15.呼ばれたのは
「ロイさん大丈夫?疲れたの?食堂で何か甘い物分けてもらってこようか?」
ライオネルの馬車を見送って、やれやれとまた聖堂に戻ってくると、ロイの表情が暗かった。
「いえ。あのように好き放題言わせたまま何も出来ない事がふがいなく思ってしまいまして……」
「え?みんな私を庇ってくれてたじゃん。ありがとう、すごく嬉しかったんだ。
神様も身分に煩わされる事なく浄化できるようにしてくれるって言ってくれたし、私は大丈夫だよ」
思い詰めた顔をするロイに紗綾が笑いながら話すと、ルイもホッとした顔になった。
「サーヤ様は神に愛されていますね。……だけどどうして神は、あのような人を新しい聖女として選んだのでしょうか」
ルイの言葉に、彩綾は神との会話を思い出した。
彩綾が神に「聖女一人しか要らないそうですよ。二人呼ぶから手違いだって話になるんじゃないですか?」と言った時に、神が返した言葉がある。
「神様が言ってたけど、聖女サーヤの働きが良かったから、次の聖女も私と似た人を選んだんだって。
ほら。聖女サーヤが力を失くした時があったんでしょう?あの時って聖女の力を伸ばすのに必要な期間だったんだって。いったん力をゼロにして、もっと良質な力を入れ込む時だったんだって、神様も話してたよ。
力が消えてる間、『世界の平和をフォローしてくれる聖女がもう一人いれば』っていう神様の考えだったみたいだね」
「サーヤ様は聖女カナエ様とは全く違います。似ているなんてあり得ません」
すぐにロイに否定されて、「あ、うん」と反射的に答えてから説明をした。
「性格とかじゃなくてさ、境遇というか、神様への願いが似てたんじゃないかなって思うんだ。
『私が前にこの世界に来た16歳の時、何をキッカケにこの世界に呼ばれたんだろう』っていうのは気になってたんだけど。
多分だけど、すごく怒ってたあの時じゃないかな?って心当たりがある時があるんだ。
大した話でもないんだけどね。
私の家、少しだけ複雑でさ。親が再婚者同士で、私はお父さんの連れ子で、お母さんと妹とは血が繋がってないんだ。
で、お母さんが、お母さんのお母さん――義理のおばあちゃんにもらった指輪をある日失くしちゃった時があってね。前に指輪を見て「綺麗だね」って言ってた私が、お母さんに疑われちゃったわけ。
結局はお母さんが片付けた場所を間違えてたみたいで、何日か後に指輪は見つかったんだけどさ。
私だけが疑われた事がすごく悔しくて、『本当のお母さんじゃないから私を疑うんだ』って、『私を信じてくれる人がいるなら、どんな遠くてもそこに行きたい!』って信仰心もないのに神様にお祈りしたんだ。
あれがちょうど二年くらい前なんだよね。その時にこの世界に呼ばれたんじゃないかな。……違うかもしれないけど、心当たりがそれくらいなんだよね。
だからもし神様がカナエ様を「私に似た人」って言うなら、カナエ様も同じような事を祈ったのかも。
まあこれも予想でしかないけどね」
紗綾が話し終えると部屋がしんと静まり返った。
重い話をしたつもりはなかったが、重く受け取られてしまったようだ。
「みんな誤解しないでね。本当にちょっと思い出しただけなの。
お母さんは私と妹に差別なく接してくれてるよ。指輪が見つかった時も、すごく謝ってくれたし。
あの時の私がすごく怒っていただけで、ずっと怒ってたわけじゃないよ。むしろ忘れてたくらいなんだけど……ライオネル王子様の話を聞いてる時に、たまたま思い出しただけなんだ。
でも当時の聖女サーヤも思い出して、指輪の時よりも悔しい思いをしたんじゃないかな。記憶も消したくなるほど、聖女サーヤはみんなにすごく失望したんだろうなって思うよ」
「……私はサーヤ様が何をしても信じますよ」
「いや、何かしたなら疑いなよ」
それはおかしいから、とロイに言葉を返しておく。
「これからの浄化活動についてなんだけどさ。神様が教皇エーヴェイル様に話してくれるって言ってくれたんだ。
私はこれからの浄化は、この騎士団のみんなと回りたいと思ってるんだけど、みんなそれぞれの参加希望を聞こうと思うんだ。世界には、この国よりもっと危険のある場所があるかもしれないしね。
ロイさんとガクさんから話してもらった方が、断わりたい人は断りやすいと思うし、二人から話してもらっていいかな?」
騎士団のみんなの個々の希望を聞いておきたかった。
紗綾は聖女らしい人格者ではない事を自覚している。『誰でも分け隔てなく助ける』なんていう事はできない。
紗綾を拒絶する人には、紗綾の聖力も反発してしまうだろうなと、聖女の力を取り戻した今、感覚で感じる事が出来る。
聖力で怪我の治癒は出来るが、自分に不満を持ちながらながら参加してる人には効き目が弱いかもしれない。
それをちゃんと説明した上で、みんなの希望を聞いてもらうことにした。
不参加を表明しても、騎士団での居心地が悪くならないように配慮してあげてほしい事もお願いする。
魔物駆除だけが仕事ではなく、貴族からの雑務も多いと聞いているので、断った聖騎士が仕事を失う事はないはず。
「あの…… 他の女性騎士の参加も認めてくださいますか?」
ルイに遠慮がちに声をかけられた。
「参加希望してくれそうな女の子がいるの?!もちろん大歓迎だよ!
ねえ。早速明日、参加希望者の人達と浄化の練習に行ってみない?」
「練習ですか?」
「うん。私は聖女の力を思い出しただけで、浄化の流れまでを思い出したわけじゃないんだ。私が出来るのは穢れを祓うだけで、魔物を退治する力はないと思うんだよね。
みんなが魔物を駆除するところを見て、私がそこで出来ることを見つけておきたいなって思って」
紗綾の提案をすると、慌ててロイが止めた。
「サーヤ様がそんな危険な場所に行く必要はありません。以前の聖女サーヤ様も、魔物の危険を無くした地に浄化に向かわれていたのですから」
「え。危険がなくなった場所に行くだけって、それ貴族の騎士さんと一緒じゃん。美味しいとこ取りだったんだ……」
「良いとこ取りは貴族の特権」と偉そうに話しながら、聖女サーヤも特権を振りかざしていたようだ。
この口は本当に要らない事を話してしまう。
「それは違います。私達が魔物を駆除しても、その地の穢れを祓わなくては、また魔物が生み出させるだけです。聖女サーヤ様は聖水を作り出して、完全に穢れを祓ってくださいました。
それに魔物を駆除していた我々に、感謝をされていたとも聞いています。決して当時も我々を蔑ろにしていた訳ではないですよ」
ロイは安定の優しさを見せて紗綾を庇ってくれた。
本当に良い人だ。その優しさの恩に報いたい。
出来る事があるなら、やっぱり手伝いたいと思ってしまう。
「うーん……。前がそうだったとしても、でもやっぱり一度見に行きたいな。何も手伝える事がないって分かったら、次からはちゃんと安全な場所で駆除が終わるの待ってるからさ。
どうかな?明日一回だけお願い出来ないかな?
ハラハラしながらただ待ってるだけって嫌なんだよ〜」
「――では共に参りましょう。必ず危険がないようにします」
「他の騎士には話しておきますよ」
「ロイさん、ガクさん、ありがとう!」
二人の返事に『明日が楽しみだ』と、紗綾は機嫌良くお礼を伝えた。




