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魔法実技訓練 その1

 魔力制御の訓練の最終日の翌日

 午前の実技訓練、演習場に現れたのは、あの軽薄な笑みを浮かべた男だった。

 「よおおおし!みんな、元気かぁ!? 今日は楽しい楽しい魔法実技訓練のお時間だぞー!」

 天井に響くような大声。大げさな身振り。テンションは朝から最高潮。

 「……うるせぇ」

 「誰だよ、あれに訓練任せたの」

 訓練場のあちこちで、生徒たちのぼそぼそとした呟きが漏れる。


 「よし、それじゃあ、まずは杖だな!持ってるやつは自前のやつを使え。持ってないやつは学校の貸出用を使うように!」

 周囲の冷めた反応を察してか、ユリウスはわずかにテンションを抑えて指示を出す。

 (……珍しく、空気を読んだな)

 リオンはやや意外そうに目を細めた。

 バサッと布を取ると、そこにはずらりと並んだ訓練用の杖があった。

 「で、適当に二人一組になって、的を狙って魔法撃ってみよう。順番はテキトーな感じで、俺の合図でスタートだ!」

 「雑すぎる……」

 リオンは小さく呆れた声を漏らした。

 

 杖を持っていなかったリオンと陽翔は貸し出し用の杖を借りに行く。

 杖を手に取ったリオンは、その軽さと握り心地に微かな違和感を覚えた。

 (……杖って、こんな形だったか?)

 かつて使っていたものとは、明らかに感触が異なる。

 木製ではあるが、表面には魔導金属の加工が施され、細かい刻印が規則正しく刻まれていた。

 (まぁ……杖も時代に合わせて進化してるってことか)


 リオンは陽翔とともに、空いている訓練スペースへと移動した。

 「よーし……今度こそ、決めてやる!」

  横で陽翔が拳を握る。

 「えっ、俺なんかやっちゃいました?のターン、再チャレンジだ!」

 「で、初級詠唱くらいは覚えたんだろうな?」

 リオンが釘を刺すように問う。

 「……いや、無理だった」

 「おい!!」

 「しょうがねぇだろ!この一週間ずっと、あの熱血筋肉ゴリラとマンツーマンで魔力制御の居残りだったんだぞ!? 詠唱なんて覚える暇ねぇよ!」

 「周囲を驚かせたいなら、そのくらいの準備はしとけ……」

 リオンはため息をつきつつも、杖を手に取った。

 

 さて、初級魔法の手本を見せてやりたいがどれにするか。

 ふと、リオンは演習場の片隅に設置された掲示板に目をやった。

 そこには、訓練用として指定された魔法リストが貼り出されていた。

 ――《火球》・《風刃》・《氷槍》・《防御障壁》など、見慣れた初級魔法の名が並ぶ。

 (……やっぱり、数が限られてるな)

 昔の記憶をたぐりながら、リオンは眉をひそめた。かつては、もっと多様で、個人の特性や発想に合せた魔法が数多く存在していた。


 (そういえば……今は“初級・中級・上級”っていう、選抜された魔法体系になってるんだったか)

 座学で学んだばかりの内容が、掲示板の実物と重なって思い出される。

 (実用性と習得効率を優先した、合理的な構成……悪くはない。でも、少し味気ないな)

 かつての自由な魔法体系を知る者として、ほんのわずかな寂しさを覚えつつも、現代のやり方に理解を示すリオンだった。


 (とりあえず、一番基本って言われてた、火球ファイヤーボールでいいか)

 リオンは静かに目を閉じ、杖を胸の前で構えた。

 深く息を吸い、吐く。演習場のざわつきが徐々に遠のいていく。

 「我が内なる魔力よ、熱を帯び、形を成せ。この手に宿りし力よ、敵を焼き払う焔となれ――《火球ファイヤーボール》!」


 詠唱と同時に、杖の先端に魔力が集束する。

 ほのかに空気が震え、淡い赤い光が膨れ上がるようにして形を成していった。

 そして――

 ぶうん、と低い音を残して放たれた火球は、一直線に的の中心を撃ち抜いた。

 ドンッ!

 訓練用とはいえ、それなりの耐久を持つ的板が焦げ跡を残して震えた。

 (……魔法を使うのは、少し久しぶりだったけど……衰えてはいないな)

 リオンは静かに杖を下ろし、改めて自分の魔力感覚を確認する。


 しかし、ふと気づく。

 周囲が、妙に静まり返っていた。

 演習場全体が一瞬、時が止まったように沈黙していた。

 そして

 「……っぷ、あははははは!!」

 誰かが笑い出し、それに釣られて、あちこちから笑い声が上がる。

 「な、なんだよ今の!?」

 「今の……詠唱!?」

 「我が内なる魔力って!」

 「この手に宿りし力って……リオンお前マジか!」


 「なんだ?いったい、みんな何をそんなに笑ってるんだ?」

 周囲のリアクションが全く理解できず困惑するリオン。

 「いやいや、リオン、今どき、わざわざ声に出して詠唱なんかしないんだって!」

 状況が全く理解できないリオンに、ニヤニヤと笑いをこらえたユリウスが、横から割り込んで説明する。

 「今はな、魔導杖が自動詠唱サポートしてくれる時代なんだよ。杖に魔力流すだけで勝手に魔法展開してくれるんだ。わざわざ口に出す必要なんかないの!」

 

 「な、なんだって……!?」

 リオンは衝撃で思わず一歩後ずさった。

 魔法は詠唱あってこそ――そう信じて、血のにじむような修練を積んできたのだ。

 「お前、そんなにショックなのか?」

 「当たり前だろ!?僕たちは一つの魔法を覚えるのに、どれだけ詠唱を反復したと思ってるんだ……!」

 リオンは本気で傷ついていた。だが、陽翔はその重みに気づいていない。


 「まあまあ、時代は変わったってことだ! お前もそろそろ、今のやり方に合わせて進化しなきゃダメだぞ? 俺みたいにな!」

 「いるんだよなぁ、古いやり方に固執するおっさん世代ってやつが。ねぇ、師匠?」

 (……うぜぇ。ほんと、こいつらまとめてぶん殴りたい)

 いつも、リオンにダメ出しをされている二人がここぞとばかりに煽ってくる。


 「だいたいな! 笑ってるけど、お前だって昔はやってただろ!? 僕たちが、夜遅くまで詠唱の反復練習をしてた、あの地獄の日々は何だったんだよっ!」

 「無駄だったんじゃね?」

 「おい!!」

 「いやいや、いいじゃん。今の子たちはそのぶん時間ができてさ、放課後に遊びに行ったり、部活やったり、趣味に没頭したり、恋愛してみたり……まさに青春満喫中!」

 ユリウスが腕を広げて、勝手に夢を広げていた。

 「俺もこの時代の生徒になって、青春してええええ!!」

 (ダメだ、この場に僕の気持ちを分かってくれる人間はだれ一人としていない)

 リオンはそっと頭を抱えた。


 「なあなあ、もう一回、見せてくれよ『我が内なる魔力』ってやつをよ」

 「この手に宿りし力、ってのも忘れるな!」

 「ぷはははははは!」

 「……勘弁してくれ……」

 リオンと普段つるんでいる明るいグループの男子たちが、悪ノリでリオンをからかう。

 まだショックから立ち直れていないリオンは、げんなりと肩を落とした。

 そんな中――

 「はいはい、そこまで!」

 ユリウスが手をパンッと叩き、場を仕切る。


 「見世物は終了!ほらほら、お前ら訓練に集中しろ!的は動かねーけど、魔法はちゃんと撃たねーと当たらないからなー!」

 渋々ながら、生徒たちは再び訓練に戻っていく。

(……初めて、ユリウスに感謝したかもしれない)

 リオンは小さくため息をつきながら、杖を持ち直した。

 

 

 


 





 

 

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