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ストロベリー狂詩曲の前章



『音を手懐ける』


 同年代のなかでとびきり有名なそいつは、自分を猛獣使いか何かと勘違いしているんじゃないかと思わせるデカい口を叩いた。

 俺は、へっ、偉そうにと思い、観客席に座って演奏を聴く。


 ピアノを上手く弾くコツがあれば教えてくれよなんて、軽々しく訊ねるんじゃなかった。



***

**


 中学二年の終わり頃、幼馴染みの女子に頼まれて吹奏楽部に転部した。決して、スムーズに乗り換えできたわけではない。

 一年生の春から野球部の四番打者としてスタメン起用されてる俺を文化部へ引き抜くとあって、顧問同士の話し合いに留まらず、校長先生まで巻き込む大事にまで発展した。

 そりゃそうだ。学校側としては、高校からは勿論、プロのほうからも様子うかがいでスカウトが来るような選手をスポーツ界から引き離すのは惜しい。


 だが、それらは大人たちの名誉の問題。


 野球部員同士のあいだでは「四番になりたい奴はいくらでも居るから構わないぞ」と、引き止める奴は居なかった。寧ろ、転部を応援された。

 吹奏楽部のほうは、三年生が卒業したことで部員数が、ガクーンと減っている。一番の痛手はピアノを上手く弾きこなせる先輩が居なくなったことだ。


 任せても大丈夫と思える新入生が現れたら俺は用済みだけど、最後の一年はただの部員として歌うなりすればいい。思い出づくりというやつだ。




「川嶋くん、ピアノなんて弾けるの?」


 一時間目の休み時間。一年中、隣りの席だった野球部のアイドルマネージャー下田(しもだ)から、揶揄い混じりに訊かれたが。


「知らないの?(しのぶ)、小学四年生まではピアノのコンクールに出てたんだよ」


 俺ではなく、隣りのクラスから遊びに来てる幼馴染みの皆川(みながわ)夏美(なつみ)が、なぜか自信満々に答えた。


 下田は、脚を組んで笑う。


「昔話じゃない。川嶋くん、勿体ないことしたわね。二連覇してる球団からスカウト来てたのに」


 と、彼女は惜しんでくれたが、春が訪れ、新入生の歓迎式の後半、部活勧誘として開かれる発表会で俺が演奏を披露すると、心臓がドキドキして椅子から崩れ落ちるところだったと褒めてくれた。




「まさか川嶋に、そんな得意分野があったなんてな」


 野球部の主将になった、同級生の敦茅(あつがや)もびっくりしている。

 此奴と恋人になりたての下田も、不思議そうに見てきた。


「ほんと。あんなに上手いなんてね。

 ピアノの才能あるのに、なんで野球を始めたの?」


 俺は、廊下の壁を背凭れにした。


「ピアノ弾く男なんてダサいって、同級生に揶揄われたんだよ。じゃあ何すりゃいいんだよって返したら野球って言われて、誘われるがまま」


 敦茅は大きな口を開けて笑った。


「はははっ。そいつ、おまえと野球して遊びたかったんだろ」


「さぁな」


 俺たち三人は横並びになって理科室へ向かう。

 筋肉オタクの下田は、敦茅の引き締まった左腕を、嬉しそうに抱き締めた。


「ねぇ、ピアノって親のエゴで始めたの?子どもにさせたいっていう大人、ゴロゴロ居るでしょ?」


「そ。園児の頃から習ってた」


 敦茅は苦笑いを浮かべ、

「うわぁ、最悪」

 と言って同情した。


「でも、野球するのもやめるのも反対しなかったぜ?休みの日に家のほう手伝ってくれるなら別にいいしって」


「親に振り回されてんのな」


「好きにさせて貰ってるし、家の手伝いしたら小遣いくれる。ピアノの調律師も呼んでくれるから有難いけど?」


「マジかよ」



--- 終 ---

※ 「設定を変えないと今後の規約に触るかも。これ以上は難しいなぁ」と感じて投稿を削除した恋愛小説『ストロベリー狂詩曲』の、前章の一部です。

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