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B級ダンジョン攻略 その後

 リオンたちがB級ダンジョンに挑んだ翌日。

 朝の学園本棟の大掲示板前は、いつになく人だかりで賑わっていた。

 「見ろよ……Dクラスが上位に入ってるぞ」

 「は?マジかよ!魔力共鳴障壁マナ・エコー・フィールドを突破って!あそこはどう考えても避けて通る所だろ!」

 「アーマード・オーガを倒したって話……本当だったんだ……」


 ざわめきの中心に貼り出された総合ランキング表。

 その3位の欄には、くっきりと――

 > 〈総合得点:第3位〉

 > Dクラス チーム リオン・アルスレッド

 信じられない、という空気がその場を包む。


 表の下には詳細な得点内訳も記されていた。

 初回は0点という惨憺たる結果。

 だが2回目の実技ではAクラス並みの高得点、そして、三回目のB等級ダンジョン挑戦で一気に大躍進。

 中でも特筆されていたのは、

 **「魔力共鳴障壁マナ・エコー・フィールド突破」**と

 **「上級魔物アーマード・オーガ討伐」**の二項目。

 その二つだけで、加点が桁違いだった。

 ――Dクラスとしては、異例中の異例。

 誰もが「信じがたい」と目を丸くしていた。


 同じ寮の部屋のリオン、ハルト、カイルは一緒に教室に入る。

 すると、クラスメイトざわつき囲まれる。

 「お前らマジすげえよ!」

 「何かしらやってくれるとは思ったけど、まさか上級モンスターを討伐するなんて!」

 「もしかして、このまま総合1位もとれるんじゃねぇの!?」

 予想以上の反響にリオンは苦笑いし、カイルは戸惑う。

 しかし、陽翔だけは自信満々に胸を張る。

 「ハッ、まぁ当然だよな!この俺様の華麗なる剣技が……」

 「やっぱり、リオンくんの指揮が的確だったんだね」

 「さすがリオンだぜ!Dクラスの星!」

 「お、おい!またリオンばっかりかよ!俺だって活躍したんだからな!マジで!」

 必死に自分をアピールする陽翔だったがクラスメイト達の反応はいまいちだった。

 「……そうなんだ。うん、すごいよね」

 「次も頑張ろうね……」

 「おい!お前ら!まったく信じてないだろ!」

 

 「そうやって、必死で褒めてもらおってところがダメなんだよ」

 いつの間にか話の輪の中に入っていたリーナが陽翔に苦言を呈する。

 「ふん……虚栄という鎖に縛られた魂ほど、哀れなものはない」

 「真の強者は、やたらと賞賛など求めない」

 さらにセリナ、シエラも加わり陽翔にダメ出しをする。

 「な、なんだよ!お前らまで!もういいよ!勝手にしろ!」

 陽翔は顔を赤くしながら、教室を飛び出していった。

 「お、おい!どこ行くんだ!もうすぐホームルームが始まるんだから……」

 残されたリオンたちは、少しだけ気まずい空気に包まれる。

 「まあ、あいつも初回こそ酷かったけど、その後はちゃんと役割を果たしてたよ」

 リオンが苦笑混じりに陽翔をフォローする、カイルもうなずいた。

 「……まあ、前よりはマシになったよね。偵察なんかは率先してやってくれたし」

 「確かに、彼の動きには、かすかに“闇の加護”の兆しを感じた」

 「戦いの中では、ちゃんと動けてた。戦士としての片鱗はあった……」

 女の子たちは珍しいく陽翔のことを褒める。


 クラスメイトの一人が首をかしげる。

 「なら本人にも言ってやれば?素直に喜ぶと思うけど」

 リオンは肩をすくめた。

 「イヤ、あいつの場合、下手に褒めるとすぐ調子に乗るからな……。これくらいがちょうどいいんだよ」

 「だねー」「それはわかる」と他のメンバーやクラスメイト達が同意し、教室は笑いに包まれた。

 とりあえず、陽翔は一時間目の授業までには教室に戻ってきた。だが、その日の昼休み以降、陽翔は教室にも、食堂にも姿を見せなかった。

 心配する者もいたが、特に深刻には考えなかった。

 

 数日後、昼休みのDクラス教室。

 いつもの喧騒の中に、コンコン、と静かなノック音が響いた。

 「すみません……リオン・アルスレッド君はいますか?」

 扉の向こうに立っていたのは、白い襟章をつけた少年――聖騎士見習の証だ。

 教室がざわめく。

 「Cクラスの……?」「あれ、聖騎士見習いだよな」

 リオンが立ち上がる。

 「……僕だ。どうした?」

 「初めまして。Cクラスのアレク=アーベントです」

 その瞬間、二人の視線が交わる。

 ――ほんの一瞬、互いの瞳に理解の光。

 (演じるぞ)

 (はい)

 無言のうちに確認を終える。

 アレクは学園でリオンの正体を知る数少ない人物だった。

 聖騎士見習は学園に通う傍ら、教会でも修練を積むものも多い、アレクはその中の一人だ。

 その際に、非常勤職員として赴任していたリオンから何度か稽古をつけてもらっていた。

 リオンが学園に「潜入している」ことは、教会側にも伝えられている。

 そして、教会から聖騎士見習たちには通達が出ていた――

 > 「リオン・アルスレッドとは、あくまで“学園の一生徒”として接すること」

 その通達に従い、アレクは“初対面”を演じているのだ。

 「実は……ちょっと、相談がありまして、イヤ、あってね。同じDクラスのハルトくんの事なんだけど……ちょっとCクラスの教室まで来てくれないかな」

 その名前を聞いた瞬間、リオンは嫌な予感がよぎる。カイル、リーナ、セリス、シエラも同様だったらしく無言で立ち上がる。

 そして、5人はアレクとともにCクラスに向かうのだった。


 Cクラスに向かう道中、アレクは事の顛末を簡単に説明する。

 あの日、陽翔がみんなが褒めてくれないと教室を出て行った時のことだ。

 どうやら、陽翔はCクラスの教室前まで走っていったらしい。

 そして――

 「ね、君。Dクラスの……陽翔君だよね?」

 振り向くと、Cクラスの男女数名が立っていた。

 「昨日のB等級突破、本当?すごかったって聞いたんだけど!」

 「よければ、どう戦ったのか聞きたいなって」

 陽翔の胸が高鳴る。

 「おう!いいぜ、教えてやるよ!」

 Dクラスではくすぶった称賛が、ここでは純粋に向けられたのだった。

 「ああ、もういい、分かった……あとの事は大体、想像できる……」

 リオンはこめかみに手を当てて、深くため息をついた。


 「でさ!そのとき俺が言ったんだ。――“俺についてこい”ってな!」

 陽翔は机に片足を乗せ、剣を持つ仕草で決める。

 「うおー!」「かっけぇ……!」

 Cクラスの数名は、もう半ば惰性で拍手している。

 「アーマード・オーガが現れた時もさ、他の奴らはみんな腰が引けてたんだよ。でも俺は違った。あの瞬間、全員の命を預かるのは俺しかいねぇって分かってた。だからリーダーである俺は言ったんだ――“怖いなら下がってろ、俺が前に出る!”ってな!」

 実際には「逃げるか?」と冷静に確認したのはリオンだったが、陽翔の話の中では自分がリーダーということになっていた。

 「それで俺は、奴の膝を狙って一閃――ズバァン!“効かねぇな……でも、効かせる!”って言ってやったのさ」

 机をドンと叩いて力強く語る。

 「リーナやセリナも“ハルトくん、すごい!”って言っててさ!」

 「『私……もう一生ついていきます!』って言われた時は、さすがに照れたよな〜!」

 女子生徒たちが「え、マジで?」「きゃ〜」と半分冷やかし混じりに笑う。

 陽翔はその笑いを好意と勘違いして満足げに頷いた。

 「あとさ、あの練習用の罠あったろ?あれも俺、わざと引っかかったんだよ」

 「えっ、わざと?」

 「そう!あいつらガチガチに緊張してたからよ。リーダーの俺がド派手に罠にかかれば場の空気が和むってな。あれは計算だよ、計算!」

 「へぇ〜……(苦笑)」

 Cクラスの生徒たちは曖昧な笑顔を浮かべる。


 「おい、いつの間にお前が“リーダー”になったんだ?」

 「『一生ついていきます』って、誰が言ったの?」

 「うおっ!!な、な、なんで、お前らがここに!?」

 気持ちよく自分の武勇伝を語っていたところに、後ろからいつものメンバーが現れひどく狼狽する陽翔。

 5人は一様に陽翔を白い目で見る。

 「ち、違うんだ!これはCクラスのみんながB級ダンジョンでのことを聞きたいっていうから……」

 「確かにお願いしたのは僕たちなんだけど、こう毎日、来られると……」

 アレクが苦笑しながら言う。

 「しかも、日に日に言うことが誇張されていくし……」

 「あっ!テメー、アレク!お前か、リオンたちを呼んだのは?!」

 「お前……ほかのクラスのヤツに迷惑をかけるな……」

 リオンが冷たく言い放つ。

 リーナが腕を組み、呆れたようにため息をついた。

 「少しは見直したと思ったのに……結局これだもんね」

 セリナが冷ややかに微笑む。

 「光栄に酔い、闇に溺れる……それはまさに“英雄病”だ」

 シエラは腕を組み、淡々と一言。

 「……次、戦場でそんな調子なら、真っ先に死ぬな」

 カイルも苦笑した。

 「ハルト君……これは、さすがにフォローできないよ」


 教室の空気が静まり返る。

 陽翔は赤面しながら、しどろもどろに言葉を探した。

 「だ、だって!Dクラスでは誰も褒めてくれないし、だからってAクラスには行けないし……!Bクラスには、あの、シスターの皮を被った悪魔みたいなドS変態ヒーラーがいるし!」

 「――誰が、シスターの皮を被った悪魔ですか?」

 「ぎゃあああああああああああ!!!?」

 慈愛の微笑み、手には黒革のムチ。

 突然のセラフの登場に陽翔は悲鳴を上げる。

 「な、な、なんでお前がここにー!!」

 「こんなことだろうと思って呼んでおいたんだよ」

 「リオン!お前、ふざけんな!」

 「ふざけているのはあなたです」

 「ぎゃああああああああ!!」

 セラフの鞭が容赦なく陽翔に叩きつけられる。

 黒革の鞭を指先で撫でながら、セラフは静かに微笑んだ。

 「他クラスに迷惑をかけ、事実を歪めてまで自分を飾る……その愚行、すなわち虚飾の罪。承認のために嘘を積み重ね、自らを偶像とする……それもまた怠惰の派生。努力を怠り、他者の評価に逃げた証拠です」

 「ひ、ひぃっ……な、なんだよ、それ……っ!」

 陽翔が後ずさる。

 セラフは一歩踏み出し、鞭を激しく振るう。

 「――女神の名のもとに、あなたの怠惰を戒めましょう」

 「ぎゃあああああああ!!!」

 「感謝しなさい。これは罰ではなく、救いです」

 「誰がそんな救い求めたぁぁぁ!!!」

 陽翔の悲鳴が響き渡る。

 「ひぃっやめっ……ちょ、すみません調子乗ってましたぁあ!!ゆ、許してー!」

 「ダメです!昼休みが終わるまでまだ時間があります!さあ、それまで懺悔なさい!」

 パシィンッ! パシィンッ!

 「女神様の愛をもって、あなたを救済の痛みで清めます」

 「ひぃぃぃぃ助けてぇぇえ!!女神様!!」

 その光景にCクラス生徒たちは、ドン引きだった。

 「ひぃぃぃ……死ぬ……俺はここで死ぬ……」

 リオンは疲れ切った声で言った。

 「……あまり殺さないでやってくれ」

 「はい、ギリギリで止めます♡」

 (……つまりギリギリまで止まる気がないということか……)

 静まり返ったCクラス。

 生徒たちは椅子ごと身を引き、誰も助けようとはしない。


 リオンは、鞭で涙まみれになった陽翔をしばらく見つめた。

 (少しは成長してくれたと思ったんだがな……)

 セリナが肩をすくめる。

 「哀れ……虚栄の果てに、痛みの洗礼とは」

 リーナがため息をついた。

 「まあ、これくらいやらないと懲りないよね……」

 シエラは短くまとめた。

 「……バカは痛みで覚えるしかない……」

 「うぅ……りおぉぉん……たすけ……」

 「……昼休み、もう少しあるぞ」

 「ぎゃああああああああ!!!」

 その悲鳴を背に、リオンは静かに廊下へ出た。

 (――まあ、痛い目を見て覚えるのも、成長のうちか)

 そう思いながら、再び深くため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 


 


 

 

 

 

 

 


 


 

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