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04.信頼の証


聖女サーヤは、歴代の聖女の中でも群を抜いて大きな力を持っていたらしい。


今日はこのままこの場所で、実際に今の紗綾がどれくらい聖女としての力が発揮できるかを調べる事になった。

検証実験はとても簡単なもので、すぐ終わるという事だ。


この部屋には、紗綾が来た時そのままの人達が残っていて、多くの視線はずっと感じているが、彼らが何者なのかは敢えて聞かない事にしている。


彼らの人数は多すぎる。

「ではみんなを紹介しましょう」という流れになったら面倒だなと思ってしまったからだ。

彼らはただの見物人、それで問題ないだろう。






「ではこの水晶に手ををかざして、真心を捧げてください。聖女サーヤの神聖力が水晶に宿るはずです」


占い師が使いそうな大きな丸い水晶を目の前に置かれて、教皇エーヴェイルにいきなり難しい事を言われてしまった。


「真心を捧げる」とはどうする事なのか。

嘘をつかずに本心を述べよという事か。

――それなら言いたいことはたくさんある。


紗綾は水晶に手をかざして、心の中で水晶に語りかけた。


『さっきさ、ライオネル王子様に「信じてほしい」って言われた時に「あ、はい」って答えちゃったけど、あれ嘘なんだ。そんな言葉信じられるわけないけど、彼は王子様だし断罪されないように「はい」って答えておいただけなの』


ぼんやりと水晶が光り出した。

どうやら水晶に本音を語る事は正解らしい。嬉しくなってもっと語ってみる。


『本当はさ、王子様達と一緒に浄化に行くの嫌なんだ。聖女の力目当ての人達だから、もし途中で聖女の力がなくなったりしたら、どこか危険な場所で見捨てられちゃったりするかも……。わ、そんな事考えたらすごく怖くなってきた。すごく嫌!!』


強い本音が届いたのか、カッと水晶が光った。


「あ!すごい!」

それまでの不安も忘れて思わずはしゃぐと、ライオネル王子が微笑んだ。


「さすがだな、サーヤ。以前ほどの光ではないが、これから伸びていくだろう。ではその光をすくって、この剣に乗せてほしい」


彼は自身の剣を抜き、紗綾の前にかざした。


『剣の先を向けられるかも』と、紗綾は一瞬ビクッと身構えた。

だけどライオネルは沙綾を切り付ける事はなく、沙綾の手の届きやすい所に剣を横にしただけだった。


ふぅと安心して、紗綾はまた強気で水晶に本音を語る。


『以前ほどではないが、なんて。なんでそんな上から目線なのよ。何様よ!……チッ王子様か』と語りかけると、ますます水晶が輝きを増した。

さらに強い本音がでてしまったらしい。


だけどライオネルは本物の王子様だ。

大人しく従っておいた方が無難だろう。


紗綾は水晶の光をすくいとるイメージで両手で光を集めると、本当に手のひらの中に光がすくいとれた。

そのまま剣の上に、手のひらいっぱいの光を落とすと、光は剣に落ちる前にスッと消えた。


「あ。すごい。光を吸収しちゃうんだ」


ほほうと感心すると、ライオネル王子が微妙な顔で言葉を返した。


「いや、今のは光が消えてしまったんだ。聖女の光は、信頼なくしては渡すことが出来ないものだ。これから―」

「え!じゃあもう無理じゃないですか!」




「………」


「これからサーヤの信頼を勝ち得るように、俺も努力しよう」と声をかけようとしたライオネルは、かける言葉を失った。


ライオネルが黙ると、紗綾の前に紫の髪をした男と、緑の髪をした男が目の前に進み出た。



「あ、夢の人……」

思わず呟いた紗綾に、紫の髪の男が嬉しそうに微笑んだ。


「久しぶりだね、サーヤ。僕達はサーヤと共に浄化をしていた仲間なんだよ。色々誤解あって別れてしまったけど、また会えて本当に嬉しいよ。

僕は王立騎士団の聖騎士のレイノックス。サーヤと僕は親友だったんだ。サーヤが神聖力を乗せれるようになったのは、僕の剣が最初だったんだよ」


「そんなに仲が良かったのに……」


「見捨てちゃったんですね」という言葉を紗綾は飲み込む。

王立騎士団の聖騎士のレノックスと名乗る男は、見るからに質の良さそうな衣装を着ている。きっと王子に劣らず権力者に違いない。

彼を怒らせて切り付けられないように、余計な事は話さない事にした。


「じゃあレイノックス様には光が乗せられるかもしれないですね。早速乗せてみますね」


『光が乗りますように。どうか「そんなに仲が良かったのに」と私が呟いた言葉も聞いていませんように』と強く祈りながら水晶の光をすくい、レイノックスの剣に乗せようとすると、やっぱりスッと消えてしまう。


「あ、今なんか少し乗った感じがしましたよね」とフォローしてみたが、レイノックスは力なく首を振った。

適当に話を合わせてはくれないらしい。本当に親友だったのだろうか。



気まずい空気が流れてしまい、「少し乗った気がしたんですけどね」と緑の髪の男に声をかけてみた。

緑の髪の男が少し困った顔で笑顔を返してくれて、紗綾はホッとする。

この人なら上手くいかなくてもフォローしてくれるかもしれない。


「僕はウォレント。レイノックスと同じ王立騎士団の聖騎士で、僕もサーヤと浄化仲間だったんだ。サーヤは僕の事を、本当の兄のように慕ってくれてたんだよ」


「あ〜……」


「聖女サーヤは、兄のように思っていた人にも裏切られちゃったんですね……」という言葉は飲み込んでおく。

これから浄化を共にする人とは良好な関係でいるべきだろう。口は災いのもとだ。何も言わない方がいい。


「では光を乗せますね」と、今度は湧き出る光を集めに集めて、消えないように慎重に光を運んだ。

少しくらいは光が残ってもよさそうだが、やっぱり紗綾の手から離れた途端に光が消えてしまう。

結果は先の二人と同じだった。


「もう少しだったんですけどね」と自分で自分をフォローしてみたが、誰も言葉を返してくれなかった。






部屋の中は痛いほどの静寂に包まれていた。


光の消滅は、紗綾が身分の高そうな彼らを拒絶している事を表してしまう。

部屋にいる多くの人達が紗綾を見ている。


その視線が痛い。みんなに責められているかのようだ。なんとかこの場を納めなくては。


紗綾は必死に頭を回転させた。





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