子犬を奪い取って抱きしめた。

「ポチ、ポチ、とうとう来てくれたのね。会いたかった」

 そう言って子犬をぎゅうぎゅうと胸に抱いて、涙を流した。


「これは、どういうことだ」

 陛下も王妃も、リセマラ王子も戸惑いを隠せない。


「母上、ポチが苦しがっています。緩めてやってください」

 ムカキン王子が言うと、サクラはやっと子犬を下におろした。

 

 子犬は、足が床についた瞬間に、ぽぁん、と不思議な音を発して、ムカキン王子と同じ年ごろの少女になった。黒髪のおかっぱ頭だ。


「あ!」

と、リセマラ王子が声を上げた。

「召喚した時は、幼かったではないか。なぜそのように美しく神秘的に成長しているのだ」

 リセマラ王子の隣で、エリスが睨んだ。



 さっぱり話の見えない面々を前にして、側妃サクラと子犬だった少女が、すべての経緯を説明することになった。



◇  ◇  ◇  ◇



 オプチミスト国の王アンテロースは、王太子だった15歳の時、召喚を行わなかった。すでに侯爵家の令嬢カリスと将来を誓い合い、両家もそれを認めていたからだ。召喚を行って現れたのが、優秀な側近候補であれば問題ないが、万一、王妃になるに足る地位の女性であった場合、特に他国の姫であった場合、娶らぬことは難しい。いらぬ確執を生むことになる。

 そして侯爵令嬢カリスは、王太子妃となり、アンテロースが王位に就いた時、王妃となった。変わらず二人の仲は良好であったが、なかなか子に恵まれなかった。3年待った後、王は王妃と相談の上、王家の召喚をすることにした。ただし、パートナーとして誰が現れても、召喚は一度きりという約束で。


「それで呼ばれたのが、私でした」

「ワン」

 再び犬に戻ったポチが合いの手を入れた。

「私の故郷は、異世界の日本という国です。いきなり呼ばれ、混乱し、泣きわめき、絶望しました。陛下と王妃様は、真摯に謝ってくださり、長い月日をかけて、私を気遣って、大切にしてくださいました。やがて絆されて、側妃となり、子を身ごもりました。同じ頃、王妃様も懐妊されました。

 王妃様はそれでも、私と私の子を邪険にすることなく、それまで通りに、いえ、それ以上に優しくしてくださったのです。

 私の唯一の心残りは、飼っていた犬のポチでした。飼い始めて2年ばかりの元気いっぱいの子でした。

 いつか何かの折に、こちらに召喚されないものかと、ひそかに願っておりました。」

「ワン」

と吠えて、子犬は15歳の女性になり、話の続きを引き受けた。


「置いて行かれた私は、神に祈りました。祈っても祈っても、神は犬の願いなど聞き届けません。頭に来て、散歩の度に、お社の鳥居におしっこをかける嫌がらせをしました。

 すると、そんなに桜に会いたいのなら、召喚されるだけの神通力を得るために修行をしろと、そのお社の神の使いである狐に言われて、何年も修行に明け暮れました。

 そして、とうとう、召喚の気配を感じ取れるようになりました。

 気がはやって待ちきれず、間違えて桜の息子ではない方の男の召喚に、2度も応じてしまいました。幸い、その男はロリコンではなかったらしく、私をパートナーとは認めませんでした」


 ポチは、本当のことを話そうか少し逡巡していたが、波風たてることもあるまいと考え、二人の王子の間で納得した通りの筋書きに乗ることにした。


「正妃の息子王子は、そこのエリスとやらを3回目の召喚で迎え、桜の息子は、私を一度の召喚で犬の姿で召喚したのです。

 王家の召喚は、されるたび能力を与えてくれます。私の場合は、ただでさえ神通力を身に着けているのですが、召喚のおかげで、それが5割ほどパワーアップしました。魔力こそありませんが、系統の違う神通力があるのです。

 だから変身も自在です。はっきり言って有能です。

 でも、有能過ぎるのは、第二王子のパートナーとして、争いの種にしかならないと思いますし、なにより、桜にとって可愛い子犬でいたいので、私は犬としてこの王宮で過ごしたいと思います。

 有事の際には、お力になりましょう。私、実に有能ですので」


 そう言って、ポチは黒い鼻を高々と上げ、しっぽを誇らしげに左右にブンブン振った。

 


◇  ◇  ◇  ◇



 召喚から3年たった。

 18歳のリセマラ王太子と、16歳の公爵令嬢エリスの結婚式が盛大に執り行われた。

 

 ポチが先走ってリセマラ王子の召喚に応じなければ、きちんと一回でエリスが召喚されていたのだ。エリスは優秀で、すこし嫉妬深いが、愛情もたっぷりだ。良い王妃になるだろうと期待されている。

 王太子のリセマラ王子の方は、ややそそっかしくて早とちりなところはあるが、総じて優秀である。見た目も相まって、国民の人気も高い。そそっかしいところは、エリスが抑えてくれそうだ。オプチミスト王国は次代も安泰だろう。


 第二王子のムカキン王子は、ポチが美しく神秘的な女性姿で横に並ぶと、周りからお似合いですの声が飛ぶが、結婚はないと思っている。

「だって、ポチは私の可愛い犬だもの。人間になったら嫌だわ」

という側妃サクラの言葉によって、ポチはポチのままである。

 

 その後、オプチミスト王国は、何度か隣国から戦争を仕掛けられたが、ポチの八面六臂の活躍により、なんの苦も無く撃退した。また、ポチがいなくなっても困らないように、国の周囲に神通力をまとわせた

鳥居を設置し、ムカキン王子の子孫が鳥居に触れることで、効力を復活させるようにした。

 ポチの、『私、実に有能ですので』という言葉は本当だった、と後の王国史に正式に記載された。



召喚した女の子をチェンジして、次に子犬が来たらどうなるかな、と思いつくままに書いた作品です。雑なところは笑って流していただければ。

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