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B等級ダンジョンに挑戦

 石造りの回廊に魔物の群れが現れる。前回はてんでバラバラだったDクラスのチームが、今回はまるで別人のように動いていた。


 先頭に立つ陽翔は、以前のように我先にと突っ走ることはない。

 リオンの指示を聞き、仲間と足並みを揃えている。

 (くそ……本当は一番に突っ込みてぇけど……あの女王様シスターの顔が浮かぶ……!)

 今までリオンの特訓から逃げてばかりいたせいで、皮肉にも磨かれた潜伏と逃げ足の技術を活かし、影に回り込み奇襲しては敵を削る。


 セリナは完成させた自作の自動詠唱杖を握り、流れるように魔力を紡ぐ。

 以前のような自己顕示欲まみれの長大詠唱ではなく、短く鋭い詠唱で戦線を支える。

 闇属性Aという希少な適性を活かした魔法は、敵の動きを鈍らせ、味方の攻撃を通しやすくする。

 「闇に沈め……《シャドウ・バインド》!」

 影が音を立てて絡みつき、魔物の足を縛る。甲高い悲鳴が回廊に木霊し、次の瞬間、仲間の剣や矢が叩き込まれ、次々と魔物が倒されていく。

 

 リーナはSNS機器を没収された反動で、光魔法に集中。

 味方の傷を癒やし、光の壁で守りを張る。

 「大丈夫、ここは私が守る!」

 彼女の支援が後方を安定させ、戦線崩壊を防いでいた。


 シエラは拳に鉄爪を装着し、低く構える。

 魔物が牙を剥いて飛びかかってくるや否や、回し蹴りで叩き落とし、床石を砕く轟音が回廊に響いた。

 さらに、倒れ込む魔物の首筋に鉄爪を突き立てる。

 「……落ち着け。まだ暴れるな」

 返り血を浴びても瞳は冷静で、かつての暴走は影を潜めている。

 杖を片手に魔力を放ち、敵を一瞬ひるませる。

 直後に間合いを詰め、空いた手で杖を振り抜く。

 「ゴンッ!」

 石の棍棒のような音が響き、魔物の顎が跳ね上がった。

 彼女にとって杖は殴打の補助器具でもあった。


 そしてカイル。これまでなら慌てて敵に背を向けていたが、今は後方で冷静に弓を構え、仲間の死角を補っている。

 「右後方、二体!リーナさん、援護します!」

 その声は震えていたが、矢は正確に魔物を射抜いた。

 最後尾でリオンは全体を見渡し、指示を飛ばす。

 「陽翔、回り込め!セリナ、足止めを!カイル、援護を忘れるな!」

 時折、取りこぼした魔物を鮮やかに仕留めながら、チームの動きを一つにまとめ上げる。


 ――結果、討伐は見事な成功を収めた。

 教官サイラスは記録水晶に映し出された戦闘を確認し、目を細める。

 「……Aクラス並みの連携だ。あの無様な初回から、よくここまで立て直したものだ」

 ペン先が採点表に走り、数値が記される。

 「80点。この内容からすれば妥当だろう」

 そう言いながらサイラスは鼻を鳴らす。

 「もっとも……出来るなら最初からやれと言いたいがな」

 リオンは淡々と頷いた。

 (セラフのやり方はどうかと思ったけど……効果は抜群だったな)

 しかし、点数を告げられたにもかかわらず、リオンチームの面々に歓喜の色はない。

 サイラスは不審に思い、首を傾げる。

 「……なぜリオン・アルスレッド以外が全員、死人みたいな目をしているんだ?」

 まさか他クラスの女生徒に鞭でしごかれてましたとは言えるはずもなく、リオンは苦笑して肩をすくめた。

 「……まあ、色々あったんです」

 こうしてリオンチームは、強引な手段ながらも退学の危機を辛くも回避したのだった。


 食堂の一角に集まったリオンたちは、トレイに並んだ少し豪華な肉料理を前に、ささやかなお祝いをしていた。

 結果を出したことで、セラフのしごきは一旦終了となり、仲間たちの瞳にはようやく生気が戻っていた。

 もっとも――陽翔だけは別だった。


 「なんでだよぉぉ!俺はもう十分頑張っただろ!?なあリオン!?」

 「ダメだ。お前の毎日の訓練には、これからセラフさんにも同行してもらう」

 「はあああ!?なんでだよ!心臓止まるわ!」

 リオンは陽翔の猛抗議を完全に無視し、あっさりと話を切り捨てる。

 「むしろ安心だろ。僕が見てないところでも、絶対にサボれないからな」

 「サボりたいわけじゃねぇぇぇ!いや、ちょっとはあるけど!!」


 そんなドタバタを抱えつつも、全員で肉料理を前にカップを掲げた。

 「いやー、それにしても俺たち、やったな!80点だぜ!Aクラス並みじゃん!これなら上位を狙えるんじゃねぇか!?」

 陽翔が得意満面で叫ぶ。

 リオンは苦い顔をしてスプーンを置いた。

 「馬鹿を言うな。初回は0点だったんだぞ。今回80点を取ったところで、合計は80。つまり平均は40点……赤点ギリギリだ」

 「うっ……!」陽翔は肩を落とす。


 だがリオンはさらに現実を突きつけた。

 「それに、Aクラスのチームのほとんどは2回目でB等級のダンジョンに挑戦している。B等級以上は討伐したレアモンスターや入手したレアアイテムでも加点がつくんだ。僕たちは“点数だけならAクラス並み”を一度やっただけ。他のチーム、特にAクラスのチームに追いつくには程遠い」

 「じゃ、じゃあ、俺たちもB等級に挑戦する!」

 陽翔はすぐに声を張り上げた。

 「何を言ってるんだ!」リオンが眉をひそめる。

 「A等級で確実に点数を稼いで赤点を回避したほうがいい。難易度が上がれば連携が崩れて、また0点……今度こそ退学だぞ」


 しかし、女の子たちは意外にも陽翔に同調した。

 「……我は闇に選ばれし者。安寧のぬるま湯に沈むなど、退屈極まる愚行……さらなる深淵を目指すべきだ」セリナが瞳を細め、杖を掲げる。

 「私は賛成。ここで守りに入るのは違うと思う」リーナが真っ直ぐリオンを見返す。

 「強い敵と戦ってこそ、力になる」シエラも短く言い切った。

 カイルは口を開きかけたが、周囲の空気を読んで押し黙る。

 「お、おお……!俺と女の子たちの意見が一致するなんて!」

 陽翔は顔を輝かせたが――


 「……我が言葉を、貴様への同調と勘違いするな」

 「私は私の考えを言っただけ。ハルトのことは眼中にない」

 「調子に乗るな」

 相変わらず、陽翔に対する女の子たちの態度は冷たい。

 「なんでいつもそんな冷たいんだよ!?せめて意見が一致した時くらい優しくしろよ!」

 陽翔の叫びが食堂に響き渡り、周囲の生徒たちがぎょっと振り返った。

 リオンはため息をつき、額を押さえる。

 「……仕方ないな。だがB等級に挑戦するには教官の許可が必要だ。サイラスに断られたら諦めろ」


 「いいだろう」

 「えっ!」

 サイラスの答えに、予想外すぎて、リオンは言葉を飲み込んだ。

 ――放課後。皆の熱意に押さたリオンは陽翔たちを引き連れ、サイラスのいる教官室に足を運んだ。

 どうせ許可は出ないだろうと内心では思っていたが、結果は拍子抜けするほどあっさりとしたものだった。


 「初回は論外だが、2回目の連携を見る限り、B等級でも問題ないだろう」

 サイラスは淡々と告げる。

 「やったああああ!」陽翔が真っ先に叫び、セリナやリーナも顔を輝かせた。

 シエラも僅かに口元を緩め、カイルは驚きに口を開いたまま固まっている。

 だがサイラスの声がすぐに鋭さを帯びた。

 「ただし、初回のような無様な内容を見せたら容赦なく0点だ。そのつもりで挑め」

 喜びの空気が一瞬で引き締まり、全員が背筋を伸ばす。

 リオンは深く頷き、仲間を見渡した。

 (……どうせ許可は出ないと思っていたが、こうなってら仕方ない。全力で臨むしかないか……)

 こうして、リオンチームはB等級ダンジョンへの挑戦を決めたのだった。

 

 





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