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武器と魔導書、買いましょう

 その日、人で賑わう王都の冒険者ギルドが少しだけざわついた。


「……ええと、このフレイムリザード……3匹とも、皆さんが討伐を?」

「ああ、もちろんだ。何か気になる点でもあるのか?」


 何故かというと、ダンテ達が巨大なフレイムリザードの体の一部を、討伐の証拠として持って帰ってきたからだ。

 しかもサイズからして、並の冒険者では苦戦必至の敵に違いない。

 それほどの怪物を、あの万年C級冒険者が倒したなど、受付嬢すら信じられなかった。


「あたし達の実力だぞー!」

「実力だぞー」

「い、いえ! ですが私だけじゃなく、他のスタッフも同じことを思ってますよ!」


 セレナとリンにじっとりと睨まれ、受付嬢がうろたえた。


「いつも採取クエストを受けてばかりのダンテさんと、冒険者に登録して日も浅いDランク冒険者の3人で、この大きさのモンスターを倒すなんて信じられません!」

「やらないだけで、できるってわけさ」

「バカにするなよー!」

「するなよー」


 鼻を鳴らすふたりと、肩をすくめるダンテ。

 周囲の冒険者達も、こんな3人にモンスターの討伐などできるはずがないと思っているが、クエスト達成の条件を満たしたのは違いない。


「……おかしなものですね、昇給クエストも受けないのに……まあいいです」


 どこか納得いかないながらも、受付嬢は他のスタッフに納品アイテムを渡す。


「はい、報酬の2000エメトです。あと、幼体の皮の分の300エメトも、どうぞ受け取ってください」


 代わりに、貨幣(かへい)の入った麻袋をどすん、とカウンターの上に乗せた。


「ありがとーっ!」


 袋を掴んでカウンターを離れたセレナは、3人でギルドの外に出る。

 そしてリンと顔を見合わせ、大きく飛び跳ねた。


「やった、やったーっ! クエストの報酬、初めて受け取っちゃったーっ♪」

「やったったーっ」


 ずっしりとお金の詰まった袋は、ふたりが頑張った証だ。

 ダンテの助けもあったが、とにかくクエストで稼いだ報酬なのだ。


「宿代も払えるし、一度のクエストでこれだけお金がもらえるなら、ちょっとくらい豪遊してもいいよね!? 酒場でいっぱいお酒を飲んで、お肉を食べるのもいいかも!」

「甘いスイーツ、新しいローブ、新しい本……わくわく」


 まるで初めてお小遣いをもらった子供のようにはしゃぐセレナ達だが、その後ろには、あきれ顔のダンテがいた。


「おいおい、真っ先に買わないといけないものがあるんじゃないか?」

「買わなきゃいけないものって?」


 皆目見当がつかないらしいふたりを、ダンテは指さした。


「あのなぁ……お前らの武器と魔導書が、クエストでダメになっただろ」

「「あっ」」


 正確に言うと、セレナの剣と、リンの魔導書だ。


「そうだぁー! 報酬をもらえたのが嬉しくて、すっかり忘れてたーっ!」


 頬に手を当てて叫ぶセレナの背中の鞘から、ダンテは剣を引き抜いた。

 フレイムリザードを斬った時から気づいていたが、刃が石でも叩き割ったかのようにボロボロで、もはや鈍器と呼んだ方がしっくりくるほどだ。

「剣は折れてこそないが、刃毀(はこぼ)れがひどい。魔導書はもっとひどい。もう魔力を感じられないのは、リンが一番分かってるよな」

「……うん。サマニ村にいた頃からずっと使ってたから、よく分かるよ」


 リンがリュックから取り出した魔導書は、フレイムリザードの熱波で溶けていた。


「だいぶガタが来てたんだ、買い替え時と言ってもいいかもな」


 ほとんどの場合、魔導書で売りに出される。

 表紙が破けて、傷だらけになるほど使い込んだのだから、天寿(てんじゅ)を全うしたともいえる。


「セレナの剣は、昔から使ってたわけじゃなさそうだ。大方、行商人が売ってた安物の剣を、村を出る前に買ったんじゃないか?」

「えぇっ!? どうして分かったの!?」

「実戦経験のなさに反して、剣の損耗(そんもう)が激しすぎるんだよ」


 一方でセレナの剣には、そこまで情は移っていなさそうだ。

 でなければ、刃毀れに気付かずに振り回し続けはしないだろう。


「どちらにせよ、冒険者稼業を続けるなら、武器や魔導書は生命線だ。他の何よりも優先して揃えておきたいが、だからといって安物はオススメできないな」


 戦うための装備は、肉より酒よりスイーツより、何より大事である。

 ふたりも分かってはいたが、趣味に使うお金と必需品を買うお金を天秤にかけた時、後者の方がお高く見えてしまうものだ。


「ね、ねえリン……王都の武器って、やっぱり高いのかな……?」

「魔導書も……手持ちのお金じゃ、足りないかも……」

「まあ、どっちもいいものを買おうとすれば3万エメトは欲しい」


 ダンテが告げると、ひそひそ話をしていたふたりの顔が驚愕(きょうがく)で染まった。


「「さ、さんまん……っ!」」


 巨大なフレイムリザード15匹分×2。

 今の彼女達からすればとんでもない高額で、到底買えそうにない。

 しばらくは武器も魔導書もなしかと思い、彼女達の顔がこの世の終わりのような絶望に変わってしまった。


「安心しろ、今回は俺が買ってやるよ。行きつけの店があるから、案内してやる」


 そしてすぐ、大通りを歩くダンテの提案を聞いて、ふたりの顔から絶望が吹き飛んだ。


「ほ、ほんとに!?」

「ありがたやありがたや……」


 手を合わせて拝むふたりは、性格こそ真逆でも、根っこは本当にお調子者だ。

 そんな彼女達だからこそ、ダンテも面倒を見てやりたくなるのだ。


「大袈裟だっての。そう遠くないし、今から買いに行くぞ」

「はーいっ!」

「はーい」


 威勢のいい返事と共に、セレナ達はカルガモ親子のように、ダンテについて行った。

 大通りから少し離れた路地裏を何度か曲がり、冒険者や行商人があまりいない道を進むと、ダンテはすぐに足を止めた。

 彼とセレナ達の目の前にあるのは、古びた家屋だ。

 この見た目は間違いなく、伝統の技術が残る伝説の名店だとセレナは思った。


「ここだ。俺も長いこと世話になってる武具屋だから、大人しくしろよ」


 歯を見せて笑い、セレナは扉を開いた。


「分かってるって! それじゃあ早速、失礼しまーす!」


 きっと中には、素晴らしい芸術品のような武器や防具が揃っているのだろう。

 大きな期待と喜びを抱き、セレナとリンが足を踏み入れた先は――。





「あらあらぁ、いらっしゃあい」


 テーブルと暖炉(だんろ)と椅子。

 そこに腰かけて編み物をする老婆。

 膝で丸まっている猫。


((――おばあちゃん()?))


 どこからどう見ても、埃っぽい民家であった。

 ふたりがぽかんとするのも、無理はなかった。

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