ダンジョン攻略授業反省会
初めてのダンジョン攻略授業が終わったその日の午後。
Aクラス~Dクラスの全生徒が、学園中央棟の大講義室へと集められていた。
天井近くに設置された巨大な魔導投影装置が淡い光を放ち、壁一面のスクリーンに映像を映し出す準備が進められている。
教壇に立つのは、知略派で皮肉屋として知られるサイラス・クロウフィールド教官だ。
細身の杖を軽く指先で叩きながら、生徒たちをゆっくりと見渡し、口を開く。
「諸君、今日は通常の講義ではない。初めてのダンジョン攻略――その成果を、全員で共有してもらう。そして、明日からのダンジョン攻略授業に役立ててほしい」
ざわめく生徒たちを制し、サイラスは冷ややかに続ける。
「順を追って見ていく。点数の低いチーム、平均的なチーム、高得点のチーム、そして……特に印象に残ったチームをだ」
そうして、映像と共に反省会が幕を開けた。
巨大なスクリーンには、まずDクラスのあるチームの映像が映し出される。
罠の前でひやひやしつつも、仲間同士で声を掛け合い、なんとか回避。戦闘では足並みが揃わず危ない場面もあったが、互いにカバーして持ち直す姿が映っていた。
サイラスは皮肉げに口端を歪める。
「ふむ……まだまだ未熟だな。罠を見抜いても解除に手間取り、戦闘でも役割分担ができていない。だが、最後まで踏ん張った点は評価できる。点数は――45点だ」
会場からは失笑が漏れ、「やっぱりDクラスだな」と冷めた視線が向けられる。
次に映ったのはCクラスのチーム。
罠の前で相談し、慎重に解除を試みる姿勢は見られた。しかし時間がかかりすぎ、モンスター戦では回復や援護のタイミングが遅れて大幅に消耗していた。
「ふむ……罠の扱いは慎重すぎて時間の無駄。戦闘でも援護が遅れ、前衛が何度も致命傷寸前に陥っている。討伐数、アイテム回収は平均以上だが、効率が悪すぎるな。点数は――55点」
サイラスの声は冷ややかだったが、映像に映っていたCクラスの生徒たちは胸を撫で下ろしていた。
続いて映し出されたのはBクラスの映像。
罠の回避はスムーズで、敵との戦闘もある程度役割分担ができていた。しかし前衛と後衛の間が離れすぎる場面が目立ち、カバーが間に合わないことも多い。
「多少の連携は見られるな。罠も戦闘も悪くはない。だが、まだ互いの動きが噛み合っていない。詰めが甘い。点数は――65点」
会場の空気が少し引き締まった。Bクラスは悔しそうに拳を握る。
次にスクリーンに現れたのは、Aクラスのチーム。
見事な連携で罠を回避し、モンスターの群れを無駄なく撃退していく。合図、隊列、魔法と体術の連動、その全てが整っていた。
「ふむ、さすがAクラス。罠の回避、モンスター討伐、アイテムの入手。全てが高水準にまとまっている。点数は――80点」
場内から感嘆の声が漏れた。
サイラスが細身の杖で教壇をコツリと鳴らし、声を張る。
「それでは、この中でも特に優秀なチームを紹介しよう」
スクリーンに映し出されたのは蓮のチーム。
罠は迅速に処理され、戦闘は前衛と後衛が息を合わせ、回復と援護が寸分違わず重なっていく。映像の中の連携は、他のクラスとはまるで次元が違っていた。
「見事だ」サイラスの声が低く響く。
「初めてのダンジョン攻略で、ここまで完璧な連携を見せた生徒を私は知らない。罠も討伐もアイテムも、全てにおいて非の打ち所がない。――点数は95点」
会場がざわめき、羨望の視線が蓮とその仲間たちに注がれる。
陽翔は机を叩き、悔しげに歯を食いしばった。
(ちくしょう……!でも、討伐数じゃ俺たちの方が上だ。アイテムだって手に入れた。きっと俺たちの方が上に決まってる!)
そう信じて疑わず、内心では期待に胸を膨らませる。
「そして、これが今回、最も“印象に残った”チームだ」
サイラスが口元に冷笑を浮かべ、リオンたちの名を読み上げた。
「おおっ!」陽翔が立ち上がる。
だが次の瞬間、サイラスは淡々と告げた。
「評価は――0点だ」
「なっ……!」
陽翔、カイル、セリナ、リーナ、シエラ、そしてリオンですら目を見開いた。
「おかしいだろ!」陽翔が声を荒げる。
「魔物の討伐数ならどのチームより勝ってる! アイテムだって――!」
サイラスは冷ややかに一蹴する。
「魔物の討伐数、入手アイテム、確かに最も多かった。だが……チームとしての連携はゼロ。むしろ互いに足を引っ張り合い、ほとんどリオン・アルスレッド一人のスタンドプレーで終わっている。そして、シエラ・リュカオンの暴走で別フロアの魔物を刺激し、他チームにまで迷惑をかけた」
杖をコツリと床に叩きつけ、冷酷に言い放つ。
「結果として――評価は、0点だ」
講義室に爆笑が巻き起こる。
「0点だってよ!」
「いくらDクラスでもありえねぇ!」
「ほんとに見本みたいな駄目パーティだな!」
陽翔の顔が真っ赤に染まり、机を叩いて震えていた。
「そうかもしれないけど、いくら何でも0点はないんじゃあ……」
なおも食い下がろうとする陽翔に、サイラスは冷たく瞳を細めた。
「冒険者に必要なのは、連携だ。単独で突っ込む者がいれば全滅を招く。――その最悪の例が、君だ、ハルト・スズキ」
サイラスが杖を鳴らすと、魔導投影装置が切り替わり、陽翔が魔物の群れに単独で突っ込んでいき、あっという間に囲まれて窮地に陥っている映像が再生される。
「このように、自己承認欲求にかられ、無謀に群れへ飛び込むなど愚の骨頂。皆もよく見ておけ。こうした行動は仲間全員の命を危険に晒す。――決して真似してはならない」
「ちょ……やめろって!」
自分の恥ずかしい映像を見せられ、陽翔の顔は耳まで真っ赤に染まる。
そして最後に、サイラスはとどめを刺した。
スクリーンに再び映し出されたのは、ダンジョン入り口で宙吊りになっている陽翔の姿だった。
「私も十年近くこの学園で教えているが……練習用の罠に引っ掛かった生徒を見るのは、君が初めてだ」
爆笑が講義室を揺らした。
「練習用で!?」「マジかよ!」「伝説になるぞ!」
陽翔は椅子に崩れ落ち、身を縮めるしかなかった。




