魔力制御訓練 その1
翌日――。
実技訓練開始が告知されたその日も、朝から学園は普段通りに始まった。
午前中は、相変わらず座学中心の授業。
魔法理論、歴史、魔道具学……リオンは興味深く受け止め、カイルは黙々とノートを取り、陽翔は半ば魂を抜かれた顔で机に突っ伏していた。
(……まあ、これはこれで、もう日常だな)
リオンはそんな様子をちらりと眺めながら、静かに思う。
そして、午後、ついに「初めての実技訓練」が始まる。
「おーい、リオン! 一緒に行こうぜ!」
「ああ」
リオン、男女の複数グループに誘われ席を立ち、教師に言われた指定の魔法演習場に向かう。
陽翔とカイルは視線を交わしながら、少し遅れてその後に続いた。
オリエンテーション以降、陽翔とカイル以外との生徒との交流も増えた。こうやって移動教室や昼食なども一緒に過ごすことも多い。
(昔の僕からは想像できない事だな……)
昔の尖っていた自分を思い出し、感慨深くなる。
教室を出たリオンたちは、談笑しながら演習場へ向かっていた。
男女の混ざったグループの中で、リオンは自然に会話の輪に溶け込んでいる。
「なあなあ、昨日の学食のスペシャルプレート食べた? あれ超うまかったんだけど!」
「食べた食べた!でも量が多すぎて死にかけた~」
「あれは女子には多いよ~、リオンくんは完食できた?」
「……まあ、完食したよ」
「うっそ!この小さい体のどこに入ったの?」
「だから、小さい言うな」
リオンは肩をすくめて答え、笑いが起きる。
女子生徒の一人が、スマホ型の魔導端末をぴっと操作した。画面に映ったのは、煌びやかな衣装を着た少年アイドルたち。
「ねえ、リオンくん! このグループ知ってる? 今テレビでも超人気のルミナス系アイドル」
「……テレビ、あんまり見ないからな」
リオンがやんわり苦笑いすると、女子たちは一斉にスマホを差し出してきた。
「13歳未満限定の超かわいい系でさ!今ちょうど、メンバーが抜けて新メンバーのオーディションしてるらしいよ!リオンくん、受けてみなよ!絶対、受かるって!」
「いや、もう16歳だから」
(……実際は、三十路超えてるけど)
「いけるって! リオンくんなら、オーディションで10歳か11歳ですって言っとけば絶対バレないって!」
「……勘弁してくれ」
小さな笑い声があちこちから上がった。
リオンも、肩をすくめながら苦笑いで応じる。
そうこうしているうちに、演習場に到着したリオンたちの目に飛び込んできたのは、広々とした屋内スペースにずらりと並べられた、見慣れない装置群だった。
腰ぐらいの高さの台座に、台座中央に半透明な「魔導結晶」が埋め込まれている。
「なんだ? 実戦訓練じゃないのか?」
リオンは立ち止まり、眉をひそめた。
周囲の生徒たちも、特に外部入学生たちは一様に戸惑っている。
「なにこれ、どうやって使うの?」
「っていうか、魔法ぶっぱなせるんじゃないの?」
ざわざわとした声が広がる。
そんな中、控えめに一歩前に出たのはカイルだった。
「あの……これ、魔力制御装置だよ。魔力を一定量だけ制御して出す練習をするんだ。付属中等部でも使ってたから、たぶん、これが最初の訓練だと思う」
小声ながら、はっきりと説明するカイル。
「へー、そうなんだ!」
「ありがとう、カイルくん!」
リオンの周りにいた明るく人気者グループたちにお礼を言われ、カイルはちょっと顔を赤くして「う、うん」と照れたように笑った。
リオンはそんなカイルの説明を聞きながら、再び装置を見やった。
(……今はこういうカリキュラムになってるのか、確かにこれなら、詠唱の地道な訓練より、ずっと短時間で魔力のコントロールを身につけられるな)
合理的な進化に、リオンは内心で感心する。
だが――
「なぁぁぁああんだよ!魔法ぶっぱできると思ったのにー!」
陽翔は両手をぶんぶん振りながら、露骨にがっかりしていた。
「これじゃ、ドカーンもババーンもできないじゃん!」
「……何がしたかったんだお前は」
リオンが呆れた声で突っ込むと、周囲からも笑いが漏れた。
「お前たち、静かに! これより、魔道制御装置を使った魔力コントロール訓練を開始する!」
鋭い声が響いた瞬間、ざわついていた場の空気がぴたりと静まった。
演習場に入ってきた人物は、初めて見る教官だった。
筋骨隆々とした大柄な男、短く刈った髪に、真っ直ぐな目。
着ている訓練服すら、どこか破けそうなほど体格がいい。
「俺の名前はアルド・グレンツ! この訓練では俺が担当だ! 操作は簡単だ。魔導結晶に魔力を流して、制御値を出す。それだけだ!」
グレンツはニカッと豪快に笑った。
魔力制御装置台座の前に立ったグレンツ教官が、バシンッと手を叩き、生徒たちの視線を集める。
「よーし、いいか! これから順番に魔力を流し込んで、魔力制御の適正値を測る!この魔導結晶に手をかざすと、目の前の魔導モニターに『魔力流動波形』が表示される!波をできるだけ水平に、安定させ続けろ!まずは、俺が手本を見せる!」
グレンツは魔導結晶に手をかざして見せた。
すると、目の前に設置された透明な魔導モニターにすうっ、一本の水平な線が現れる。
モニター上には【安定度:89.5%】の文字が浮かび上がった。
「これが基本だ! お前らはまだ70%いけば上等だ! 最終的には、卒業までに80%、そしていずれは俺のように90%に届くようになれ! わかったなッ!」
「うおおおお!!」
数人の男子生徒が、熱気に押されて思わず返事をする。
(……ノリが完全に軍隊だな)
リオンは少し苦笑しながら列に並ぶ。
「それでは、始め!」
グレンツ教官の号令とともに、最前列に並んだ生徒たちが一斉に魔導結晶に手をかざした。
ふわりと魔導モニターに青白い波形が浮かび上がる。
──だが。
波は荒れに荒れ、なかなか安定しない。
「……っ、はぁ、はぁ……」
額に汗をにじませ、必死に魔力を抑えようとする生徒たち。
だが、結果は――
【安定度59.6%】
【安定度62.3%】
【安定度57.8%】
似たような数字が、次々とモニターに表示される。
グレンツ教官がバシンと手を打った。
「よし、交代! 最初はこんなもんだ! 慣れれば上がっていく!」
呼吸を荒げながら装置から離れる生徒たち。 魔力を安定して流すというのは、想像以上に魔力と集中力を削る作業だった。
(……まあ、最初から上手くいくわけないか)
リオンは冷静にその様子を見つめながら、自分の順番を待った。




