36.神対応
神の声が、ライオネルとの面会後から届かなくなっていた。
神殿に戻ってもやっぱり言葉はなく、「今日は一人で神様に話しかけてみるね」と、紗綾は一人で聖堂に入って神に呼びかける事にした。
三人の護衛は部屋の外で待っていてくれている。
「神様、聞こえてますか?」と紗綾が話しかけると、神は応えてくれたが、声なき声で話す声が暗い。
神が落ち込みを見せていた。
『様々な者にやり直す機会を与える事が私の方針ではありますが、聖女としての才能を持つ者にこのような仕打ちを受けるとは……』
カナエが一瞬で神への誓いを破った事に、神が深く傷ついたらしい。
『しばらく神様から声が届かなかったのは、カナエ様が原因だったんだ……』と、神までも患わせるカナエに驚きしかない。
響いてくる神のオーラまでも暗かった。
カナエに期待をしていたのかもしれない。真の聖女になっていれば、どれほどの力を持った人になっただろうかと考えてしまう。
「元気出してください。はいこれ、聖力をカチコチにまとわせてみたラムネをお供えします。新技の『味のする聖力』です。
主治医さんがお薬に出してくれたラムネが美味しくて、思いついた技なんですよ。優しい味のラムネと優しい女騎士さんは最高ですよね。
あーあ。二つ目の願い事、味付き聖力が作れるようにしてもらえればよかったな……。絶対みんな楽しくなったと思うのに……」
話す途中から独り言になった紗綾に、『叶えましょう』と神に応えられる。
「待って神様!今のは最後の願い事じゃないんです!この世界に残る事も考えようかなって思うけど、まだ決めてないですから!」
紗綾は慌てて断りを入れる。
最後の願い事まで使ってしまったら、将来をどう選ぶか考える前に選べなくなってしまう。
『二度目の願い事は、私の至らなさ故の結果となってしまいましたから、聖力に味をつける力を二つ目の願い事としましょう』
「え……!神対応……!!あの、イチゴ味とかブドウ味とか、バリエーションもつけてくれると嬉しいです」
『それも叶えましょう』という神の言葉と共に、紗綾は新技を習得した事を身体で感じた。
早速試しに聖力を摘んで、イチゴ味をイメージしてパクリと口に入れると、ほのかにイチゴ味が口に広まった。
「神様……!!ありがとうございます!――はい。イチゴ味の聖力キャンディお供えしますね。じゃあ私、早速みんなに披露してきます!」
神に聖力をカチコチに固めたイチゴ味キャンディを供え、扉の前に立っているはずの三人の護衛に声をかけた。
「ロイさーん!ガクさーん!ルイさーん!緊急集会開くよー!デリさんの騎士団にも連絡して、みんなを呼ぼう!すごい事起きるよ!」
騎士団のみんなで外に出て、デリの騎士団の到着を待っていると、デリが一人先に駆け込んできた。
遠くに姿が見えたと思ったら、あっという間にデリが紗綾の目の前に立つ。
「サーヤ様!もう起き上がってよろしいのですか?!」
はあはあと荒い息をしながら話すデリは、馬車ではなく一人で走って来たらしい。
「デリさん、走るのすごく早いね。デリさんの騎士団からここまですごい距離なのに元気だね。私はもう何ともないよ。
ごめんね。私が休んでる間も魔物駆除を進めてくれたってフォル様から聞いたよ。ありがとうデリさん。頼りになるね」
「いえ――はい。ありがとうございます」
ぱああっと顔を輝かせるデリは、紗綾に褒められて相当に嬉しかったようだ。
デリを見ながら、昔近所のおじさんが飼っていた、大きくて賢いワンちゃんをまた思い出す。
「重大発表があると聞きましたが、どんな危険があってもお守りしますよ」
「ありがとう。でも危険はないよ。みんなが到着してから発表するから、もうちょっと待っててね。みんな早く着かないかな〜」
「早くしろと言って来ましょうか?」
気遣わしげに聞いてくるデリの息は、もうすでに整っているようだ。
「まだ走れるの?デリさんは元気だね。でも急がなくても大丈夫だよ。ここで一緒に待っておこう?」
紗綾の誘いに「はい」と答えて、デリが嬉しそうにピッタリと寄り添うように隣に立った。紗綾との間に割り込まれたロイが不機嫌そうだ。
ロイにはデリがワンちゃんに見えないらしい。
『早く来ないかな〜』と、ワクワクしながら待っていると、ようやくみんなが到着した。
「ちょっとデリ!あんた何先に一人で行ってんのよ!」
「あんたを探してたせいで時間かかったじゃない!」
「あんた本当に勝手なのよ!」
女騎士達に囲まれて責められるデリは、やっぱり愛されキャラのようだ。
楽しそうだけど、今は急ぎの発表がある。
「みなさーん、聞いてくださーい!重大発表ですよ〜!
みんなも、私の二つ目の願い事のなりゆきは聞いてるみたいだけど、さっき神様がお願い事のやり直しをしてくれました!
なんと!!味付き聖力の誕生です!いくよ〜!ラムネ味の雪よ、降れ〜!」
聖力を集めて雲を作り、ラムネ味をイメージする。
集まった騎士の上にも紗綾の上にも、ラムネ味の雪が降り注いた。
「ラムネ味だ!」「ラムネ味がする!」と騎士が騒ぎ出し、「ラムネ味ですね……」とルイも呟く。
「すごいでしょう?色んな味が作れるんだよ。本当に最高の願い事出来たよ〜。これこそ神様からの贈り物だよね。神様って本当に優しいよね。私、信仰心なんて無かったけど、この世界の神様は大好きなんだ〜」
味付きの聖力を作れるこの楽しさは、この世界だけのものだ。楽しそうな騎士達を見ていると、『この世界に残ろうかな……』と気持ちが傾いてくる。
それに三人の護衛とデリを置いて元の世界になんて帰れるだろうか。
告白っぽい話をされたせいか、特にロイを意識して落ち着かなくなる。
「じゃあ次はイチゴ味ね!イチゴ味の雪よ、降れ〜!」
言葉にしても意味のない呪文を唱えながら、そわそわし出した気持ちをイチゴ味で切り替えた。
「イチゴだ!」「今度はイチゴ味だぞ!」と喜んで騒いでくれる騎士達を見て、『やっぱりこの世界が好きかも』と思ってしまう。
フクフォルトは執務室で、サーヤから届いた手紙を開いていた。
「サーヤちゃん、味付きの聖力を作れるようになったんだって。神が願い事のやり直しを聞いてくれたみたい。本当に神とサーヤちゃんって緩さが似てるよね」
手紙と一緒に届けられた小箱には、味のついた聖力キャンディが入っていた。
「『神は世を愛す』と言われますから、世の中を明るくするサーヤ様の願いは聞いてあげたいのでしょうね。今度お会いした時は、私にも味付き聖力を振る舞ってくれそうですね、楽しみです」
いつも嬉しそうにウェンディに話しかけるサーヤを思い浮かべたのか、ウェンディの口元が緩む。
「今度はお城にも雪を降らせに来てくれるって。手紙から楽しくてしょうがない感じが伝わるし、これだったら僕が何も言わなくても、この世界に残ってくれそうだね」
「良かった〜」と言いながら、フクフォルトは綺麗に並べられた聖力キャンディを、一つ摘んで口に入れてみる。
「何これ。バーベキュー味じゃん!」




