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ダンジョン攻略授業 最終日 その2

 「あのアマァ〜〜〜!!!ふざけやがってぇぇ!!」

 開幕から陽翔の怒号がB級ダンジョンの薄暗い通路に響く。

 セラフ、そしてリリーとの妙な空気のあと、教官の号令とともに転移魔法陣が起動し、ダンジョン授業 が開始された。

 前回と同じく、B等級のダンジョンに転送され、今回も陽翔が先頭で偵察をしながら進んでいく。

 2回目ということもあり、前回よりもサクサクと進んでいくが、先頭の陽翔のセラフへの愚痴が止まらない。

 「見てろよ!今回の授業でも高得点取って1位になって、今度こそ本当にみんなからちやほやされるんだ。そんでいつか絶対、俺があのシスターを逆にッ、逆・調・教してやるんだからな!!!」

 「あ、セラフちゃん」

 「ぎゃあああああ!!!嘘です!ごめんなさい!調子にのりました!」

 「うっそ~☆」

 「リーナ!テメッ!!ぶっ殺すぞ!!」

 「あはははははっ! そんな怒んないでよ、冗談じゃん〜!」

 「冗談になってねぇんだよ!!心臓止まるわ!!」

 そんな光景を後方から眺めながら、カイルがぽつり。

 「……なんか、すっかり元に戻ってるね」

 リオンは肩をすくめた。

 「まあ、あんまり調子に乗られても困るが……卑屈すぎるのも困るからな。何でもいい、戦う理由になるならそれでいいんだ」

 「逆調教してやるとかいってるけど?」

 「……できれば、もう少し健全な理由が欲しいな……」

 リオンはこめかみを押さえ、遠い目をした。

 諦め半分、覚悟半分の“大人のため息”だった。


 陽翔がぎゃあぎゃあと騒ぐ一方、道のりは順調だった。

 先頭に立ち、罠も魔物も、苛立ちながらもきっちり処理していく。

 機嫌は最悪だが――やるべきことはやる。

 セラフの“優しい鞭”は、意外にも即効性があるらしい。

 「見ろよ!この俺の超絶成長っぷり!!」

 「ハイハイ、偉い偉い」

 騒がしい陽翔を軽くあしらいながら、チームは奥へ進む。

 やがて、石造りの通路の奥に青紫の光壁が揺らめいた。

 魔力共鳴障壁マナ・エコー・フィールドだ。

 「で……どうする?今回も挑戦するか?」

 リオンが問うと、陽翔は即答した。

 「当然、突破に決まってんだろ!」

 リーナとシエラ、セリナ、カイルまでも頷く。

 前回とは違う。今回は“勝ち筋”を知っている。

 対策さえ分かっていれば、脅威ではない。

 魔力干渉、足場の切り替え、呼吸の合わせ――全員、無傷で突破した。

 「……前回より、全然早いね」

 カイルが驚きを隠せない声で言うと、リオンは小さく頷いた。

 「事前に対策をしていれば、こんなもんだ」

 リオンは淡々と答えるのだった。


 前回、アーマード・オーガの激戦となった広間にたどり着くと、先客がいた。

 Aクラスの貴族チームだ。

 罵倒されるか、皮肉を言われると思っていたが――

 「……ずいぶん早いな。また魔力共鳴障壁マナ・エコー・フィールドを突破してきたのか」

 リオンたちは身構えたが、返答は意外なほど淡々としていた。

 「俺たちは、もう行ける階層には達した。あとは帰還して点数を確実に取るだけだ」

 そして、こちらを見やることなく背を向ける。

 「ま、せいぜい、頑張るんだな」

 皮肉がないわけではない。だが――

 むしろ“興味が無い”ような、冷めた態度。

 「……なんか、前と雰囲気違わない?」

 リーナが首をかしげる。

 「確かに。あいつら、今日はやけに静かだな」

 陽翔も彼らの態度に違和感を感じる。

 リオンも小さく眉を寄せた。

 (なんだ?前回同様、何か企んでいるのか?)

 リオンは彼らをこっそり観察し、何かあった時にいはすぐに動けるよう油断なく身構えるが、特に何事もなくその場を去っていった。

 

 下層へ向かう転送用魔法陣は、いつもと同じ淡い光を放っていた。

 「それじゃあ、前回は行けなかった下の階層に行くぞ。知っていると思うが、ダンジョンは下層に行けば行くほど罠も魔物も強力になっていくからな気を引き締めろよ」

 「おーし!下層もサクッと攻略して1位もらってやる!」

 陽翔が勢いよく魔法陣に足を踏み入れる。

 他のメンバーも続き、リオンが最後に乗った瞬間――光が弾けた。

 次に感じたのは、重い空気だった。

 転移直後の場所は、見慣れた通路と似ているはずだった。しかし。

 湿った空気が肺を圧迫する。

 鉄のような匂いが鼻を刺す。

 壁には黒ずんだ爪痕のような溝。

 そして……遠くから響く、低いうなり声。

「……これが……B等級のダンジョンの下層?イヤ、いくらなんでも……」

 陽翔の声が、妙に小さく響いた。

 他の仲間たちも陽翔と同じように感じていた。先ほどいた階層とはあまりにも雰囲気が違う。

 たしかにダンジョンは、階層が下に行くほど空気が変わる。

 だが、“違いすぎる”。

 B級ダンジョンの重苦しさではない。

 圧迫感が、皮膚の内側まで入り込んでくるような感覚。

 リオンの眉がぴくりと動いた。

「……みんな、動くな。一旦、待機だ」

 静かながら、有無を言わせない声。

 全員が即座に武器を構える。


 その頃、学園ダンジョン管理本部。

 突如、魔導モニターに赤い警告灯が点滅し、警報が鳴り響いた。

 《警告──C等級ダンジョン異常反応》

 「……C等級だと? 誰も入る予定はないはずだ!」

 ダンジョン授業の責任者であるサイラス教官が、珍しく焦りの色を見せる。

 すぐにC等級ダンジョン入り口の見張り番へ魔導通話を繋いだ。

 「今日、C等級ダンジョンに入った者はいるか?」

 『こちらの入口からは、誰も通過していません!』

 「何……? では、どうやって……」

 サイラスは歯を食いしばり、魔導監視カメラを切り替える。

 映し出されたのは、見覚えのある少年少女の一団だった。

 「……Dクラスの、リオンたち!?なぜC等級に……!」

 監視室に緊張が走る。

 サイラスは魔導スピーカーを通じて、現場のリオンたちに問いかけた。

 《どうしてC等級ダンジョンにいる!?侵入経路はどこだ!?》

 魔導カメラ越しのリオンが、驚愕した表情で即座に応じる。

 《な、何を言っているんですか!?僕たちはB等級の下層に向かっただけで……!》

 「……っ、ともかく、そこで動くな!今すぐドミニク教官と救助班を向かわせる!」

 だが、その直後。

 別の職員が青ざめた顔で叫ぶ。

 「サイラス教官!彼らがいる位置は──C級のかなり深部です!ベテランでも到達には時間がかかります……!」

 「……なんだと……!」

 サイラスは拳を握りしめた。助けに行かねばならない──だが、今すぐには辿り着けない。

 そのわずかな“時間差”が、取り返しのつかない事態を招くかもしれない、という悪寒が背筋を走る。

 そして、その不安は現実となりつつあった──。


 (C等級ダンジョン……?どうして僕たちがそんな場所に……)

 まさか、転移魔法陣の不具合か?

 いや、それにしては不自然すぎる。

 (だとすれば……誰かが故意に?)

 脳裏に、先ほどのAクラスの生徒たちの顔が一瞬よぎる。

(……彼らが?いや、たかが学生にそんな――)

 否定しかけた、その瞬間。

 ザリ……ザリ……

 何かが“地面を引きずる音”が、闇の奥から響いてきた。

 重く、湿った、不快な響き。

 空気が変わった。刺すような殺気。

 リオンは即座に判断する。

 「……みんな、動くな」

 低く鋭い声が、仲間の呼吸を止めさせた。

 闇の向こうで、何かが息をしている。

 ゴォ……ォオ……

 ただのモンスターではない。

 アーマード・オーガとは比べものにならない。

 ――“上位の捕食者”の気配だった。

 

 

 

 


 

 

 

 

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