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夢で呼ぶ彼 〜消えた過去から呼びかける人  作者: 白井夢子


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34.ロイが思うこと


ライオネル達を殴った手を見ながら、ロイは深いため息をついた。


あれほど『聖騎士らしくいよう』と自分に誓っていたのに、我慢の限界を超えて、以前のように人を殴り口汚く罵ってしまった。



あの時はどうしても我慢できなかった。


元聖女だったあの女の、サーヤ様を貶める発言も、神への願い事を譲れという主張も、聖女の力を一瞬で失うような愚かさも許せなかった。

サーヤ様の性格をよく知るはずの王子が、身分のない者の話を持ち出す卑怯な頼み事も、いまだにサーヤ様の恋人気取りをする事も腹立たしくて、考えるよりも先に手が出てしまった。


野蛮な俺を見て、サーヤ様はどう思っただろうか。

サーヤ様の前では、絶対に聖騎士らしくあろうと誓っていたはずだったのに。


しょせん聖騎士らしく振る舞っているだけの俺に、あんな奴らよりもはるかに汚い本性は、隠せるものではないという事だろうか。


サーヤ様の護衛として、いつまでも相応しくなれない自分にため息しか出なかった。





実は自分達兄妹の生まれは、セイクリド国ではない。

祖国からルイと共にセイクリド国に密航して入り、出自の怪しい者の集まりの、今の騎士団に潜り込んだだけだ。

比較的平和なセイクリド国の貴族の目など、簡単に誤魔化す事が出来た。


それまでは、祖国の貧民街で地を這うように生きてきた。

ルイと二人で生き抜くために、盗みも詐欺も、人に言えないような事も何でもやってきた。

その報いとして刺されて死にかけた時も、ろくでもない人生だったと自嘲するしかない生き方をしていた。


『終わりだな』と覚悟した時に、世界の浄化に回っていたサーヤ様が、通りで俺を抱えて泣き叫ぶルイに気がついて、さりげなく聖力を頭上から降り注いでくれなければ、俺はあのまま終わっていただろう。


あの時――俺とルイに急に降り注いだ温かい何かに、信じてもいない神を感じた。

ルイがすぐさま過ぎ去って行った馬車を見ると、窓から聖女様がこっちを見ていたと話していた。


身分の高い者が、色のない者に関わる事は恥とされる事は、世界の常識だ。

馬車に乗っていたサーヤ様が、周りの護衛に気づかれないように何か力を使ってくれたらしかった。


あんなに温かい光を感じたのは初めてだった。

どこまでも広がる闇の中に差した、一筋の光を追いかけるように、聖女様の話を聞き集めてセイクリド国に潜り込んだ。


いつかどこかで聖女様を一目見たい。

その時に恥じない自分でいたい。


その一心で、聖騎士らしく振る舞えるよう、本を読んで礼儀や言葉使いをルイと共に必死になって学んでいた。




以前のサーヤ様の護衛に選ばれたのは、別に俺やガクが剣術大会で優勝していたからではない。


『聖女サーヤ様が城を出されて、色のない聖騎士を護衛に付けられるという罰を受けた』という噂を聞いた時、どうしてもその護衛に選ばれたかった。

だから本当は王都に近い騎士団から適当に選ばれていたところを、ガクと二人でその騎士団に乗り込んで、言いがかりをつけてその座を奪っただけだった。


ガクも温厚そうな人柄を見せているが、俺と同じような生き方をしてきた者だろう。ガクを誘って乗り込んだわけではないが、噂を聞いて動くタイミングが同じだった。




初めて見たサーヤ様は、高貴な髪色をした可愛らしく優しそうな人だった。

身分のある者らしく、すました顔で俺達をいない者のように振る舞おうとしていたが、チラッチラッと申し訳なさそうに見てくる視線がおかしかった。


きっとあの時すでに聖女を崇拝する気持ちではなく、サーヤ様に落ちていたのだろう。



サーヤ様が通う事を許された古い造りの神殿の部屋は、壁がとても薄く、聖女サーヤ様の祈り――というより神へ話しかける言葉が、実は部屋の前に立つ俺達にも筒抜けていた。


「ちょっと神様?も〜いい加減返事してよ。浄化が終わった途端に放置なんて酷くない?それもう神様じゃないよ、悪魔だよ。

ねえ、本当に聞いてよ。アイツら相変わらずカナエさんの嘘しか信じないんだよ。この前も話したけど―」



聞こえてくる話に、『やはり聞いていた噂は、新しい聖女の嘘だったか」と腹立たしい思いはあったが、まるで友達のように神に話す言葉が、自分に語りかけてくれるようで、サーヤ様に勝手に近づけた気がしていた。


毎日サーヤ様が神に怒る言葉を聞くのがとても楽しみで、サーヤ様を知るほどに更に深く惹かれていった。

――何も言わないガクも同じ想いだっただろう。




「ちょっと神様、もう少しなんとかしてあげなよ。あんなちゃんとした子達が不当な扱い受けてるのを見過ごすなんて、神様鬼だよ。

お辞儀も返さない私に、あの子達いつも深々とお辞儀してくるんだよ。あの子達を無視する貴族ルールって何よ。どれだけ貴族が偉いっていうのよ。貴族なんてちょっと髪の色が濃いだけじゃん。

それに浄化する場所だって、あの子達が魔物退治を前もってしてくれてたみたいだよ。貴族の騎士なんて、安全な場所で王子の護衛してるだけなんだよ。

むしろ護衛が必要な、護衛の仲間ってなんなの?よく考えたら意味ないよね。

あのちゃんとした子達の方を仲間にしてくれたら、魔物退治の時も聖力が役にたったかもしれないのに。聖力はああいう子のために使った方が価値あるよ。次からはそうしなよ。

――何よ。神様の声まだ遠すぎるよ。声が途切れててちゃんと聞こえないよ。もっとはっきり話してよ」



聖女サーヤ様は王子にも貴族にも、この世界の全てに失望していた。

聞こえる言葉で、自分達を気遣ってくれている事も、神と繋がり始めている事も気づいていた。


「……もう帰ろうかな」


たまに呟くその言葉で、聖女サーヤ様が神に願いを伝える時が、サーヤ様との別れになるかもしれない事も勘付いていた。


あと一週間は先だと思っていたのに、城の図書室に行くからと城まで護衛についたサーヤ様が、そのままま消えてしまうとは思わなかった。



言葉をかける事も許されない人だった。

あと一週間、護衛につけたところで何かを伝えられた訳でもない。

それでもとても苦しんだし、いつまでも忘れられない人だった。






〈再びサーヤ様をこの世界に呼び戻すために神の世界に呼びかける〉


国の決定で俺達も奇跡的に大神殿に呼ばれ、王子達が神の世界でサーヤ様の姿を見たと騒いでいるのを見て、俺が願ったのはこの世界の救いではない。


ただ一目会いたかった。

こんな世界に戻ってくれなくてもいい。

たとえ記憶があったとしても、俺の事など覚えてもないだろうけど、ただもう一度サーヤ様を見たかった。


貴族の聖騎士さえたどり着けなかった神の世界に、汚れた俺がたどり着けるとは思えなかったが、それでも心から会いたいと祈った。


伝えられる言葉がなくても、一目会いたい。

姿を見るだけでいい。

そのためならもう何を捨てても惜しくない。


俺の順番が回ってきた時、そんな思いで強く祈ると、ぼんやりした世界で俺を不思議そうに見ているサーヤ様がいた。


深々と頭を下げる事しかできなかったが、神の世界ではサーヤ様も深々と頭を下げていた。

きっとこの姿が自然な姿なんだろうと、サーヤ様を目に焼きつけたくてじっと彼女を見つめていた。


じっと見つめすぎたのか、サーヤ様が何かを話しかけてくれた。

少し遠くて、何を言ってくれたのかが分からない。

近づきたいけど動く事もできなくて、首をかしげる事しかできなかった。






あの時願ったのは、ただ一目だけでもサーヤ様の姿を見る事だった。


―――サーヤ様に話すつもりはないが、神の世界にたどり着いたライオネル王子達も、同じ想いでいたのではないかと思っている。


ガクより前に祈る事が出来たのは、たまたま昨年の剣術大会の優勝者だっただけだ。ガクもおそらくあの神の世界にたどり着いていただろう。

サーヤ様を呼ぶ事ができたのが自分だという、この幸運に神に感謝している。



この先もずっと一番側にいたいと、更なる幸運をと願う事は、身の程知らずだと分かっていても、願わずにはいられなかった。


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