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制服騒動の家族の反応

 「キャーーーーー!」

 「イヤーーーーー!」

 まるで凶報が舞い込んだかのような絶叫が、家中に響き渡った。

 ただし、その叫びの意味は正反対だった。

 エドモンドと入学手続きを済ませ、帰宅したリオン。


 いきなり、娘に同じ学園に入学する事になったと報告する勇気は出ず、とりあえずはじめに妻であるレイラに報告することにした。

 レイラは目を見開き、驚いた表情をすると

 「ちょっと、待っていてくれ」と言って、リビングを後にする。そして数刻後

 「さあこれを着るんだ!」

 持ってきたのは、王立魔法学園の制服だった。しかもそれは、リオンが通っていた当時の物で、保存状態が異様によく今でも十分、着るのに問題ないものだった。

 「いいから、着るんだ!」「必要な事だ!着るんだ!」と押し切らせ、とりあえず制服に袖を通したリオン、しかし、そこに中等学院から帰宅した娘に目撃されたことが、今回の2人の女性の悲鳴の要因だった。


 「意味分かんない…」

 「イヤ、だから、これは仕事で…」

 「意味分かんない! 仕事で娘と同じ学園に通わなくちゃいけないなんて、意味分かんない!」

 (本当に、意味が分からない…)

 いや、エドモンドから説明を受けたときも、すでにおかしいとは思っていた。

 だが、改めて娘に説明し、「パパが同級生」 という現実を突きつけられると、

 やはりこれは 「おかしい」とかいう次元ではない。

 ましてや、苦労して受かった王立魔法学園に、まさか父親と一緒に通う羽目になった リリーの気持ちを考えれば、

 「意味分かんない!」 と喚きたくなるのも当然だろう。


 「ていうか、いつまで着てんのよ!その制服!」 

 なんか、流れで制服を着たまま、今回の任務を説明することになっていたが、リビングで学園の制服を来て、妻と娘に仕事の話をするとは、いったいどんなカオスな状態だ。


 「さっさと、着替えてよ!」

 「待つんだ、リリー。せっかくのリオンくんの貴重な制服姿なんだ!」

 レイラはうっとりした顔で頷くと、次の案を思いついたように声を弾ませた。

 「まずは写真を撮るだろう? そして動画にして、後からじっくり鑑賞する!」

 さらに、指をポンと鳴らし、確信に満ちた表情で宣言する。

 「そして、さらにSNSに投稿すれば、多くの人とこの可愛さを共有できるな!」

 「絶対にやめて!!そんなことしたらもう外、歩けなくなる!!」

 「そこまで、騒ぐことなのか?SNSって、あれだろ?その、なんか色々な情報が流れる魔法端末のやつ。」

 「ざっくりしずぎ!いや、騒ぐでしょ!?もし変な写真が広まったら、一生残るんだからね!!」

 「……そんなものなのか?」

 15年前の戦争終了以降も、戦場に出ない勇者召喚され、様々な技術がリオンの世界にもたらされた。

 しかし、リオンは全くついていけていなかった。


 「ふむ、確かに、それは慎重にならないとな。」

 「そうよ!だから絶対にやめて!!」

 「では、家族のアルバムにだけ保存しよう!」

 「それはそれで嫌なんだけど!」

 「何故だ?こんなに似合っているといのに?」

 レイラはリオンをひょいと持ち上げて、リリーの前に突き出す。

 「やめてください、レイラさん…」

 (レイラさん、いいかげん、いつも僕を人形のように扱うのはやめてくれないかな…)

  「ちょ…やめてよ!似合う、似合わないの問題じゃないの!」

  「ていうか、なんでそんなに普通に似合ってるの!? 逆にキツイんだけど!!」

 (お願いだから、もうちょっとオブラートに包んでくれないかな…)


 母子の不毛な言い争いに、全てを諦めたリオンはされるがままになっていた。

 「もういい!」

 話の通じないと、レイラに嫌気が差したリリーは、自室に行こうとする。

 「ちょっ、ちょっと、待ってくれ、リリー。教会から正式に通達がくると思うけど、この事は学園では内密に…」

 「言うわけないでしょう!というか、入学してら、絶対では話しかけないでよね!」

 (ですよね…)

 わざわざ、教会からの通達がなくとも、リリーがリオン、父親が一緒に学園に入学したなどと、口が裂けても言わないだろう。

 (任務としては、それが正解なんだから、これで良かったんだよ…きっと…)

リオンはこのどうしようもない現実を受け入れるため、無理やり納得することにした。


 はあ、とため息をつくリオン。

 「レイラさん、もう少し詳しいことを話したいんだけど、いいかな?」

 「ふむ、聞こうじゃないか。」

 リオンのトーンが落ちたのを感じ取り、レイラは真剣な表情になり、そっとリオンを下ろした。


 そして、リオンは今回なぜ自分が学園に入学することになったのか、なぜエドモンドがこの任務に自分を推薦したのかを、より詳しく説明した。

 「そうか…エドモンドくんがな……彼には感謝しないといけないな。」

 「僕が言っても、絶対認めないだろうからさ。レイラさんの口からお礼を言ってもらえると助かるよ。」

 「ただな、リオンくん。」

 レイラはふっと微笑みながら言葉を続ける。

 「君と結婚するために実家から勘当されたことに、一度も後悔したことはない。」

 「分かっているよ。でも…これは僕の気持ちの問題でもあるんだ。」

 かつて、学園を中退し、戦場に出たものの、まともに戦えなくなり、抜け殻のようになったリオン。

 その時、そばにいて励まし続けてくれたのがレイラだった。


 さらに、リオンの子供のような見た目のせいで、まともな仕事に就くことも難しかった。

 そんな時、口うるさく説教をしながらも、手を差し伸べたのがエドモンドだった。彼はリオンに教会の非常勤職員としての仕事を紹介し、なんとか生活ができるようにしてくれた。

 だからこそ、今回の任務を受けたのは、不本意ながらも、二人への感謝の意味もあった。


 一番の問題である、娘に自分が学園に入学することは伝えた。

 ただし、リリーには話せる範囲のことしか言えないため、必要最低限の説明だけに留めた。


 そして、レイラにはより詳細な仕事内容や、それに至った経緯を説明した。

 エドモンドがなぜリオンを推薦したのか、今回の任務の意義についても伝えた。

 だが、もう一つ、解決しなければならないことがある。

 リオンは静かにレイラと向き合い、核心に迫る。

 

 「ところで、レイラさん。……なんで15年以上前の僕の制服を持っていたんだい?」

 「そ、それは、その…ほら、思い出の品としてだな…」

 レイラは目を泳がせ、必死にごまかそうとする。

 しかし、ここは珍しくリオンが強い態度で問い詰める。

 「本当は?」

 「くっ…リ、リオンくんがまた着てくれたら可愛いなと……あと、今晩この制服のままでどうだ!?」

 「どうだ!ってなにがだよ!」

 「ふ、夫婦の営みには、こういう新鮮な変化が大事だというぞ!」

 「君は本当に何を言ってるんだ!!」

 「そんなに嫌がることじゃないだろう?」

 「大いに嫌だ!!」


 リオンは全力で拒否した。

 せっかく、いい話をしていたのに。

 せっかく、シリアスな雰囲気だったのに。

 すべてを台無しにされ、リオンは叫んだ。




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