イイヅマート
知性の揺籠が人体のなかの何処にあるのか聞かれたとき、僕は脳と答えた。質問者の芹絵は、少女漫画に住んでる女の子みたいに綺麗な脚を崩して教室の椅子に座り、僕を見つめる。あずなさを残した透明感のある瞳で。
「明日のお昼、イイヅマートへ行くの。和正くん、付き合ってくれていいよ?」
イイヅマートは、唯々妻という苗字の人が店長をしてる一風変わったお店で、僕の母親もたまにふらっと遊びに行ってるのだが。
「悪いけど僕は行けない。ハードルが高すぎる」
「つまんないこと言うのね。負けるのが怖い?」
「そんなんじゃ……。ッ!」
僕の気弱さに芹絵は退屈そうな顔をし、靴下を履いた足の指先で、右脚の膝頭を撫でた。
「私がデートに誘ってるのに」
「美術館へ行くとか、ゲーセンじゃ駄目?」
「だって、静かな所じゃ緊張しちゃうし、ゲームセンター行っても五月蝿いだけじゃん」
「だからってさ、お姉さんたちの僕を見る目がキツすぎるんだよ」
「みんな将棋が好きなんだから、仕方ないよ」
そう。イイヅマートは熟女と老女が集い、朝から晩まで誰かが将棋を指している。高校生以下の男子であれば入店OKという謎ルールを誰かが決めたらしいが、将棋を指さない客は基本お断りだ。
--- 終 ---