陽翔の嫉妬と今後の目標
ヘルマンの理不尽な説教がようやく終わり、肩を落として学園長室を後にしたリオンは、疲れ切った足取りで寮へと帰還した。
そして、扉を開けた瞬間――
「なんでだよおおおおおおお!!」
中から響き渡ったのは、腹の底からの怒声だった。
部屋の中では、クッションが散乱し、テーブルには陽翔が突っ伏していた。目の前のコップは倒れ、中身が床に滴っている。どうやら叫びすぎて水をこぼしたらしい。
「リオンは“詠唱師匠”! 蓮は学園の主人公! 俺だけ、何にもねぇじゃねぇかあああああ!!」
まさに、荒れに荒れた現場だった。
リオンはその光景を見て、そっと額を押さえる。
そして、無言で扉を閉めかけ――
「待てぇ! 今、閉めようとしただろ!! リオンぉおおお!!」
陽翔の声が、寮の廊下に無駄に響き渡る。
「うるさいな……こっちは学園長の長い説教で疲れてるんだよ。お前の八つ当たりに付き合う元気なんて、もう残ってねぇっての」
「いいから聞けよ! おかしいだろ!? 何もかもが!」
「はー……何がおかしいんだよ。おかしいことなんて、何一つなかっただろ」
リオンは深々とため息をつきながら、仕方なく陽翔の愚痴に付き合うことにした。
ちなみにこの時間、カイルはいつもの魔導具いじりで別室にいることが多く、今日も不在だった。今だけは不在で助かったと思う。
「リオンが“詠唱師匠”って呼ばれるのはまだ我慢できる!」
「僕は我慢できてないけどな」
「うるせー! 黙って聞け!」
ヘルマンに続いて陽翔にまで理不尽に怒鳴られ、リオンは再び頭を抱える。
「問題は蓮だよ!3人の女子に囲まれて生徒会活動して、それ以外の女子からもモテモテだあ!?おかしいだろ!?それは俺の役割だろ!」
「……誰が決めたんだよ、それ」
「しかもなんだあの模擬戦は!?圧倒的不利からの逆転勝利!?何が“思いの力”だよ!何が“皆の絆が勝利を導いてくれた”だ!努力!友情!勝利!?お前は少年漫画の主人公か!?異世界って言ったらな、なろう系主人公だろうが!!チートで無双してハーレム作るのが常識だろ!!」
「……相変わらず、お前の言ってることは、さっぱり分からん」
陽翔の早口かつ意味不明な主張に、リオンはいつものように心底呆れた表情を浮かべる。
「こうなったら、俺も生徒会に入る。そしてあのクラウスとかいう生徒会長や蓮のように女の子囲まれてハーレムを作る。やっぱり、モテるためには権力を持つのが手っ取り早いよな!」
「……何言ってるんだ、お前」
と、リオンが心底うんざりした表情で一言。
「何の実績もない奴が、生徒会に入れるわけないだろ」
「ぐっ……!」
陽翔は言葉に詰まり、拳を握りしめた。
「なら……決めた!」
陽翔が、ガタッと勢いよく立ち上がり、大声で宣言する。
「俺も決闘システムを使ってAクラスの貴族どもに勝ってやる!それで一気にのし上がる!」
「……いや、お前、まだまともに魔法も制御できてないだろ」
「それは俺の魔力がデカすぎるせいだ!むしろ制御できる方が変だろ!」
「……変じゃない。普通は制御するんだよ」
「それなら、魔法はまだいい。俺には……武器がある! 剣でも槍でも弓でも、なんでもイケる。やればできるタイプだからな!」
「それ、具体的に何を根拠に?」
「直感と、ロマンと……あとは情熱!で、なんとかなる!」
リオンはこめかみに手を当てて深くため息をついた。
「よし、わかった。……じゃあ、来週からの武器・スキル訓練で証明してみろよ」
「マジか!やったぜ!」
「勘違いするな。これ、教師からの課題じゃない。僕が“お前がどれだけ口だけじゃないか”を見るための、個人的な評価だ」
「お、おう……」
「ちなみに、この時期に武器・スキル訓練なんかやり始めるのはDクラスぐらいだからな。Aクラスはもうとっくに応用に入ってる。つまり、来週からやるのは、初級中の初級だ。こっから道のりは遠いぞ」
「う……まだ、ようやくスタートラインに立ったに過ぎないのか」
「違うな。お前はスタートラインに立ててすらいねぇよ」
「くそっ……でも、やってやる。ここで負けたら、モテる道が永久に閉ざされる!」
「……動機が軽すぎる……」
それでも、陽翔の目はどこか本気だった。
(――まあ、こいつなりに、焦ってるんだろうな)
馬鹿なことばかり言っているようで、内心では蓮との差に、本気で悔しさを感じているのだろう。
だからこそ、リオンは一歩引いた位置から、あえて静かに見守ることにした。
(……見せてみろよ、陽翔。お前なりの“意地”を)




