リオン家の食卓 食後の語らい
リオンはキッチンへ行き、手慣れた様子で二人分の紅茶を入れると、リビングに戻った。
レイラはすでにソファに腰掛け、腕を組みながら考え込んでいる。彼女の表情には、珍しく険しさが浮かんでいた。
リオンはテーブルに紅茶を置き、向かいの席に腰を下ろす。
「それで、今回の遠征はどうだったの?」
問いかけると、レイラは紅茶には手を付けず、静かに息を吐いた。
「ああ……。討伐対象の魔族たちを見たが、あきらかに十五年前の魔族の生き残りではない。 強さ、数、組織的な動き……どれを見ても違う。」
レイラは眉をひそめながら続ける。
「公国……いや、公国の姫が裏で暗躍しているはずだ。」
「そうか……やはり、状況は悪化しているな。」
リオンはつぶやきながら、紅茶を一口すする。
「やはり、勇者召喚を急いでもらう必要があるな。」
「戦場で戦える勇者をか?」
「ああ。実は今日、エドと一緒にセリス様の所に直談判に行ったんだ。」
「ほう、あの怠惰な色ボケ女神の元へ直談判とはな……。」
国教の女神に対して、酷い言いようだ。しかし、レイラはリオンにしつこくちょっかいを出すセリスのことをよく思っていない。
「頼むから、それ、外で言わないでくれよ……」
下手をすると異端審問会が動くかもしれない。……まあ、レイラさんなら、神殿ごと消し飛ばして『あれ?異端審問会って何?』くらいにはできるだろうが。
「大丈夫だった、リオンくん、あの女神に何もされなかったか?」
「だ、大丈夫だよ! ちょっと……うん、ちょっと抱きつかれただけだから」
(……可愛く『お姉ちゃんお願い♡』と言わされたことは、墓場まで持っていこう。)
ドンッ!!
レイラがテーブルを叩くと、食器が小さく揺れ、室内の空気が張り詰める。
「あの色ボケ女神……!! 私のリオンくんに手を出すとは……いい度胸だ!!今すぐ滅してやる!!」
覇王血脈がざわめき、空気にわずかな重みが生まれた。
「待て待て待て! 落ち着け、レイラさん!! 国教たる女神を滅するな!!」
「関係ない!! 女神だろうと、神だろうと、リオンくんに手を出すなら敵だ!!」
「私は――神殺しにだってなれる!!」
やばい、このままでは今すぐ神殿に殴り込みに行きそうだ。
そう思ったリオンは、彼女の手を取り、まっすぐ彼女の目を見つめ、真摯に訴えかける。
「レイラさん、僕が愛しているのは君だけだよ。」
レイラの瞳が揺れる。
「セリス様に抱きつかれたからなんだっていうんだ。僕と君の間にある愛は、そんなことで壊れるものではないだろう?」
「……リオンくん……!!」
次の瞬間、レイラは感激したように目を見開き、勢いよく飛びついた。
「リオンくんっ!!」
「ぐぼぉっ!?」
強烈な抱擁にリオンの身体が埋もれる。
「そうだ! こんなことで揺らぐものか! これこそ究極の愛!!」
「ぐ、ぐるじい……!!」
レイラはさらに力を込め、満足げに頷く。
「ああ、愛があふれて止まらない……!」
「いや、止めて! あふれさせないで!!」
(……やっぱり、愛が重い)
妻の抱擁に埋もれながら、リオンは静かに悟った。