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震える剣と、踏み出せない僕 その1

 ――剣を、握っている。

 小さな手、木剣のはずなのに、やけに重い。

 目の前には、同じ年頃の子ども、背筋はまっすぐで、表情には、まるで恐怖がない。

 ……いや。

 恐れていないどころか、楽しんでいるようにすら見えた。

 「はじめ」

 大人の声が響く。

 その瞬間、足が、すくんだ。

 逃げたい。ここから、今すぐ逃げ出したい。

 でも――できない。

 逃げたら、父上に叱られる。

 弱音を吐いたら、もっと情けないことになる。


 わかっている。わかっているのに、身体が、言うことをきかない。

 手が震える。視界が、ぐらりと揺れる。

 相手が、一歩踏み込んでくる。

 その気配だけで、喉がひくりと鳴った。

 ――怖い。

 ただ、それだけだった。

 次の瞬間。

 相手の剣が、こちらに向かって振り下ろされ――

 「……っ!」

 飛び起きる。

 荒い息、背中には、じっとりと汗が滲んでいた。

 ……まただ。

 たまに見る、嫌な夢。何度も、何度も、同じところで終わる夢。

 ベッドの上で、天井を見上げながら、僕は小さく息を整えた。

 (もう、昔の話なのに……)

 そう思っても、身体は正直だった。


 僕の名前は、カイル・エルマー・ベルネス。

 勇者派閥にも属している貴族、ベルネス家の嫡男だ。

 といっても、ベルネス家は領地も小さい下級貴族だけどね。元々所属していた貴族派閥が、魔契戦争後に勇者派閥へ合流したらしく、ベルネス家はその流れで“おこぼれ”的に勇者派閥入りした。

 僕は今年から王立魔法学園に通っている。ほとんどの勇者派閥の貴族がAクラスだけど、僕は落ちこぼれが集まるといわれるDクラスだ。

 そのせいで、他の勇者派閥の貴族からは勇者派閥の面汚しと言われている。

 そんな僕だけどDクラス内では上手くやっていけていると思う。

 それはやっぱり、ルームメイトやダンジョン攻略授業で組んだチームメイトのおかげだと思う。

 

 ルームメイトは、同じチームを組んでいる二人。

 リオンくんと、ハルトくんだ。

 リオンくんは、不思議な人だ。

 見た目は子供みたいなのに、考え方はずっと大人で、冷静で……そしてものすごく強い。

 それも、ただの強さじゃない。積み重ねてきた時間の重さみたいなものを、感じる。

 魔法の制御もすごくできていて、教官以上の制御が出来ていた。

 それ以外の武器やスキルの技術もすごい。学園じゃあ習わないような高度の技をいくつも習得している。今回のダンジョン攻略授業もリオンくんがいたから総合1位になれたのだと思う。


 一方で、ハルトくんは……。

 正直、最初は、ちょっと苦手だった。

 声は大きいし、態度も軽いし、すぐ調子に乗る。

 でも――。

 なんて言ってったって、全適性Sランクというすごい才能の持ち主だ。

 だけど、学園での授業ではダメダメで、リオンくんと同じ村出身で、リオンくん曰く、才能はあるけれどその分、努力を怠っていたため、実力を出し切れていないという事らしい。

 本当かな……。

 リオンくんの話って、時々、あらかじめ用意された“設定”を語っているみたいに聞こえることがあるんだよね。


 ただそれでも、今はちゃんと努力しているみたい。

 僕はよく放課後に作業室に籠って、趣味の魔道具いじりをしている。その作業室の窓から、二人が訓練場で訓練をしてる姿が見える。最近では、セラフさんも一緒になってハルトくんをしごいているみたい。

 サボろうとしたり、逃げ出そうとするたびに、セラフさんの鞭が飛んでいた。

 ……見ているだけで痛い。

 ただ、その成果が出たのか今回のダンジョン攻略授業でも、ちゃんと活躍できていた。最初は、調子に乗って勢い余って初心者用トラップに引っかかっていたけど……

 それでも、いざという時、ちゃんと前に出ていた。怖がりながらも、逃げずにあの上級モンスターである黒淵の獣蛇アビス・バジリスクにとどめを刺したんだ。

 やっぱりすごい。不思議な人だ。

 僕とは、違う。


 ……まあ、今に始まった話じゃない。そう思いながら小さく息を吐く。

 けれど――。

 ダンジョン攻略授業、総合成績一位。

 その結果だけは、確かに現実だった。

 あの父上が、僕を褒めた。厳格で、滅多に感情を表に出さない父が。

 短い言葉だったけれど。

 『……よくやったな』

 たったそれだけ、それだけなのに、胸が熱くなった。

 母上に至っては、泣いて喜んでいたらしい。

 使用人越しに聞いた話だけど。

 ……もちろん、分かっている。僕の力じゃない。すごいのは、チームメイトだ。

 それでも、それでもだ。

 人から認められるというのは、こんなにも嬉しいものなのか。

 学園でも変化はあった。他クラスの生徒から話しかけられる。授業の内容を聞かれる。戦闘のことを尋ねられる。僕の力じゃないと言っても、それでも凄いと褒めてくれる。

 ほんの少しだけ、世界が変わった気がしていた。

 

 

 

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