30.面会
ライオネルとの面会には、ロイとガクとルイの他に、フクフォルトとフクフォルトの多くの護衛も付いてくれていた。
紗綾にとっては心強いが、ライオネル達への圧がすごい。
どこか居心地が悪そうに座っているライオネルとレノックスとウォレント、そして聖女だったカナエが、紗綾に謝罪の言葉を述べた。
「こうして神の罰を受けるまで過ちに気づけなかった事は、謝って済む事ではないと分かっている。だけどどうしても会って謝りたかったんだ。サーヤ、本当にすまなかった」
「サーヤ様、本当にごめんなさい……」
四人が共に紗綾に深く頭を下げると、頭を下げた拍子に男達の髪がサラリと動き、少し薄黒い耳がよく見えた。
彼らの耳はまだ完全には元に戻らないみたいだ。
声を震わせて頭を下げたカナエは、深く被ったヴェールで顔は見えないが、少し痩せたように見える。
しばらく待ったが、彼らは頭を上げてくれない。
紗綾はどうしたらいいのか分からなくなって、そっと隣に座ったフクフォルトに視線を送る。
フクフォルトが口パクでゆっくりと、『このままにしときなよ』と笑顔で伝えてくるが、頭を下げられているのは紗綾なのだ。落ち着かなくて、ソワソワしてしまう。
もうしばらく待ってみたが、彼らは動かない。
『早く頭を上げてよ……』と、テレパシーを送っていた紗綾の方が我慢できなくなってきた。
「みなさん頭を上げてください。みなさんの謝罪のお気持ちを受け取ります。
あの……謝っていただいても、送った聖水が効かなかったなら、私は治療する事ができないんです」
紗綾がかけた言葉に、カナエがバッと頭を上げて、激しい動揺を見せた。
「そんな……!私は全ての事を懺悔したつもりです!これ以上はもう何を話したのかも思い出せなくて……。
だいぶん黒ずみは引いたといっても、人前に出れるような肌の色ではないんです。お願いしますサーヤ様!神様と本当に話せるなら、なんとか治せる方法を教えてもらってください!」
カナエがやけを起こしたようにベールをむしり取ると、現れた顔は確かに違和感のある肌色をしている。
日焼けの黒ではない。漆黒の黒をぼかしにぼかした色合い――灰色だ。
それは宇宙人を思い起こされる肌色だった。
カナエも紗綾と同じ18歳だと聞いている。
「日焼けしちゃった」の肌色なら「いいんじゃない?」と言えるところだけど、さすがに宇宙人色は気の毒に思えてきた。
紗綾は神に声をかけてみる。
「うーん……。神様、せめて日焼け肌にしてあげた方がいいんじゃないですか?グレー肌は宇宙人カラーで、見てる私の方がなんか怖いです。―――あ」
紗綾の言葉で、カナエの肌色がパッとこんがり焼けた肌色に変わった。
「カナエ様、良かったですね!神様が日焼け肌にしてくれましたよ」
「え………?」
カナエが手袋を取って自分の肌の色を確認すると、変わった肌の色にブルブルと震え出した。
「え……?神様がいるの……?!――神様!ここにいるんですか?!いるなら聞いてください!私、なんでも正直に話しますから!
お願いします!私を元の色白肌に戻してください!
………私はただ「誰かに愛されたい。私を愛してくれる人がいるなら、どんな遠くてもそこに行きたい」って祈ってこの世界に来たんです。
だってあの世界のあの元彼、結婚しようって言ったくせにあんな女を選ぶんだもの。今度は私が選ばれる番じゃないですか?
この世界にきた日に、初めて出会ったハーバルトが王子様みたいな顔してたから、「この人が私を愛してくれる王子様だ」って間違えただけなんです。
もし私が聖女の戒律を知ってたら――もし彼がただの聖騎士だって知っていたら、絶対にあの人と関係を持ったりしませんでした。ハーバルトの事は本当に間違いだったと反省しています。
………本当の王子様はサーヤ様と恋人だなんて、『私の方が可愛いのに、そんなの間違ってる』って思ったんです。
私はただ昔読んだ小説のヒロインを真似して、愛されるヒロインになりたかっただけなんです。
嘘じゃないわ。これが本当に真実なのよ……」
カナエの独白に部屋がシンと静まり返る。
その言葉に確かに嘘はなさそうだ。
そんなえげつない話は、嘘でも言えるものではない。
だけど神はカナエに何も答えてくれないようだった。
紗綾としては色々思う事はあるが、カナエが紗綾より可愛いのは真実だ。そこは間違いない。
だけどその話には誤解がある。
「あの。『結婚まで関係を持ってはいけない』って戒律は、神様が決めたものじゃないみたいですよ。それ昔の教皇様が作った戒律みたいです。神様は、恋愛は自由だって話してました。聖女の力が弱まったのは―」
「そうなのか?!関係を持ったところで力に影響はなかったのか?!」
紗綾の言葉を遮るライオネルの大きな声に、紗綾の肩が跳ねる。
「――そうみたいですね。神様がいつか『他の者の運命を変えるような嘘は許せるものではない』と話していた事があります。聖女の力に影響するのは『嘘』のようです」
紗綾の言葉にライオネルが残念そうな顔になった。
「え?!じゃあ私、ライオネル様にもっと積極的に迫ってよかったって事?!」
「え?あ……まあ、はい。そういう事ですね。どうぞ」
カナエも残念そうな顔になったのを見て、これからは戒律に縛られる事はない二人に、「どうぞ」と言葉をかけておく。
それにしても、と紗綾はカナエを見つめた。
なんてアグレッシブな人なんだろう。
カナエがこの世界に来たのは、紗綾の時と同じ16歳の時だと聞いている。
この世界に来る前にはもう、結婚を約束した人もいたと話していた。
「カナエ様って今、私と同じ18歳ですよね?」
「え………?」
何気に聞いた歳に、カナエが激しく動揺を見せた。
目を泳がせたカナエに、紗綾も動揺する。
「え?……まさか……嘘……?」
考えるよりも先に言葉が出た。
「何よ!年齢も嘘のうちに入るわけ?!ハーバルトが初めて会った時に「16歳か?」って聞くから「はい」って答えただけじゃない!16に見えたんだったら、16でいいでしょう?!………何よ。
―――30よ!私は30歳です!
これでいい?!これでもう話す事は何もないわよ!」
『歳の誤魔化しから間違いが始まりました』
神が静かに語り出す。
『もし実年齢を伝えていれば、カナエの誘いに、ハーバルトも衝動的に関係を持つ事はなかったでしょう。彼が自らの罪を隠すために、サーヤを積極的に貶める事にはなかったはずなのです。
サーヤと同じく『他の世界に行きたい』との願いを持ったカナエには、サーヤにとって頼れる大人としての存在になってほしかったのですが………。
―――嘘はとても罪深いものです』
そんな独白は止めてほしい。
聞いたところでどうしろというのだ。その言葉をカナエに伝えられるわけがない。
女性に年齢はタブーだという感覚が、この世界にはないのか。
「あ。カナエ様、今の告白で肌の色が元に戻ったみたいですよ。神様にカナエ様の言葉が届いたようで何よりですね。
他の皆さんも耳の色が戻ってますよ」
神の言葉は伝える事を止めて、見たそのままを四人に伝えるだけにしておいた。




