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B等級ダンジョン攻略 その1

 Dクラスの教室は、朝からざわついていた。

 「おい、聞いたか?リオンのチーム、次の授業でB等級に挑戦するんだってよ!」

 「はぁ!?B等級に?無謀だろ!」

 「でも、2回目で80点取ったんだぜ。さすがリオンだな」

 「やっぱりあのチームはリオンがいるから強いんだよ」


 口々に囁かれる声は、すべてリオンへの称賛で埋め尽くされていた。

 陽翔は最初こそ胸を張ってどや顔をしていたが、まるで誰も自分を見ていないことに気づき、思わず声を荒げる。

 「おい!俺だって頑張ったんだぞ!?なんでリオンばっかりなんだよ!」

 「……いや、お前はセラフに毎日しごかれてただけだろ」

 クラスの誰かが冷静に突っ込み、笑いが起きる。陽翔は顔を真っ赤にして椅子に突っ伏した。


 数日後。リオンたちはB等級のダンジョン前に立っていた。

 厚い魔力障壁に覆われた石門は、A等級のものとは比べ物にならない威圧感を放っている。

 そこで彼らを待っていたのは、同じく挑戦に来たAクラスの生徒たちだった。

 「お、リオンじゃないか」

 声をかけてきたのは蓮だった。Aクラスでも注目株の一人で、誰にでも分け隔てなく接する柔らかな笑顔が印象的だ。

 

  「……ふん、やっと顔を合わせたな、俺のライバル!」

 陽翔が勢いよく宣言する。

 「え?……あ、そうなの?」蓮は苦笑しつつ軽く受け流した。

 陽翔の大げさなライバル宣言を無視し、リオンは蓮に問いかける。

 「B等級はA等級と比べて、どれほど違う?」

 「正直、一気に難易度が跳ね上がるよ。A等級なら実力が揃っていれば安全だけど、B等級は一つ判断を誤れば全滅する可能性がある」

 蓮は真剣な表情で答える。

 「それに……ここだけの話だが、Aクラスの勇者派閥は平民チームや気に食わない相手に妨害を仕掛けることがある。もちろん表向きは禁止だけど、奴らは頭が回るからな……証拠を残さないようにやるんだ」


 「妨害だと?」リオンが目を細める。

 「気をつけてくれ。君のチームは目立ってる。次は標的にされるかもしれない」

 蓮はそれだけ告げると、仲間のもとへ戻っていった。

 残された陽翔は拳を握りしめ、蓮の背中を見て吠える。

 「くそっ……絶対負けねぇ! ライバルとして俺が勝つのは決まってんだ!」

 リオンは額を押さえ、ため息をついた。

 (……勝手にライバル視して勝手に燃えるなよ。こっちはチームの安全で頭がいっぱいなんだから)

 

 そんな中で、蓮の言ったようにリオン達は目をつけられているらしく、まわりからひそひそと悪口が聞こえてくる。

 「Dクラスのチームが何でB等級に」

 「A等級で高得点を取ったんだってよ」

 「どうせまぐれだろ。身の程を知れってんだ」

 その中でも、カイルにだけ鋭く言葉が飛ぶ。

 「あれは、カイルか?本当にDクラスにいたんだな」

 「勇者派閥の面汚しが」

 「小さい頃から何も変わってないな。腰抜けのままだ」

 そういえば、カイルは下級貴族出身だったが、一応、勇者派閥の一員だったなとリオンは思い出す。

 どうやらその中でも肩身が狭いと言っていたのは事実らしい。

 カイルがうつむいて拳を震わせている。


 リオンは声をかけようと口を開きかけたが、その前にリーナがにっこり笑って言った。

 「気にしなくていいよ、カイルっち! AクラスだとかDクラスとか関係ないでしょ? なんたってウチら、最強チームなんだから!」

 「……リーナさん……」

 カイルは顔を上げ、わずかに表情を和らげた。

 リオンはその様子を見て、口を閉じる。

 (……なるほど、こういう時はリーナに任せるのが一番だな)

 そして一歩前に出て、珍しく声を張った。

 「よし! 行くぞ! まわりの声なんか気にするな! 結果を出して黙らせてやれ!」


 「これより第3回ダンジョン攻略授業を始める。各チーム、順番に並べ」

 教官の号令とともに、生徒たちがぞくぞくと転移陣の前へ列を作りはじめた。

 リオンたちも列に加わろうとしたそのとき――Aクラスのチームが横から割り込み、彼らの前に立ちふさがる。

 「おい、Dクラスは後ろに並べ」

 「俺たちAクラスより前に出るなんて百年早いんだよ。分をわきまえろ」

 陽翔はその横柄な態度にムッとし、思わず声を上げた。

 「なんだよそれ、順番なんて早い者勝ちだろ!」

 だがリオンが軽く手を上げ、静かに制した。

 「……別にいい。後ろで構わない」

 「リオン! なんでだよ!」陽翔が食い下がる。

 リオンは肩をすくめ、冷ややかに返した。

 「制限時間はどのチームも同じだ。先に入ろうが後に入ろうが変わらない。――まあ、要するにDクラスに先を越されるのが嫌なんだろう。無意味なプライドだ」


 その一言に、Aクラスの面々が一瞬だけ顔をこわばらせ、「チッ」と舌打ちが響いた。

 リオンたちはそんな連中を無視して、列の後方へと向かう。

 「ちくしょう……何か納得いかねえなあ。――あ、でもさ、後から入った方が罠も魔物も片付いてて得なんじゃねぇの?」

 陽翔の言葉に、リオンは小さくため息をついた。

 「残念だったな。学園指定のダンジョンには“リポップ”の仕組みがある。罠も魔物も一定時間で復活するんだ。先に入ろうが後に入ろうが条件は同じだ」

 「そうなのか……」

 「A等級のダンジョンでも同じだったろ?」

 「そうだっけ?」

 「……何も考えずに攻略してたんだな」

 「うっせ!」


 リオンたちは列の後方へと移動した。

 そこでは、まだ並びきれていないチームが何組か待機していた。

 また揉めるのも面倒なので、先を譲る事にする。

 「お先にどうぞ」

  すると、声をかけられた生徒たちは軽く笑って首を振った。

 「いや、あー、俺たちは気を使う必要はないよ」

 「君たちが先でいいさ」

 どうやらAクラスのチームのようだが、態度は先ほどの連中とはまるで違う。

 「お、Aクラスにもまともな奴がいるんだな」

 陽翔が感心したように言う。


 「俺たちは平民出身だからね」一人の男子生徒が苦笑した。

 「前のほうで偉そうにしてるのは、ほとんどが上級貴族――特に勇者派閥の連中だよ」

 「へぇ……じゃあ、蓮のチームは?」陽翔が首を傾げる。

 「蓮たちは別格だよ」

 「模擬戦で上級生を倒した上に、今は生徒会役員だ。勇者派閥も手を出せない」

 「蓮のおかげで、俺たち平民への露骨な嫌がらせも減ったんだ。まさに英雄さ」

 平民出身のAクラスチームが誇らしげに語ると、陽翔はむっつりと口を尖らせた。

 「けっ……英雄ねぇ……」

 リオンが苦笑して肩をすくめる。

 「大人げないぞ、陽翔」

 セリナが冷めた目で呟く。

 「……闇は嫉妬を糧に肥大する。浅ましい感情ね」

 リーナがため息をつく。

 「そういうとこが、モテない理由だと思うよ」

 シエラは腕を組んだまま、短く言い放つ。

 「くだらん」

 「お前ら全員冷たすぎない!?」

 陽翔が両手を振り上げて叫ぶと、周囲にくすくすと笑いがこぼれた。


 そんなやり取りの最中、教官が前方で声を上げる。

 「それでは――最初のチームから入れ!」

 転移陣が淡い光を放ち、Aクラスの先頭チームが姿を消す。

 続いて二組目、三組目と、一定の間隔で転移が続いた。

 やがてリオンたちの番が近づく。

 転移陣の光は床一面に複雑な魔法陣を描き、淡い魔力の粒子が宙を漂っている。

 見慣れた光景のはずなのに、今日はなぜか緊張が走った。


 「……いよいよだね」

 カイルが小さく呟く。

 「へっ、何を怖気づいてんだよ!」

 陽翔が鼻で笑い、拳を鳴らした。

 「蓮ばっかり目立ってるけど、今回は俺たちが見せてやる番だ!」

 リオンは横目で見ながら、苦笑いを浮かべる。

 「……張り合いがあるのはいいけど、空回りするなよ」

 「うっせー、分かってる!」

 リオンは小さく息をつき、仲間たちを見回した。

 「全員、気を抜くなよ。いつも通り、連携重視でいく」

 五人の視線が交差し、頷き合う。

 カイルが拳を握り、リーナが笑みを浮かべ、セリナの瞳が静かに光を宿す。

 シエラは無言で頷き、陽翔が大きく息を吐いた。

 チームの鼓動が、ひとつになった。

 「リオン・アルスレッド班、転移開始!」

 教官の声とともに、足元の魔法陣が眩い光を放つ。

 次の瞬間、視界が白に包まれ、重力が一瞬だけ消えるような感覚が走った。


 ――そして、彼らの姿はB等級ダンジョンの暗き石の回廊へと消えた。

 

 

 

 

 


 

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