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03.消えた過去


「……と、そのような誤解もあって、聖女サーヤ様がこの世界を去られたから二年が経ちます」


「そうですか。聖女サーヤさんは16歳から18歳をこの世界で過ごした後に神様にお願いして、16歳まで時間を巻き戻ったのですね。そこからニ年が経っているというなら、お話通り確かに私は今20歳ではなく、18歳です。

全く心当たりがなくていまだに信じられませんが、この世界で過ごした聖女サーヤさんの人生は理解しました」


紗綾は、聖女サーヤについて話してくれた教皇エーヴェイルに頷いた。






結局詳しい話は、このままこの部屋で聞くことになった。


ライオネルの「場所を変えてゆっくり話そう」という言葉に慄いた紗綾が後ずさると、教皇が咳払いをして、「では私からここで詳しい事情をお話ししましょう」と紗綾に声をかけたからだ。


まるで「教皇の私が話せば信じるだろう」というかのように声をかけられたが、恋人だったと主張するライオネルも怪しいが、教皇エーヴェイルも知らない人に変わりなく、十分に怪しい。

そんな人が話す話を鵜呑みにできるはずがない。


後ずさりした紗綾の背中には、祭壇らしき机が当たっていた。

『この祭壇っぽいものは、きっとこの建物の中で重要な物なはず!』と見当を付けて宣言する。


「神様!もしこれから私が聞く話に、嘘や偽りや誤魔化しがあれば、私はこの世界での役割を放棄します!すぐに元の世界に返してください!」


男達に対するちょっとしたパフォーマンスのようなものだったけど、神に言葉が届いた事を体で感じた。


「あ……。どうもありがとうございます……?」


不思議な感覚に、とりあえず祭壇に向かってお礼を伝えておく。



「本当に神様はいるのですね。良かったです。これで安心してお話を聞けそうです」


見えない力に嬉しくなって、紗綾は緊張の色を走らせた教皇エーヴェイルににっこりと笑いかけ、そして聖女サーヤがこの世界で過ごした二年間の話を聞いたのであった。






紗綾は聞いた話が自分の理解で合っているか、話を短くまとめて教皇に確認する。


「では聖女サーヤさんが力を失くしたのは、その『他の世界の者だけが持つ』という聖女の力のアップデート中で、一時的だった可能性があるのですね。

でもそれは後に古い文献を詳しく調べて分かった事で、当時は「用無しだ」とばかりに、それまで護衛をしてくれてた仲間に見捨てられちゃったと。

最後に世界平和を祈ってもらうはずだったのに、その前に浄化仲間の裏切りがバレて逃げられちゃったんですね。

だからまた蔓延し出した世界の穢れを浄化をさせようと、もう一度裏切った聖女を呼び出してほしいと神に頼んだという訳ですか……。

それは聖女サーヤさんも記憶を消して逃げ帰りたくなる世界ですね」


「誰でも逃げ出したくなりますよね」と紗綾は聖女サーヤに同情を込めて、教皇エーヴェイルに言葉をかけた。


オブラートに包むように遠回し遠回しに伝えられた話だったけど、要するに紗綾が話した通りだろう。

聞いても他人事にしか感じないが、それでも本当に気の毒な話だと思う。



「違う!そうじゃない!俺たちは二年もサーヤと各地を旅した仲間なんだ!固い絆で結ばれている俺たちが、サーヤを裏切るはずがないだろう?!」


それまで黙って聞いていたライオネルが声をあげると、「あ、はい」と紗綾は返事を返してから尋ねた。

彼の主張よりも今は聞きたい事がある。


「新しい聖女さんに浄化を頼めばいいんじゃないですか?新しい聖女さんも、使命を持って他の世界から呼ばれたんですよね?」


「……聖女カナエの浄化の力は弱すぎる」


「え?でも聖女サーヤを成長させたのも、ライオネル王子様と仲間の方達だったんですよね?」



『前の聖女に仕事を押し付けて、今の聖女と遊んでないで仕事しなよ』という非難の言葉は心の中に留めておいた。

腐っても彼は王子様だ。権力には屈しておくのが安全だろう。


だけど紗綾の冷ややかな目に、沙綾の思いは正確に伝わってしまったようだ。

ライオネルが焦ったように言葉を重ねた。


「聖女カナエを特別視しているわけではない。

カナエとも共に各地を回ったが、どれだけ経験を積んでも、カナエは穢れを完全に浄化する事が出来ないままなんだ。

浄化仕切れない穢れが大きく成長してしまって、せっかくサーヤが浄化した地も元に戻りつつあるんだ。

お願いだ、サーヤ。もう一度俺たちを信じてほしい。そしてもう一度世界の浄化に協力してほしい。

そもそも俺たちは決してサーヤを見捨ててはいない。

守秘義務があるから、ちゃんとサーヤに説明が出来ていなかったのは認める。

だけど本当に誤解があるんだ。

あの時は、この世界に来たばかりのカナエとの信頼を築かなくてはいけなかった時期だったんだ。それは聖騎士としての義務なんだ」



紗綾は「あ、はい」と答えながら、『聖女サーヤさんもそりゃ記憶も消したくなるよね』と心の中で納得してしまう。


結婚を約束している恋人を放っておいて、「義務だから」と他の女の子を振り向かせようと必死になっている男を信じられる人の方が不思議だ。


たとえライオネルが裏切ったつもりはなくても、聖女サーヤが彼の行動を裏切りととっても当然だろう。

この世界の倫理観、本気でヤバそうだ。


だけど心変わりもカップルの破局も、よくある話だ。

とにかくこんな話を続けていてもしょうがない。


「正直私は自分の話とは思えないですし、そんなに気にしなくてもいいと思いますよ」


消えた記憶が本当だとしても、しょせん他人事だ。

『そんな事より考えなくちゃ』と紗綾はこれからを考えた。


ライオネルから世界の浄化を頼まれてたからと言って、初対面でしかない彼に協力する義理はない。


だけどこの世界に沙綾を呼ぶ事を決めたのは、この世界の神だ。

「え〜前回やったのも私みたいじゃないですか〜」とゴネたいところだが、おそらく紗綾に拒否権などないはず。


だったらしょうがない。

引き受けるしか道はない。


紗綾の身の安全さえ保証してくれるなら、とっととこんな馬鹿げた役割は終えてしまった方が賢明だろう。

ここでゴネるより、その分の見返りを求めればいい。


「分かりました。色々な事情があるのでしょう。

聖女と言われてもピンときませんが、もし私に聖女の力があれば協力しましょう。――ただし!」


紗綾はライオネルに向けていた顔を祭壇に向ける。


「神様!聖女の役割を終えた時は、今回三倍返しの対価でお願いします!本当は新しい聖女さんの役割だったものですよね?ボーナスとして、二つの願いの追加を要求します!絶っ対に譲りませんから!」



キッパリと言い切ると、神が応えてくれるのを体で感じた。


「――ありがとうございます、神様。私頑張りますね!」



『三つの願い事のうちの一つは、元の世界に帰る事にして、あと二つの願い事をじっくり考えようっと♪』と、紗綾は気持ちが明るくなった。

ついでにライオネルに伝えておく。


「あの、私の三つの願いは、私だけのお願いにするつもりですから。この世界の永遠の平和は、私に期待しないで、新しい聖女さんにお願いしてもらってくださいね」


また私を利用しようと考えないように、先に釘を刺しておいた。





 

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