適性検査
「それじゃあ、俺は中央管理装置の所に行ってくるぜ♪なんたって、魔道装置全般の管理責任者だからな!」
「カッコイイぜ!師匠!」
(ああ、こういうところがダメなんだな……)
陽翔は何故か、ユリウスの振る舞いをカッコよく感じているらしいが、リオンから見れば優秀なのにモテない理由がよく分かる。
「それでは、みんな【魔力適性測定器】、【武器適性測定器】、【スキル測定器】に順番に並んで。」
学園職員の声がホールに響き、生徒たちは三方向に分かれて列を作り始めた。
この三つの検査には順番の指定がなく、終わり次第、別の装置に向かう仕組みらしい。
「なお、【魔力量測定器】は冷却と安全管理の都合上、各自最後に測定するように。」
説明が続くと同時に、少し離れた場所で一際異質な存在感を放つ“コア”に視線が集まった。
(あれだけ厳重な装置なんだ。そりゃ最後に回されるよな)
リオンと陽翔はギリギリに来たため、当然ながら最後尾に並ぶことになった。
やがて、最初の数人の適性が大型モニターに映し出されていく。
適性検査が始まり、それぞれの測定器の大型モニターに生徒の適性が映し出される。
魔法適性『火:C、水:C、土:B、風:C、闇:C、光:C』
武器適性『剣:B、槍:C、弓:D、斧:C、鞭:D』
スキル適性『攻撃スキル:C、防御スキル:D、補助スキル:B』
「なあ、思ったよりみんな適性値が低く見えるんだけど……これって普通なのか?」
陽翔が不思議そうに尋ねる。
「まあな。王立魔法学校に入れる時点で、魔法の全属性C以上ってのが最低条件だしな。BやAがあるなら“得意分野”があるってことだろう」
リオンは淡々と答えながら、次々と映し出される数値に目をやった。
「B以上が一つでもあれば、その属性を中心に鍛える。特化型ってやつだ。それ以外はバランス型か、平均型ってところだな」
「ふーん……でも便利だな、この装置。これ見れば、どれを伸ばせばいいか一発でわかるし」
「昔は感覚と経験で探るしかなかったからな……いやあ、今の子たちは恵まれてる」
リオンはしみじみと呟いた。
「うわっ、なんかオッサンくせぇ……」
「うるせーよ」
そのとき――
「おおお!!」
ホール内に一斉に歓声が上がる。
魔法適性『火:A、水:A、土:B、風:B、闇:C、光:B』
「すごいな。Aが二つ、それに他も全部B以上か」
リオンはモニターを見上げて目を細める。
「闇がCだけどいいのか?」
「まあ、闇属性は珍しい上に扱いが難しいからな。Aが二つある方が希少だ。違う属性の上級魔法を両方扱えるって意味だからな」
「へぇ~」と陽翔が頷く。
リオンは、その結果を出した生徒をチラリと見る。いかにも“育ちのいい”貴族然とした少年だった。
(まあ、そうだろうな……)
リオンは心の中で納得する。
こういう高いポテンシャルを持っているのは、大概、貴族出身者だ。
こうして次々と入学者が適性検査を受けていく。
その中には娘、リリーの姿もありちなみに結果は
魔法適性『火:C、水:C、土:C、風:C、闇:C、光:C』
武器適性『剣:A、槍:B、弓:B、斧:A、鞭:D』
スキル適性『攻撃スキル:A、防御スキル:A、補助スキル:B』
だった。
(うわー、まんまレイラさんの数値だな。少しくらい僕に似たところがあってもいいのに……)
レイラのはっきりした数値は見たことはないが、物理特化の数値を見る限りレイラも同じような結果になるに違いない。イヤ、彼女の神がかった強さならリリーの結果よりもう一段階上のSランクが何個かあるに違いない。
そして、ホール内にひときわ大きな歓声が上がった。
その中心にいたのは――蓮だった。
【武器適性測定器】のフロアに設置された大型モニターに、彼の武器適性が映し出されていた。
武器適性『剣:S、槍:B、弓:B、斧:B、鞭:D』
それを目にした瞬間、会場がざわつき、どよめきが巻き起こる。
「Sランクだ……」
「すげえ……本物のSなんて初めて見たぞ!」
「どこの名家の子だ? まさか王族か?」
「いや、聞いた話だと――平民らしい……」
驚愕と混乱が一気に押し寄せ、教師までもが動揺を隠しきれていない。
「し、静かに! まだ検査中だぞ!」
慌てて教師が声を張り上げるが、興奮冷めやらぬ生徒たちのざわめきはすぐには収まりそうになかった。
そして、その興奮冷めやらぬ中またしても、【スキル測定器】の前でも、ざわめきが広がった。ーー風華だ。
スキル適性『攻撃スキル:A、防御スキル:A、補助スキル:S』
そして画面には――《先天的スキル有》の文字が浮かぶ。
「補助スキルでSだと……!?」
「いや、待て。攻防もAって……バランス型の逸材じゃないか」
「また先天スキル持ち……今年どうなってんだよ……」
別のフロア、今度は【魔力適性測定器】の前でも、大きなどよめきが上がった。
ーー瑠奈だ。
魔法適性『火:B、水:A、土:B、風:B、光:S、闇:C』
「光S……って、え?支援系か?」
「癒しの魔法か……いやでも、Sはやべぇぞ」
「支援魔法って実はめっちゃ貴重なんだよな……」
ちなみに――
【スキル測定器】では、攻撃・防御ともにB、そして補助スキルはSを記録。
《先天的スキル有》の表示も確認されていた。
そして今度は、【スキル測定器】の前で、再びどよめきが起こった。
ーー美咲だ。
スキル適性『攻撃スキル:B、防御スキル:S、補助スキル:B』
表示:《先天的スキル有》
「また……Sランクだと?」
「これで四人目だぞ!? いったいどうなっている……」
「機械の故障じゃないのか? ユリウス先生!!」
あまりの異常事態に、教師たちの間にも動揺が広がる。
しかし――
「故障じゃないですッ! 全機器、正常作動中ッ!!」
フロア隅の制御台で叫ぶユリウスの声が、ホール中に響き渡った。
「まさか……こいつら全員が勇者候補ってわけでもあるまいに……?」
そんな声が、どこからともなく聞こえてきた。
貴族の生徒たちの間に、明らかな警戒と動揺が広がっている。
リオンは無言でその様子を見つめながら、心の中で舌打ちする。
(……まずい。目立ちすぎた。スキルが強力なのは当然として、ギフトが適性ランクにまで影響を及ぼすとは……)
ギフトの詳細は、教会の管理下にあり外部には開示されない。
その曖昧さが、彼らを「ただの優秀な新入生」として誤魔化せるはずだった。
(完全に計算外だ。これじゃ、勇者候補であることを疑われかねない)
リオンの視線が、一瞬だけホールの上階――来賓用の貴賓席に向かう。
そこには、学園の支援者である上級貴族や、勇者派閥に属する名家の後継者たちの姿が見える。
(……事前にユリウスに頼んで、結果を操作しておくべきだったか……)
今さら悔やんでも遅いが、それでもリオンの胸には、わずかな焦りが芽生えていた。
そしていよいよ、リオンと陽翔の適性検査の順番が回ってきた。




