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徒花に出づる、陽光の温もり(仮名)
指の腹でなぞったらきっとやわらかくて、もっと触れたい気持ちにさせてくれるのではないかと思うほど、彼女の頬はシロップに浸す前の白桃みたいに美しかった。
放課後、美術室にて石膏像を見ながらスケッチブックに鉛筆を走らせている男子高校生、白旗美園にそのことを話してみると、「食べてしまいたいほどか?」と茶化されてしまった。
隣りに椅子を置いて座っているおれは難色を示す。どの思考回路を伝えば、そんなホラーめいた発想が閃くのだろう。鉛筆を握っている手につい力が込もり、尖っていた芯の欠ける音が出た。その瞬間、室内に居るほかの六人の生徒たちの耳にも入ったらしく、みんなの動きが一瞬止まる。
「東郷池アオイ」
「はい」
邪魔をしてしまった罪悪感を痞として残したまま、不貞腐れ気味の声でおれは返事をした。
石膏像の向こう側にパイプ椅子を置いて座り、こちらを覗き込むように視線を送るのが習慣になっている、麻布志ヲリこと通称アザラシ先生が、おれをフルネームで呼んだのだった。
--- 終 ---