思い出 高校3年 [夏休み〜前編〜]
4人で帰っていた。あの春の日に、私達は丘の上で寝転んだ。そのまま寝てしまっていた。気がつくと、あたり一面花で覆われていた。その広大な花畑の中にいる自分たちが、とても小さな存在に見えた。まるでみんな幼い頃に戻ったように、慎重に花を踏まずに歩いていた。その光景は、花の檻にとじこめられたようだった。その時、哉汰がこういった。
「俺らって名前しりとりになってるよな。ループしてるし。ひらがなにしたらだけど。」
そう言って笑った。
―帰り道―
「ねえねえ今年でさ、4人で最後に過ごす夏休みだよね~。なんかする⁉特別なこと!」
夏休み前日の帰り道、今日は4時間、部活なしという最高の時間割ということで、いつも通り4人で一緒に帰っている。美由は明日から高校最後の夏休みということで、なんだか張り切っている。
「俺は毎年通り川行って、毎年通り山行って、毎年通り海行くでいいけど。」
「賛成。俺もそっち側に着く。別に特別なことなんてしなくてよくね?」
確かに。そうかもしれない。大体、毎年楽しいのだから、そんな事しなくていいのかもしれない。でも
「私、東京に行きたいな」
「……え?」
しまった。言ってしまった。
「…えっ由香、マジで言ってる?!」
「あっ…えっと…」
ヤバい、そんなお金、家には無いのに。みんなはともかく、私の家はそんなにお金がある方ではない。ここは冗談と言ってかいくぐらなきゃ。
「冗談じょ…」
「めっちゃいいじゃん!行こうよ、東京!!!」
ちょっとちょっとちょっとちょっとちょっと!これ言われたらかいくぐれないじゃん!
「いいかもな。」
「えっちょ、ま」
「東京かぁ~」
えっっっっまっじでヤバい、どうしよう。確かこの島から東京まで1万円ぐらいだっけ?いや、往復となるとやっぱり……
「ごめんっ冗談で言った。」
「なんで?」
「えっと…欲を言ったから。私、東京にすごく憧れてるんだよね。」
「でも、遠いけど行けるくね?」
財産がないんです!財産が!!!
「まっいいや。毎年通り過ごそっ。じゃあまたね~また集合の日時、LINEで送るから。」
「バイバ〜イ」
―翌朝―
美由▶今日遊べる?もし大丈夫なら、宿題持っきて!一緒に宿題パーティーしよ!
拓巳▶俺はOK
由香▶何時集合?
美由▶午前のうちに来て!
哉汰▶おk
リビングへ向かうと、食卓には、パンとベーコンエッグ、サラダとコーヒーが用意してあった。パンを一口かじる。
哉汰▶急用で、午前にいけなくなった。
美由▶OK。じゃあ午後に来れる?
哉汰▶うん
美由▶じゃあ午後来て。
朝食を食べ終わる。皿洗いをして、着替えた。サンダルでいいかと思いながら、スニーカーに足を入れる。玄関の鍵を閉めて自転車で美由の家へ向かった。前から当たる風は気持ちよくて、小高い場所へ来ると碧く光る海が見える。山の中に入れば、セミが大合唱をしていて、その中には、微かに鳥のさえずりや川のせせらぎが聞こえていた。
「あっどうぞどうぞ!入って!」
「おじゃまします」
美由の家は昔ながらという感じがする。ここに来ると、いつも落ち着く。縁側に座って景色を見ていると、おばあちゃんがレモネードを持ってきてくれた。
「ありがとうございます。」
美由のおばあちゃんのレモネードは絶品で、口の中で弾ける炭酸と、ちょうどいい感じの甘酸っぱさがあるレモンの味。氷でキンキンに冷えたこのドリンクを飲みながら、外のお気に入りの景色をみると、夏って良いなと感じることができる。この景色は、目の前に海、右には山が少し見える。私は、この風景が一段と好きだった。
そんなことを思っていると、拓巳が来た。
「おはよ。」
「おはよう。」
返事をしてからまた景色を見ると、
「お前、そこの景色好きだよな。いつも観てるじゃん。」
うん、とだけ返してまた沈黙が続いた。2分経つと、いきなり拓巳が私の隣に座ってきた。
驚いて少し横にずれた。
でも、悪い気はしなかったのは、なぜだろう。
これが夏休み初日の話だった。これから皆で集まって宿題をした。夏休み前半の初日から、みんなの仲が特別になっている気がした。
―8月17日―
「夏休みも後半だねぇ~」
「結局遊びまくって、宿題終わってないよ。」
そう、今日らへんからはもう、夏休みの後半に入っている。さすがに宿題が終わっていない私は、遊ぶことができない。
「俺も終わってない。」
「私は終わってるけど…。」
「俺も。」
「ねぇ美由~。宿題手伝って。」
「哉汰宿題やってくれないか?」
「自分でやれ。」
私の頭じゃ高校の問題なんてあんまり分かんない。美由は、スポーツ万能で、勉強もできるから、美由に宿題を手伝ってもらいたかった。
「どっちかの家で2人っきりでやれば良いじゃん!」
「それはちょっと…」
「なんだよ。拓巳!良いじゃねえか。これはチャンスだぜぇ!」
「心臓が持たな…」
「由香は良い?」
「うん」
まあ拓巳も勉強できる方だし、教えてもらえばいっか。そう思って、その日は拓巳と一緒にワーク系の宿題を全て終わらせた。