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オリエンテーション

 自己紹介も終わり、Dクラス一行は教室を出て、担任のユリウスに引率されながら、学園内の各施設を巡るオリエンテーションへと移った。

 寮棟、食堂、演習場、図書塔――

 要所要所でユリウスの暑苦しい解説が入るが、生徒たちはあまり聞いておらず、すでにグループ分けのような形が自然とでき始めていた。

 

 そして、リオンは、これからクラスでも陽気なグループになるであろうメンバーたちに囲まれていた。

 「ねえねえ、リオンくんってホントに16歳なの?」

 「そうだよ、見えないだろうけど、エルフの血が混じってるから成長が遅いんだよ。」

 「うっそー、だからそんなに小っちゃくて可愛いんだ♪」

 「ちっさいとか言うな」

 そんなリオンのツッコミに自然と笑いが起きる。

 

 「何かと不便なんだよ、この見た目は。最近なんか夜、出歩いてたら、迷子と間違われて騎士団保護されるし」

 (……まあ、実際はずいぶん前の話で、初対面の人に良く使う話のネタだけど)

 「ぎゃははははは!マジで!」

 「マジだよ、ったくいつになったら、大人の姿になれるんだか」

 「えー、ずっとそのままのほうが可愛くていいよ」

 「イヤ、よくねーよ、16歳だって言ってんのに全く信用してくれなくて、その日は騎士団の宿舎に泊まったんだぞ」

 「それ、いい奴らじゃん!……いや、よくねぇか!」

 笑いが起きる。


 リオンは特に取り繕うこともなく、冗談交じりにぽつぽつと話を返していく。

 気づけば、周囲の雰囲気は完全にほぐれていた。

「てか、さっき陽翔くん止めたの、ガチで助かったわ」

「ほんそれ。誰も止められなかったもん。てか先生が止めるべきだったろアレ」

「でも先生、親指立ててたからな……あの人ダメだわ」

 再び笑いが起きる。

 リオンは苦笑しながら肩をすくめた。

(正直、年の離れたクレスメートと上手くやれるか不安だったが、なんだ、案外、悪くないな)


 施設見学が続く中、リオンの周囲には常に数人の生徒が賑やかに付き添っていた。

 一方で、その少し離れたところ――

 カイルと陽翔は、距離を保ったまま歩いていた。

 「……なんだかすごい人気だね、リオンくん」

 カイルが小さく苦笑しながら、ぽつりと呟く。

 「……なんで、俺じゃなくてリオンが……!」

 陽翔の声には、思わず噛みしめたような嫉妬と悔しさが滲んでいた。

 「俺のほうが全適性Sランクで、ルックスだっていいし、ギフトもすごいのに、それなのに――なんで、あいつばっか!」

 陽翔は拳を握ったまま、誰にも話しかけられることなく、ただ黙って歩いていた。

 カイルも、その空気を感じ取って、無理に話しかけることはできなかった。


 夕方、オリエンテーションがすべて終わり、講堂前で解散の声がかかった。

 皆が寮に帰ろうとしたとき、ユリウスから声がかかる。

 「おーい、リオーン!ちょっとこっち来い!」

 リオンが少し眉をひそめて向かおうとしたそのとき、ユリウスは続けてこう言った。

 「陽翔、お前もだ!」

 「えっ、俺も!?」


 何のことだか分からず立ち尽くす陽翔を、ユリウスが手招きする。

「リオンの付き添いってことで、ちょっとだけな。ほら、来い来い!」

 (……また、面倒くさいことになりそうだ)

 リオンは溜め息をつきながら、そして陽翔とともにユリウスの所へ向かっていった。


 ユリウスに連れていかれたのは、適性検査前にも使った指導室だった。

 「いったい、何の用だよ?もうすぐ夕飯の時間だし、早く寮に戻らないといけないんだが……」

 「誰だよ……お前……」

 「はっ?」

 「お前は誰だって、言ってんだ!」

 ユリウスは顔を近づける勢いで詰め寄り、指を突きつける。

 

 「えっ?イヤ、僕はリオンだけど……」

 リオンはユリウスの意味不明な問いに眉をひそめた。

 「どうした?ついにボケたのか?」

 「いや、そうじゃなくてな……お前、なんかおかしい」

 ユリウスはリオンを指差し、真剣な目で続ける。


 「俺が知ってる、お前はそんなんじゃない!クラスメイトとあんなふう仲良くしたり、見た目をいじられてニコニコしたり……そんなの見たことねぇ!」

 「いつの話をしてるんだ?」

 ユリウスの言っていることは15年以上前のリオンの事だ。

 「さては、どこかで誰かと入れ替わったな!どこだ!?本物のリオンはどこへ行った!?」

 「お前な、僕だって十五年も経てば、そりゃ多少は成長するよ。昔のままなわけないだろ」

 「こっちからすれば、見た目が全く変わってないのに、言動が全く違うから気色悪いんだよ!」

 「知るか!」

 「えっ?こいつって昔はこんなんじゃなかったですか?」

 「ああ、そうだよ!昔は常にこーんな風に目を吊り上げてよ!『女子から小っちゃくて可愛い』なんて言われようもんなら『あァ? なめてんのかコラ!』ってすぐ噛みついてな!」

 「うわぁ……最悪じゃないすか……」

 「だろ!? 女子が“可愛い”って言ってくれてるのにだぞ!?そこはニコッて笑って『ありがとう』の一言でも言っときゃいいんだよ!喧嘩腰で接して空気悪くしてよ……俺のモテモテ計画、全部台無しだよ!」

 「それはないっすよ!せっかくの師匠のモテモテ計画を台無しにして!謝れ!師匠に土下座で謝れーっ!」

 「……お前ら、ほんとくだらないな」

 リオンはふぅとため息をつき、椅子の背にもたれかかった。


 「で、その“モテモテ計画”って、いつまでやるつもりなんだ?」

 「いつまでって、そりゃあ、教師と生徒の間に芽生える恋。それがかなうまでに決まってんだろ!それこそが尊く、情熱的で、青春の極み!」

 「その熱意は認めるけどさ」

 リオンは腕を組み、しれっと言った。

 「さっきのオリエンテーションで、お前の話も少し出てたよ」

 「え?マジで?俺、けっこう生徒に人気あっただろ?」

 「イヤ、まあ……ある意味で人気はあったぞ」

 「だろぉ~!? ……ん? なんだ今の言い方?」


 リオンは、ちらっと陽翔に目配せしながら、淡々と続ける。

 「男子と女子で態度が違いすぎるとか、女子にだけ声のトーンが優しいとか……あと、気遣いに下心が透けて見えるってさ」

 「なっ!? そんな馬鹿な……俺は男女平等で、気さくな人気者の先生って――いや、まあ女子には男子より“ちょっと”優しめにはしてるかもだけど……」

 「どこが“ちょっと”だよ。露骨すぎて、みんな引いてたぞ」

 「っ……!」

  

 「それにな、ファッションもキツいって言われてた」

 「は? 俺のファッションが?」

 「片側だけ異様に盛った七三分け。白いシャツの襟は意味もなく立てて、さらに装飾ゴテゴテのジャケット――どこかの落ちぶれた古貴族かって言われてたぞ」

 「そ、そんな……このファッションは貴族としての気高さと、色気を同時に表現した――」 

 「……それ、十五年前の話だろ?再会したときも思ったけど、さすがに今どきやってる人いないって」

 「な、なんでその時言わねーんだよ!?」

 「僕だって若い子の流行なんて詳しくないし、てっきり“一周回って流行り”なのかと思ったんだよ。……でも、クラスメートの話を聞く限り違ったんだな」

 「ば、馬鹿な……」

 ユリウスは絶望のあまりガックリと跪く。


 「師匠……まさかの致命傷……」

 「いい加減、モテない理由を外にばっか求めるなよ。そろそろ、自分にも原因があるって気づくべきだぞ」

 ユリウスは言葉を失い、目を見開いたまま固まっていた。

 「……それじゃ、そろそろ寮に戻るよ。夕飯の時間だし」

 そう言ってリオンは席を立ち、扉に向かう。

 「ま、どうしても気づけないなら、そのままずっと過去のままでもいいけどな」

 ユリウスは何も言い返してこなかった。

 その背中はすこしだけしぼんで見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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