魔法実施訓練 その2
リオンも気を取り直し、貸し出し用の魔導杖を手に取った。
(……自動詠唱か、使い方は、こんな感じか)
杖に魔力を流し込む。
すると、内部で魔法式が自動展開され、詠唱なしで魔法が発動される準備状態に移行した。
(……確かに、これは便利だな、無駄な手間が省けるし、詠唱ミスのリスクもない。理に適ってる)
リオンは試しに《風刃》を撃ってみる。
杖先から鋭い風の刃が飛び出し、見事に的の中心を切り裂いた。
(……ただ、少し気になるな。魔力の流れが“管理されている”ような感覚……)
リオンは軽く首を傾げながら、杖を眺めた。
「おっ、詠唱いらないってことは、ついに俺の時代が来たな!」
陽翔がニヤニヤしながら前に出てくる。
「さあ、見てろよ……! 俺の《火球》が世界を焼き尽くす瞬間を……!!」
「イヤ、焼き尽くすな」
リオンが即座にツッコミを入れるが、陽翔はまるで聞いていない。
「うおおおおおお!!」
気合とともに魔力を注ぎ込む――が、
ぶるぶるぶるっ、と杖が震えだし、
「うおっ!? 熱っ!!」
――バシュンッ!!
杖が派手に発火した。
「おい、今すぐ杖を放せ!」
リオンの叫びに、陽翔は慌てて手を離す。
転がった杖から勢いよく炎が立ちのぼる。
リオンはすかさず、自動詠唱杖に魔力を流し込む。
杖の先端が青白く光ると同時に、静かに呟いた。
「《水流》」
――バシュッ。
放たれた水流が、燃えていた杖を正確に打ち消した。
「……なるほど。これは、確かに便利だな」
リオンは静かに頷き、杖を見つめる。
そんな陽翔の魔法の暴走の光景に、生徒たちが一斉にどよめいた。
「え、なにあれ……」
「マジでやべーやつじゃん……」
D組の生徒たちはひそひそと話し、巻き込まれまいと距離をとる。
「よかったな。お前の好きな『なんかやっちゃいました』が、ついに叶ったじゃないか」
「違う!俺の『なんかやっちゃいました』は、もっとスマートでカッコいいやつなんだよおおお!」
陽翔は地団太を踏みながら叫ぶ。
「……ハルト、お前さあ、火を出すなとは言わないが、せめて自分が燃えるのはやめろ」
ユリウスが苦笑を浮かべて前に出る。
「いいか? 魔法は力任せに撃つもんじゃない。魔力は“制御”してこそ意味がある。わかったな?」
「……はい……」
陽翔はしょんぼりとうなだれた。
普段の軽薄なテンションはそのままだが、その言葉とタイミングには妙な説得力があった。
そして、訓練場全体に向けて――
「そこの男子ー、杖の角度逆だぞ! それじゃ魔法出ねぇ!」
「そこの女子ー、肘引きすぎ! もうちょっと正面で構えろー!」
男女問わず、的確で平等な指導が飛ぶ。
それを見ていたリオンは、ふと眉をひそめた。
「どうした? 今日はやけにテンションも抑えめだし、男女平等に接してるじゃないか」
「フフ……気づいたか、リオン」
ユリウスが得意げに笑う。
「俺は学んだのだよ。テンションは場に合わせて調整し、指導は男女平等にすべきってな!そうすれば、女生徒にもウケがいい!俺のモテテクニックは、さらに進化したのだッ!!」
「……十年以上かけて、今ごろそれに気づいたのか?」
「進化には時間がかかるのだよ、リオンくん!」
「……そうかよ」
(……まあ、こいつはこいつで“変わろう”としてるってことか……?)
「そんな、師匠! 俺を置いていかないでくれ!」
「お前はまず、まともに魔法を撃てるようになれ。ほら、新しい杖持ってこい!」
新しい杖を手に、陽翔が訓練場に戻ってきた。
「よし、今度は水魔法だ……安全第一、だろ?」
珍しく慎重な表情で、杖に魔力を通す。
「《水流》……!」
――ぽたっ、ぽたぽた……
杖の先端から、ちょろちょろと水滴がこぼれ落ちるだけだった。
「今度は少なすぎだ、これじゃあ、まともに魔法が発動しない」
リオンがダメ出しをして、周囲からも笑いが漏れる。
「ちくしょう、だったら少し魔力を込めて……!」
――バシュウウウウウウウウッ!!
勢いよく水が噴き出し、陽翔はずぶ濡れになり、その周辺をぐるりと水浸しにする。
「ぶはっ!? うおわあああああっ!? 目に入った!びしょ濡れだーっ!!」
その場にいた何人かの生徒が悲鳴を上げて避難する。
「……お前、安定しなさすぎだろ」
ちゃっかり、よけて水被害を防いだリオンがつぶやく。
「じ、じゃあ風魔法で乾かすか!《風刃》!」
――ゴォォォオオオオオ!!
突如として訓練場に竜巻じみた突風が吹き荒れる。
「うわあああああ!!」
「きゃあああああ!!」
クラスメイト達が悲鳴を上げる。
「うおおおお!? 飛ぶ!飛ぶぅぅぅ!!」
そして、陽翔が自分の魔法に巻き込まれ、派手に吹き飛んだ。
「ストーーーーップ!!」
たまらずユリウスが叫ぶ。
「もういい!!お前は、今日からもう一回、グレンツ教官のところに戻れ!!」
「そ、そんなぁあああああ……!!」
天を仰ぎ、絶望の声を上げる陽翔。
その様子に、周囲からは同情と失笑が入り混じった空気が流れていた。




