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夢で呼ぶ彼 〜消えた過去から呼びかける人  作者: 白井夢子


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23.三つの願い事


フクフォルトが紗綾に用意してくれた滞在場所は、王城からとても近くて綺麗な神殿だった。

以前の聖女サーヤを招く時に建ててくれた、『サーヤおもてなし専用』の神殿らしい。

さすがお金持ちの王子様だけある。


神殿から王城までは歩いて行けるほどの距離だし、城の者はいつ訪れても熱烈に歓迎してくれるので、紗綾はよく気軽にフクフォルトの城に遊びに行く。

フクフォルトとジャンクな食べ物を開発しながら二人で盛り上がるのも、日々の楽しみのひとつだ。


紗綾とフクフォルトとの会話で、ロイとガクは色々と察するものがあると思うけど、二人が紗綾にフクフォルトの秘密について尋ねることはない。

口外禁止の誓約書を交わされている事もあるだろうが、それ以前に二人の口は信用できる。

ロイとガクの前では、フクフォルトと気を使う事なく話す事ができた。






「違うんだよ〜。これじゃないんだよ〜」

「確かにちょっと違うね。これ高級な味がするもん」


フクフォルト王子の感想に、紗綾も頷いた。

今日の試作品も、完璧な再現は見られなかった。


「どうしても僕の求めてるジャンクな味が出ないんだよ。本当にカップラーメンって再現が難しくてさ〜。もうかれこれ十年も追い求めてるのに、ゴールがまだまだ見えないんだよ〜」


「でもこっちの方が断然美味しいよ。これ作った料理人さん、天才じゃない?三分でちゃんとラーメンになってるし」


「違うんだよ〜。高級な味じゃダメなんだよ〜。あの背徳感がある味を求めてるんだよ〜。絶対諦めないんだから!」


「フォル様のカップラーメン愛が深いね。それはぜひ成功してほしいな……。

――あ!じゃあフォル様に、神様の願い事をひとつプレゼントしてあげるよ!『フォル様がカップラーメンを再現出来ますように』って。

世界の浄化が終わった時―……」


「サーヤ様?」

「大丈夫ですか?どこか具合が悪いのですか?」


フクフォルトとの会話の最中に、神に話しかけられた。


神の言葉に耳を傾けて宙を見たまま固まる紗綾に、ロイとガクに顔を覗き込まれて、「え?……あ、ごめん。大丈夫」と我に返った。


「サーヤちゃん、医者を呼ぼうか?」


フクフォルトも心配そうに紗綾を見ていた。


「違うよ、神様の言葉を聞いてただけだよ。あのさ、その願い事なら今すぐ聞いてあげるって。フォル様がお供えしてるコカコーラもポテチも、神様大絶賛だよ。

世界の厄災が続いてたから、明るい話題は大歓迎みたいだね。すぐ作れるようにしてくれるって。

フォル様、ゴールは近いよ。頑張ってね!」


「え?何?サーヤちゃん、僕に神様のお願いを譲ってくれるの?え、そんな貴重な―」


紗綾が笑いかけると、フクフォルトが会話途中でハッと顔を強張らせた。


「――――あ。なんか分かったかも。後で早速試してみようっと。試作品出来たらすぐ連絡するね。

え〜どうしよう。再現の夢が叶ったら、お祝いにローテッド国の国民みんなにカップラーメン振る舞っちゃおうかな。

今度の祝祭日にみんなで神様にお祈りしながらラーメン食べてもらうなんて良いよね」


「フォル様、『国民みんなに』なんて王子様っぽい!

いいんじゃない?保存食として推奨すれば、いざって時に助かる人も多いと思うし。軽いしさ、魔物駆除とかの携帯食にもなりそう。

美味しいって事を教えてあげていれば、みんなも安心して非常食に蓄えておけるしさ」


「なんかサーヤちゃん、お勧めの考え方が聖女っぽいね。じゃあ共同開発って事で発表しちゃおうか。

うわ〜ありがとう、サーヤちゃん。貴重な神様へのお願い事まで使ってくれるなんて」


「フォル様にはすごく良くしてもらってるし、願い事はあと二つあるしね。一つは帰る時のためのもので、もう一つももう決めてるんだ。教えちゃおっかな。

――実は魔法使いにしてもらおうかなって思ってるの」


へへへと笑いながら紗綾が打ち明けると、フクフォルトに怪訝な顔を返された。


「魔法使い?魔法使いになって何するのさ」


「ほら私、「聖なる雪よ、降れ」とか「聖なる水よ、湧け」とか唱えてるけど。あれ言ってるだけで別に意味ないんだ」


「「え!」」


部屋にいるみんなが驚いていた。

紗綾がみんなの前で聖水を作る時は、必ず呪文を唱えながら作っているからだろう。


「あ。みんな気づかなかった?あれ本当は言ってるだけなの。何も言わなくても雪は降るし、聖水も湧くんだよ。何も話さないで静かにしてたら、地味すぎるから呪文唱えてるの。

でも魔法使いになったら、本当に呪文に意味を持ちそうだし、箒で空だって飛べそうでしょう?私がピュッって空を飛んで、空から雪を降らせたら、みんなびっくりするんじゃない?」


想像しただけで楽しくなって、「ね、良い考えでしょう?」と笑いかけたが、みんなの反応は思ったものと違っていた。


「危ないから止めてください!」

「空を飛ばれては守れないですから」


「止めときなよ。サーヤちゃん、運動ダメそうじゃん。落ちたら上手く着地出来なさそうだし、危ないから止めてよ。意味のない呪文のままでいいじゃん」


みんなに一斉に反対されて、紗綾は楽しかった気持ちがシュウと消えていくようだった。

元の世界に戻る前に、最後にみんなで楽しむための思いつきだった。だけど反対されるなら魔法使いにこだわるつもりはない。


「え……じゃあ願い事何にしようかな。お金持ちになれますように、とか?素敵な人と出会えますように、とか?なんか普通過ぎない?うーん……」



「まあ!サーヤ様、その願い事はすぐに叶いますよ。ここに素敵な方がいらっしゃるではないですか。

ローテッド国民は、サーヤ様こそが『食の発明王』と言われるフクフォルト様に相応しいお方だと噂しております。

フクフォルト様は様々な食品開発で、ローテッド国をより豊かにしてくださってますし、この上ないお金持ちです。それに素晴らしい人格者ですから、サーヤ様とお似合いです!」


紗綾が悩んでいると、食い気味にウェンディにフクフォルトを推され、フクフォルトがそんな彼女を諌めた。


「ちょっとウェンディ、やめてよ〜。僕、剣も持てない子なんて無理だから。

サーヤちゃんごめんね。僕、剣を使えて騎士服が似合う、格好いい子の方が好きなんだ」


「……ちょっと。なんで好きになってもいないのに、私がフォル様に振られてるわけ?

騎士服似合わないのは、フォル様も一緒じゃん。私だって剣を使えて騎士服似合う人の方が好きだし」


「え〜サーヤちゃんひどい。――あ。じゃあ聖騎士のデリは?サーヤちゃん、すごくデリに好かれてるって聞いてるよ。

デリは身分がない聖騎士だけど、彼の実力を認めてる貴族は多いんだよ。

世界の浄化が落ち着いたら、国を挙げて剣術大会でも開こうか?そこでデリが優勝すれば、サーヤちゃんの相手として世間に認められるんじゃない?

サーヤちゃんが元の世界に帰るの止めて、デリとこの国で暮らしてくれたら、僕もずっとサーヤちゃんといられるし」


「フォル様、それパワハラだよ。国の王子様にそんな事言われちゃったら、デリさん断れなくなっちゃうじゃん。

デリさん本当に良い人なんだよ。悪い人に騙されないか、心配になるレベルなんだよ……」


「え〜。別に騙されても強いからいいじゃん。デリなら騙されても、いくらでも仕返しできるでしょう?」


「あの子は私やフォル様とは違う側の子なんだよ。そっとしといてあげようよ」


「え〜〜。なにそれ。僕、サーヤちゃんと同じ側にしてくれるんだ」


フクフォルトが嬉しそうに口を尖らせて文句を言っていた。





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