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Dクラス 武器・スキル訓練・初日

 ――Dクラス 武器・スキル訓練・初日


 訓練場に集まったDクラスの生徒たちは、ジャージ姿でざわざわと話しながら、なんとなく列らしきものを作っていた。

 初日特有の緊張感はあったが、それ以上に、好奇心や期待、不安が入り混じった学生らしいざわつきが場に満ちていた。

 「ふふふ……ついに来たか。俺の本領発揮タイム!」

 列の後方で、陽翔が腕を組んで不敵に笑っていた。

 「今度こそ、俺……なんかやっちゃいました!ってなる気がするんだよなあ!」

 「……懲りないな、お前は」

 隣のリオンが呆れたように返すと、カイルが苦笑をこぼした。


 「でも、まあ……ポジティブなのはいいと思うよ。たぶん」

 「たぶん、てなんだよ!」

 陽翔が突っ込むも、カイルの笑顔は気弱そうに揺れるだけだった。

 そんな様子を見ながら、リオンはふと、昔の訓練を思い出していた。


 ――武器の技術やスキルは、本来バラバラだった。

 貴族なら家伝の型、平民なら村の剣術道場や近所の兵士の見よう見まね。統一された理論なんてなく、教官は「必要最低限の動き」だけ教えて、あとは実戦に放り出されるような時代だった。

 それが今では、魔法と同じように武器スキルも理論化され、体系的に教わるという。

 「――どんなもんか、ちょっと楽しみだな」

 リオンはぽつりと陽翔にだけ聞こえるような声で呟いた。

 「お? 珍しくリオンが前のめり?」

 「前のめりじゃない。興味はあるだけだ」

 「それを前のめりって言うんじゃねえの?」


 そんな陽翔とリオンのやり取りを横で聞きながら、カイルはやや緊張した面持ちで言った。

 「……僕は、こういう打ち合い、あんまり得意じゃないなあ……」

 「お前、苦手なの?」と陽翔。

 「うん……ちょっと。昔、手合わせで怖くなっちゃって……」

 言い淀んだカイルの表情は曇っていた。

 それ以上は言わなかったが、リオンはその空気を感じ取り、あえて何も言わなかった。

 (――まあ、最初はみんなそんなもんさ)

 リオンは内心そう思いながら、前方の教官到着を告げる足音に目を向けた


 やがて、足音が響き、一人の人物が現れた。

 一人は、魔力制御の教官であるアルド・グレンツと同じく巨漢だが、印象はまるで違った。

 グレンツと違い、その顔は驚くほど穏やかで、張りついたような微笑みと黒縁眼鏡が特徴的だった。

 「――皆さん、はじめまして。武器・スキル訓練を担当します、ブルーノ・ザルツマンです」

 その語り口は、まるで司書が朗読を始めるかのように静かで丁寧だった。

 「本日はまず、基本動作の意味と価値について、正確に理解していただきます。“できる”ことと“わかっている”ことの区別がつくようになるまで、何度でも、繰り返します」

 生徒たちは一斉に緊張した。声を荒げることなく、怒ることもなく、静かな圧力が場を支配していた。


  「そして今日は特別に、特別講師をお呼びしています。君たちがこれから学ぶスキルの編纂に携わり、基本理論、そのベースを作り上げた方です。しっかり話を聞くようにしましょう」

 その言葉に、生徒たちがざわめいた。

 「紹介します――ハグロ・ジンザエモン先生です」

 その名が告げられた瞬間、リオンの肩がぴくりとわずかに動いた。

 まさか、そんなはずは――と、思った時だった。


 そして現れたのは、小柄な老人だった。だが、その背筋はしゃんと伸び、動きには一切の無駄がない。ただ者ではないと一目で分かる佇まいだった

 「はい、皆さん、特別講師を務める、ハグロ・ジンザエモンです。これから教えるのは私も編纂に携わった《王立騎士式バトルアーツ》です。今回の訓練で初めて武器を持つ人もいるでしょう。決して気を抜かず、ケガのないよう訓練をしていきましょう」

 口調は軽く、語りは柔らか。生徒たちの緊張をほぐすように、にこにこと笑みを絶やさない。

 しかし、リオンと目が合った瞬間、驚きに目を見開き、気まずそうに目をそらした。


 「さて、今日は武器の基本動作と、それに伴う基礎スキルの習得を目指します。皆さんそれぞれ、扱う武器は違うと思いますので、まずは訓練用の武器を選んで受け取ってください。そして、何人かとグループを作ってください」

 リオンは何か言おうと思ったが、ブルーノが指示を出したので一旦はその指示に従う事にした。

 生徒たちは訓練用の武器を手に取り、それぞれのグループに分かれて動き出していた。

 リオン、陽翔、カイルの三人も、それぞれの武器を手にして向かい合う。

 陽翔は長剣、カイルは片手剣、そしてリオンは短剣を手にしていた。


 「では、まず型の練習から始めましょう。基本となる一連の動きを、それぞれの武器に合わせて行います」

 ハグロの柔らかな声が場に響く。

 訓練が始まってしばらく――陽翔の動きに目を見張る者が出始めた。

 「ふっ……どうだリオン!俺、今、風になってる気がするんだよな!」

 リオンは陽翔の剣筋を見つめながら、少しだけ目を細めた。

 (……予想以上に覚えが早いな)

 手本通りとはいかないが、基本の流れをほぼ再現できていた。無駄な力みもなく、身体の連動も自然だ。

 「……神域の才能ディヴァイン・ギフト、伊達じゃないってことか」

 リオンがぽつりと漏らすと、陽翔はどや顔で親指を立てた。

 「おうよ!俺、やればできるタイプだからな!」


 一方で、カイルの動きもまた、静かに目を引いていた。

 華やかさや派手さはないが、ひとつひとつの型が丁寧で、乱れがなかった。

 「お前……思ったより動けるんだな」

 リオンが感心したように言うと、カイルは照れくさそうに苦笑した。

 「……子供のころから、無理やりやらされてたからね。貴族の家って、こういう訓練、避けられないんだ」

 「組手は苦手だけど、型だけは、それなりに」

 それは、カイルなりの“積み上げ”だった。

 恐怖で身体が動かなくなった過去を、少しでも払拭しようと、真面目に重ねた努力。

 リオンはその雰囲気を感じ取り、うなずくように小さく言った。


 「……実戦じゃすぐには役に立たないかもしれないけどな。けど、型ってのは裏切らない。お前のは、ちゃんと鍛えてる奴の動きだ」

 「そ、そうかな……?」

 「……実戦じゃすぐに役に立つわけじゃないかもしれない。けどな、型ってのは裏切らない。お前の動きは、ちゃんと鍛えてる奴のそれだ」

 「そ、そうかな……?」

 「“実戦じゃ意味ない”ってサボる奴も多いけど、こういう基礎を真面目に積み上げた奴ほど、いざってときに強いもんなんだ」

 (――まあ、昔、誰かさんに言われたセリフの受け売りだけどな)

 リオンはそう言いながら、周囲に視線を巡らせる。

 案の定、型稽古をいい加減に流している生徒の姿がちらほら見えた。


 一通りの型稽古が終わると、訓練はスキルの習得へと移った。

 ――スキル。それは魔法とは異なり、体内を巡る“気”のようなエネルギーを用いる技術。

 この王国では“内力”と呼ばれているが、ハグロの故郷ではそれを“気”と表現していた。

 気を一点に集中させて放つ“攻撃スキル”、流れを変えて受け流す“防御スキル”、そして肉体の動きを支援する“補助スキル”。

 理論は整っていても、体得は簡単ではない。


 「……う、うまく流れない……」

 「どこに意識を向ければいいんだ?」

 「さっきはできたのに……」

 生徒たちは苦戦していた。

 魔力操作と違い、内力の扱いには独特の感覚と体の使い方が求められる。動きと意識の両立に、多くの生徒がつまずいた。


 だが――

 「お、きたきた! これ、なんかすげー手応えある!」

 陽翔だけは目を輝かせていた。

 「本当かよ……」

 リオンは訝しげに陽翔を見やる。

 「スキルって、そんな簡単に身につくもんじゃないんだぞ」

 「バッカお前、俺は全適性Sランクの男だぞ? どんなスキルも武器術も一瞬で極めて、みんなを驚かせて――『俺、なんかやっちゃいました』って言うんだよ!」

 「……そうかよ」

 「でも、実際スキルの習得って難しいよね」

 と、カイルも肩を落としながら言った。


 「そうだな。……僕、ちょっと先生に聞きたいことがあるから、一旦離れるわ」

 リオンはそう言い残し、ハグロの元へ向かう。

 「先生ー!ちょっと、質問があるんですけどー!」

 周囲の目をごまかすように朗らかな声で呼びかけながら、ハグロに近づくと――

 「……おいコラ、ジジイ。何してんだ、あんた」

 今度は小声、しかし鋭く遠慮のない口調だった。

 ハグロは肩をびくりと揺らし、目を泳がせながら気まずそうに言い返す。

 「お、お前……先生に向かって、そんな口の利き方して……退学にするぞ?」

 「いいから、答えろ」


 ――この男、ハグロ・ジンザエモンは。

 リオンがかつて、学園に入学する前。

 人知れず戦い方を学んだ、“師”その人だった。


 






 

 

 

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