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B等級ダンジョン攻略 その3

 リオンたちはB等級のダンジョンの深部に入り、慎重に回廊を進んでいった。

 先ほどのダークハウンドの群れを難なく撃破し、順調そのもの――だが、深部は空気がさらに重く変化していく。


 「……魔力の密度がさらに上がってるな。ここから先が本番か」

 リオンが呟くと、仲間たちは小さく頷いた。

 「魔物の気配がない……しかし、魔力密度は高い……妙だな、ハルト、偵察頼む」

 「ったく、俺ばっか偵察役かよ……わーったよ」

 陽翔は軽口を叩きながらも、再び姿を溶かすように影へと沈んだ。


 数分後、戻ってきた陽翔の顔が引きつっている。

 「お、おい……やばいぞ。前方に“光る壁”がある。魔力がビリビリして近づくだけで髪が逆立った!」

 「光る壁……?」

 リオンは思案し、仲間たちと共にその地点へ向かう。

 「魔力共鳴障壁マナ・エコー・フィールドか。魔力に反応して暴走する壁だ。魔力が高いヤツほど危険だな」

 「ええ!じゃあ俺、やばいじゃん!」

 「そうだな、お前は【魔力量測定器マナ・ゲージ・コア】を爆発させるほどの魔力を持ってるんだ。普通なら確実に死ぬな」

 「おい!」

 「落ち着け。あくまで、普通の魔力共鳴障壁マナ・エコー・フィールドならだ」

 リオンは淡々と返し、壁の縁に視線をやる。

 「見てみろ、障壁の縁に“制御符”が刻まれてる。学園指定のダンジョンなだけあって危険罠には、安全制御が組み込まれてる。致命傷になる直前に魔力が遮断される。――まあ、衝撃や痛みは本物だろうがな……相変わらず過保護だな……」

 リオンは顔をしかめる

 「その代わり、発動させたら強制転送で大幅減点ってとこか。ほとんどのチームは避けて通るだろう」

 リオンは障壁をじっと見つめながら、仲間たちに視線を向けた。

 「普通は避ける。別に間違った判断じゃない。余計なリスクを負わないのも、冒険者としての資質だ。――で、お前たちはどうする?」


 陽翔がニヤリと笑う。

 「そんなの決まってんだろ。挑戦するに決まってる!」

 リーナが勢いよく手を挙げる。

 「うんうん!ここで逃げたら“最強チーム”の名が泣くよ!」

 セリナは闇の魔力を指先にまとわせ、静かに微笑んだ。

 「未知の扉は、開く者を試す……怖れる者には決して微笑まない。なら、答えは一つ」

 シエラは腕を組み、真っ直ぐに前を見据えた。

 「目の前の障害を避けて逃げるのは臆病者する事。リュカオン族の誇りが許さない」

 カイルは少し躊躇いながらも、仲間たちを見渡した。

 「そ、そうだね……何事も挑戦しなきゃ始まらない、よね……」

 リオンは小さくため息をつき、苦笑した。

 「はぁ……ほんと、止めても無駄か。――よし、突破するぞ」

 「おおっ、リオンが乗った!」

 陽翔が歓声を上げる。

 「勘違いするな。無理だと判断したらすぐ撤退するからな」

 リオンがぴしゃりと釘を刺す。


 淡く輝く通路を前に、リオンたちは足を止めた。

 壁、床、天井――あらゆる面に埋め込まれた魔力結晶が、淡い光を脈打つように明滅している。

 空気が張りつめ、わずかな息づかいさえ魔力を刺激しそうな緊張が漂っていた。

 「よし! ここは俺が先導する!」

 陽翔が胸を張る。

 「大丈夫なのか?」

 リオンが確認すると、陽翔は自信満々に親指を立てた。

 「舐めるなよ!日々、お前とあのドSヒーラーから逃げるために、微弱な魔力を察知する感覚が鍛えられたんだからな!」

 「……それ、自慢になってなくない」

 リーナが即座にツッコミ、他の女の子たちも冷めた目を向けた。


 「う、うるせーな!いいから見てろ!」

 陽翔は小さく息を吐き、すっと目を細める。

 「……微弱だけど“揺れ”がある。魔力の濃い部分と薄い部分が交互に動いてる――たぶん、この細い道が“安全地帯”だ」

 言葉と同時に、陽翔は姿勢を低くし、慎重に足を運ぶ。

 確かに、彼が通る床だけは何の反応も示さない。

 「……なるほど、感覚で魔力の波を読んでるのか。大したもんだ」

 リオンが小さく感心し、仲間たちに号令をかける。

 「よし、陽翔の後に続け。魔力を抑えて、余計な刺激は与えるな」

 六人の影が、青白く光る回廊の中を静かに進み出した。

 彼らの足音だけが、脈打つ結晶の響きに溶けていった――。


 リオンチームは安全地帯を慎重に進んでいく。しかし、途中で先頭の陽翔が突然、足を止めた。

 「どうした?」

 「やべー……」

 顔は見えないが、声でだいぶ焦っていることがわかる。

 「床、イヤ、それだけじゃねえ……壁や天井も、安全地帯が動いている……しかも、ランダムだ……これじゃあ、先に進めねえ」

 そういう言われて、リオンも意識を集中してみる。確かに魔力共鳴障壁マナ・エコー・フィールド内の核が不規則に動いているように感じられる。

 リオン一人なら、ランダムに動く安全地帯を素早く察知し、素早く移動することで前に進めるだろう。しかし、チーム全体が前進するとなるとこれは厄介な状況だ。

 「どうする?引き返すか?」

 リオンが短く問うと、誰もすぐには答えられなかった。

 空気は張りつめ、淡い光の粒子が静かに揺らめく。


 その沈黙を破ったのは、セリナだった。

 「ここは、我にお任せをマスター」

 「何か方法があるのか?」

 「我が闇魔法が制御できるのは人や魔物だけではございません。ご覧ください」

 そう言うとセリナは杖を振る。

 「闇は混沌の中にこそ秩序を見出す――沈め、《ノクティス・パルス》」

 闇の魔力が波のように壁を走り、青白い光を一気に飲み込んでいく。

セリナの闇魔法によって、ランダムに動く核が一時的に沈静化する。

 「すげぇ!さっきまで動いていた安全地帯が止まった!これならいける!」

 「よし、今のうちに進め!」

 リオンの指示に、陽翔を先頭にチームは慎重に進み出す。

 

 「あと少し……」

 魔力共鳴障壁マナ・エコー・フィールドの通路の出口も見えてきた。

 いかし――

 突然、リオンたちの視界が一気に白く霞んだ。

 「な、なんだ!?霧……?」

 陽翔が思わず声を上げる。

 リオンもすぐに眉をひそめた。

 「ただの霧じゃない……これは――**幻惑霧イリュージョン・フォグ**だ。魔力を乱し、感覚を狂わせる。吸い込むな!」

 その警告とほぼ同時に、陽翔がよろめいた。

 「う、おおお……頭がグルグルする……!視界が、二重に……」

 セリナも杖を支えながら膝をつく。魔力の流れが完全に乱されている。

 「この霧……脳に直接干渉してきますわ……魔力制御が……っ!」

 普段の中二ちっくな口調が崩れ、思わず素のお嬢様言葉が漏れる。


 「やっば、マジでヤバくない!? 全員フラフラしてんじゃん!」

 リーナが焦ったように叫ぶ。だがその目は決して怯えていない。

 「ここはウチに任せて!」

 リーナは腰のポーチから光結晶を取り出し、両手をかざした。

 「――“陽光サンライト”は霧も幻も吹き飛ばすっしょ!」

 明るい声とともに、光の魔法陣が展開される。

 「そんでお次は――癒光照ルミナ・ブレスッ!」

 金色の光がリオンたちを包み、胸の奥にこびりついたもやが一気に晴れていく。

 陽翔が大きく息を吸い込んだ。

 「おおっ……頭がスッキリした!これならいける!」

 リーナの魔法のおかげで陽翔やほかのメンバーの異常も回復する。

 「この状態がいつまでも続くとは限らない。今のうちに抜けるぞ!」

 リオンの号令に、陽翔の魔力感知が復活。再び隊列を整え、チームは光に導かれるように進んだ。


 ――数分後。幻惑霧イリュージョン・フォグの区画を抜けたところで、陽翔が息を吐く。

 「お前、やるじゃん!」

 「確かに的確なアイテムと魔法のチョイスだった。こういう時のために備えていたのか?」

 リオンの問いに、リーナは得意げにウインクした。

 「へへっ、SNSに動画アップするときとか、煙とか霧があると映えないじゃん?そのために持ってきてたんだ☆」

 「おい……」

 リオンはジト目でリーナを見る。

 「い、いいじゃん!結果的に役に立ったし!異常回復はダンジョン攻略で必要になると思って、練習したんだから!」

 「まあ、いい。結果的に幻惑霧イリュージョン・フォグの突破に役立ったんだから」

 リオンがため息をつきながら言う。

 「ふふーん、だっしょ?」

 リーナが得意げに笑う。


 「よし、それじゃあ、出口まではあと少しだ。ハルト、油断せずに魔力感知を――おい、どうした?」

 先頭の陽翔の様子がおかしい。体を震わせ、魔力共鳴障壁マナ・エコー・フィールド内の核が不規則に動いている時以上の焦りが見える。

 「おいおいおい! やべぇぞこれ!フィールドに触れてねぇのに、魔力値が急上昇してる!」

 「なにっ!?」

 リオンも意識を集中させる。

 確かに、出口付近のフィールド内――**魔力共鳴障壁マナ・エコー・フィールド**の核が不規則に震え、魔力を暴発寸前まで溜めている。

 「……おそらく、一定時間が経過すると内部の魔力が暴走する仕掛けだ。長居しすぎたな……!」

 「うわぁ!そんなタイマー爆弾みたいな仕様ありかよ!」

 「ダンジョンにはそういうトラップもある。いいから急げ!」

 急げと言われても、結局のところ、安全地帯を探し慎重に進むしかない。リオンもそれはわかっている。

 「クッ……ダメか……」

 こうなったら、仕方がないのでリオンが前に出て風魔法で少しでも仲間の衝撃を抑えて、強制退場になる確率を下げようと思ったその時


 「私に任せて」

 静かだが、強い意志を持った声が響く――シエラだ。

 後方にいたシエラが、仲間を飛び超え前に出る。

 「ううううううっ!!”あああああああっ!!」

 シエラの低い咆哮が響く。

 次の瞬間、小柄な彼女の身体が膨張し獣のように変化して、筋肉と毛並みが黄金に輝いた。

 「えっ!?なになに!?シエたん、どうしちゃったの!?」

 「落ち着け、これは、おそらくリュカオン族の獣化だ」

 リュカオン族の切り札は狂戦士状態バーサクモードともう一つ獣化というものがあると聞いたことがある。

 「――《鉄毛展開フェロウ・ハイデンス》!!」

 獣化したシエラの全身を覆う毛が膨れ上がり一瞬で鋼化し仲間たちを守る。

 その直後、ドン!という音とともに爆風が直撃。

 だが、シエラを中心に展開された鉄色の防壁が全てを受け止めた。

 炎と轟音の中、シエラの獣形態が仲間たちを庇い、動じることなく立っていた。

 やがて爆炎が収まり、焼け焦げた床に白煙が漂う。


 シエラの全身を覆っていた金属の毛がゆっくりと沈静化し、

 硬化した毛並みが再び柔らかく戻っていく。

 その巨体も次第に縮み、人の姿へと戻る。

 「シエラ!」

 リオンが駆け寄る。

 「……制御符は、発動してない。ギリギリ……自力で防げた」

 肩口から血がにじみ、全身が焼け焦げている。

「致命傷じゃない……でも、ちょっと痛い……」

 それでも、仲間を守りきった満足げな笑みを浮かべていた。

 「無茶しやがって……リーナ!回復魔法を!」

 「任せて!――《リヴィナ・キュア》!」

 シエラの全身が柔らかい光が包む。

 「ううっ……シエたん、ごめん……ウチ、まだ回復魔法うまくできなくて……」

 回復魔法は光魔法の中でも、高度な魔法だ。まだ新入生のリーナはうまく使いこなせていない。

 「そんなんことはない……すごく温かい……リーナのやさしさが伝わってくる」

 陽翔がリオンの耳元で小声で呟く。

 「魔法に優しさってあんのか?」

 「学園じゃあ、否定されているな。ただ、僕はあると思っている」


 その穏やかな空気を――地鳴りがかき消した。

 「っ!?今の音は……!」

 リオンが即座に周囲を見回す。

 「まずい……この爆発で構造が崩れ始めてる。全員、走れ!ここからは一気に駆け抜ける!」

 「了解っ!」

 陽翔が先頭に立ち、リーナとカイルが支えるようにシエラを引き上げる。

 リオンが殿しんがりに立ち、崩れ落ちる通路を駆け抜けた。

 「はぁっ……はぁっ……」

 荒い息を整えながら、リオンたちは崩れた通路を振り返った。

 後方の回廊は完全に崩落し、魔力の火花が散っている。

 陽翔が頭をかきながら笑った。

 「やべぇ……ギリギリだったな……!でも、突破成功だろこれ!」

 「ふふっ、見たかAクラス!あたしたち、やってやったんだから!」

 リーナが両手を腰に当てて勝ち誇る。

 セリナも杖を胸に抱き、満足げに微笑んだ。

 「闇も光も、己の信念のもとに進む者を祝福する……悪くない結果ですわ」

 「うん……全員、よくやった」

 リオンが静かに頷く。

 「怪我人は……シエラ、大丈夫か?」

 「問題ない……次も、守る」

 小柄な体に傷跡を残しながらも、シエラは誇り高く立っていた。


 リオンはそんな仲間たちを見渡し、ゆっくりと口元を緩めた。

 「――これで、B等級ダンジョン・魔力共鳴障壁エリア、クリアだ」

 その言葉に、チーム全員が歓声を上げる。

 互いの拳を軽く合わせ、笑顔が広がった。

 その光景は、誰よりもリオンの胸を温かく満たしていた。


 


 

  

 

 

 

  

 

 

 

 

 


 

 

 



 

 





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