33.療養
女騎士に看病される日々は最高だ。
ライオネルとの面会は色々な事がありすぎて、騒動をしばらく見ているうちに具合が悪くなってきて熱が出た。
この世界に来てから、口寂しくなると聖力を固めて食べたりしていたせいか、いつでも体の調子は万全だったが、さすがにキャパオーバーしたようだ。
お城にとどまって、うーん、うーんと一晩うなされて目が覚めると、ルイを含めた女騎士達が紗綾に手厚い看病をしてくれていた。
「冷たいりんごジュースを飲みますか?」「フルーツなら食べられそうですか?」と優しく聞いてくれる。
周りに漂う聖力を、いつものようにキュッと固めて食べてしまえば治る事は分かっている。
だけどせっかくの幸せな時間が終わらないように、聖女の力は使ったりしないで、調子が悪いままにしておく事にする。
お手洗いに立つ時も、「掴まってください」と言われるなんて最高すぎる。
紗綾は今、とても幸せな時間を過ごしていた。
神の願い事は一つ無駄使いをしてしまったが、結果的にこれだけの幸せをもらえるなら、いい使い方だったかもと思う事が出来た。
『神様ありがとう』と心の中でお礼を伝えておく。
手厚い看病のおかげで、二日目の朝には完全に体調は戻ってしまったが、「今日は顔色が良さそうですね。起きれそうですか?」と聞かれてもちょっと調子が悪いふりをしてしまう。
紗綾を診てくれたフクフォルトの主治医が、「もう少しゆっくり休まれた方がいいでしょう」と薬を出してくれた時、嬉しくてちょっと笑ってしまった。
この城の人は貴族でもみんな優しくて、紗綾の大好きな人達だ。
三日目にフクフォルトが部屋を訪ねてきた。
布団に入ったまま迎えた紗綾に、フクフォルトが呆れた顔で声をかけてきた。
「サーヤちゃん、今までにないくらい顔色いいじゃん。そろそろ起きてきなよ。サーヤちゃんがここで寝てると、僕の女騎士みんながこの部屋に来たがるんだよ〜」
「ちょっとフォル様、仮病って決めつけないでよ。主治医さんが出してくれたお薬だってまだ飲んでるんだよ」
「それ薬じゃなくて、ただのラムネだよ」
「え!」
どうやら仮病はバレていたようだ。『この世界の薬ってラムネみたい』と思っていたが、本当にラムネだったようだ。
「あーあ」と言いながら起き上がる事にする。
「ありがとうフォル様、元気になったよ。この前の面会の時もありがとう。ロイさんもガクさんもルイさんも、責任問われないようにフォル様が収めてくれた、って聞いたよ」
あの騒動の中、紗綾は途中で退室してしまったが、その後フクフォルトが場を丸く収めてくれたとウェンディから聞いていた。
「あ〜あれね。ロイくんもルイちゃんも、地が出ちゃったみたいだね。身分で主人を守れないようじゃ、護衛の意味なんてないし、まあ、護衛としては合格じゃない?スマートなやり方じゃないけどね。
サーヤちゃんは別にあの時の事、気にしてないでしょう?ロイくん落ち込んでたから、後で声かけてあげたら?」
「え?そうなの?ルイさんからも謝られて、「ロイさんにも気にしないで。ありがとうって伝えといて」って言ってたんだけど。後で呼んでもらおっと。
ライオネル王子様達はもう国に戻ったんだよね」
「うん。強制送還しちゃったよ。たださ、カナエさんの評価は今向こうの国でも低いから、ルイちゃんは大丈夫だと思うけど。ロイくんはもうセイクレド国に戻らない方が安全だと思うよ。さすかに王族に手を上げちゃったら、時効なんてないと思うしさ」
フクフォルトの言葉に紗綾は眉根を寄せた。
「それは確かにあり得るよね……。私が元の世界に戻った後に、ロイさん達に危険があったらどうしよう。
ねえフォル様。世界の浄化が終わった後、ロイさんも騎士団のみんなも、希望する人はこの国で暮らせるようにしてくれないかな?」
「それは別に構わないけどさ。僕が場を収めたって言っても、すでにロイくん、向こうの国に目をつけられてると思うよ。
サーヤちゃん、戻っても気になっちゃうんじゃない?この世界に残ってみんなの側にいる方が、サーヤちゃんも安心して暮らせるかもしれないよ。
それに僕、サーヤちゃんの事が心配なんだ。元の世界は確かにこの世界より安全だった気はするけどさ。それでも悪い人はいるじゃん。
悪い人は悪い人に敏感だし、サーヤちゃんはロイくんとかデリみたいな人を選んだ方がいいよ」
「え……。二人とも私より純粋で良い子じゃん。ロイさんだって、私の代わりに王子様に怒ってくれるような子だよ?」
ふうとフクフォルトはため息をつく。
ロイとデリを純粋で良い子と評する紗綾が、やっぱり心配だった。
あの二人こそ注意すべき人物だろう。
身分のない者がのし上がりを見せるには、必ずそれだけの理由がある。
もちろん才能あるからこその剣の腕だが、師をつける事もなく我流で剣術大会で優勝するほどの腕を持つなんて、それまで何を切りつけてきたか分からない。
相当なことをしてきたという事だろう。
サーヤが再びこの世界に呼ばれ、新しく護衛になった者が身分のない者だと聞いた時、フクフォルトはロイとガクとルイについて徹底的に調べあげていた。
三人とも今は穏やかな人物と評されているようだが、数年前までは三人共が色のない者らしく相当な悪さをしていたようだった。
それでもフクフォルトが彼等をサーヤの側から切り離さなかったのは、聖女だったサーヤに心酔して生き方を変えた者達だったからだ。
フクフォルトとしては、サーヤが守られるなら綺麗な経歴など持たなくてもいいと思ってる。サーヤにとって危険があると判断すれば、片付ければいいだけの話だった。
涼しい顔をしたサーヤの護衛がどんな人物なのか見ていたが、ロイの方が気が短いようだ。デリをサーヤに勧める度に目の光に殺意が宿るロイを、ウェンディが牽制していた。
フクフォルトを守ってくれる女騎士の素晴らしさよ。
「やっぱり女騎士って尊いよね〜。サーヤちゃん、いつまでもお城にいてほしいくらいだけど、仮病で僕の女騎士の気を引くのやめてよ。みんなサーヤちゃんのお世話したがるんだよ。みんなには僕を一番に心配してほしいんだから〜」
「え〜私だってみんなに心配されたいし」
不満そうに口を尖らせるサーヤに、「サーヤちゃんがこの世界に残って、ずっとロイくんを護衛に付けてたら、セイクリド国もロイくんに手出し出来ないんじゃない?」と言えば、サーヤの心はグラリと動くだろう。
『護衛なんかのために簡単に世界に残る事を決めちゃうだろうな』と思うと、フクフォルトはやっぱりサーヤが心配になってしまう。
純粋な優しさを持つサーヤは、とても聖女らしい人で、フクフォルトが誇る親友だ。




