模擬戦前夜
──模擬戦前夜
リオンは夜の学園の中庭で、一人の少年と向き合っていた。
蓮、建前上は“特例入学枠”の一年生。
だが、その実態は、この世界を救う可能性を託された“勇者候補”の一人。
そんな彼が、明日の模擬戦で上級生と戦うことになっている。
勝っても負けても、騒がしくなるのは避けられない。
「……リオンさん」
「ん?」
「明日の模擬戦、全力で戦わせてもらいます。場合によっては、ギフトを使うかもしれません」
静かな夜風の中に、少年の決意が混じる。
リオンは少しだけ目を細め、黙って相手を見つめた。
「……本気なんだな」
蓮は頷いた。
「この戦いだけは……どうしても負けたくない」
ふと遠くを見るような目になり、蓮は短く息をついた。 助けられなかった“あの日”の後悔が、今も胸の奥に残っているのだろう。
「……助けられなかった人がいました。 だから俺は、この世界で今度こそ、誰かを救いたいと思って来ました。 でも、今のままじゃ、それも“口だけ”で終わってしまいます。強くなければ、何も守れないし、誰の力にもなれない。だから……この戦いで証明したいんです。俺がここにいる理由をちゃんと、自分の力で」
「だが、そのギフトは……強力すぎる。目立てば、勇者候補だと疑われる可能性もある」
「……分かってます。でも、それでもやります」
蓮の言葉に迷いはなかった。
「……本来なら監視官として、止めるべきなんだろうな。でも、そういう真っ直ぐな奴を、僕は止められないよ」
リオンは夜空を見上げ、息を吐く。
頭に浮かんだのは、かつて自分が剣を振るったあの日々、怒り、悔しさ、孤独……力を求めたのは、誰かのためではなく自分のため。
「僕が昔、剣を握ったのは、お前みたいな正義感からじゃなかった。ただ、周囲を見返したかっただけだ。だから、お前の方がよっぽど立派だ。……止める資格なんて、僕にはない」
誰かの力になりたいという、青年の純粋な言葉は、リオンには、まぶしくて、少し羨ましかった。
「生徒会には、お前を保護してもらうよう頼んである。後、いざとなったら、教会にも話を通すつもりだ。……エドに相談する羽目になるだろうけどな」
「エド?」
「ほら、お前が女神さまから召喚された時に、ハゲたオヤジがいただろう?……あいつ、怒るだろうな。怒ると説教が長いんだよ」
冗談めかしてそう付け加えると、蓮の顔にもわずかに笑みが浮かんだ。
そうして、夜は更けていく。 そして、模擬戦の幕が、静かに上がろうとしていた。




