猫耳少女達の実力
支度を済ませてから少しして、ダンテ達は大きな王都の門を馬車で抜けた。
とことこと馬車を走らせ、大きな川にかかった橋を二度ほど渡り、徒歩でしか進めないようなところまで来て、セレナは空を仰いだ。
「王都からちょっと離れたところに、こんな渓谷があるなんて……」
「どこも建物だらけだったから、ちょっと新鮮」
上流から川が流れる谷間に差し込む陽の光を頼りに岩場を歩きながら、ダンテが笑った。
「王都ヴェインと港町カーラル、異人だけが集まったキョウトウ自治区以外は、まだまだ開拓途中だ。広い都を出れば、どこも同じようなものさ」
セレナとリンが、なるほど、と頷く。
リットエルド王国は歴史こそ長いが、過去に何度か戦火で土地を焼かれた。
人が離れ、街として再生しなくなった土地が、代わりに自然として生まれ変わることも多々あるのだ。
「自然がいっぱいで、空気も美味しくて、なんだか生まれ故郷を思い出すなあ」
「故郷か。お前ら、どこから王都に来たんだ?」
「ボクら、サマニ村から来たんだ」
ダンテの問いかけに答えたのは、リンの方だった。
「サマニ村? 驚いたな、王都から馬に乗ってもひと月はかかるぞ」
彼の記憶が正しければ、サマニ村は獣人だけが住まう小さな村だ。
行商人が来ないと、流行りのアイテムや武具すら買えないような辺境だったはず。
「そもそも王都じゃなくても、途中の街や村に冒険者ギルドの支所があっただろ。そこで冒険者になればいいのに、どうしてここで冒険者になったんだ?」
「そりゃあ、王都の冒険者ギルドと他じゃあ、クエストの数がダンチだもの!」
「報酬も多くて、昇格クエストも受けやすいしね」
どうやらセレナもリンも、一獲千金を狙って田舎から飛び出てきたらしい。
「でも、アポロスみたいな連中がいるとは思ってなかったよ!」
だから、夢を掴もうとした自分達を玩具同然に扱ったアポロスは、一層許せないだろう。
「最初は『仲間にしたい』とか『お金を稼げる』とか言ってたくせに、荷物持ちの囮役程度にしか思ってなかったなんて……あー、今思い出してもムカつくーっ!」
「万死に値する。地獄に堕ちるべし」
岩を登りながら、セレナは背負った細長い剣を尻尾で撫でつつ、歯を見せて笑った。
「あいつらのところじゃあ、何もさせてもらえなかったけど、今は違うもんね! モンスターをバンバンやっつけて、アポロスもエヴリンも見返してやるんだ!」
やる気に満ち溢れるふたりを見て、ダンテは少し安心したようだった。
「……そうか、ならちょうどいい機会だぞ」
「んっ?」
なぜなら、及び腰では冒険者稼業など務まらないからだ。
彼が指さした先ではいずり回るのは、どどめ色のトカゲ。
「あれを見ろ、フレイムリザードの幼体だ。今回の討伐対象じゃないが、皮を剥いで帰れば、追加報酬をもらえるだろうな」
少なくとも、あれに怖がって逃げ出すようでは絶対に冒険者などなれはしない。
「せっかくだ。お前らの実力を、見せてくれないか?」
人間の子供程度のサイズのトカゲが、じろりとセレナ達を見た。
ちろちろと舌を突き出すさまを目の当たりにしても、ふたりは臆さない。
「うん、いいよ! あたし達は弱くないってところ、教えてあげる!」
セレナが斜め掛けにした鞘から抜いたのは、わずかに刃が毀れた剣。
リンが背負ったリュックの中から取り出したのは、ちょっぴり古ぼけた分厚い本。
「行くよ、リン! 村でゴブリンを倒した時みたいに、パパっとやっつけよっ!」
「分かった。援護は任せて」
それぞれの武器を携え、フレイムリザードの幼体が動くより先に、セレナが駆け出した。
「おりゃああッ!」
彼女が剣を握り締めたのは手ではなく、金の毛がなびく尻尾だ。
器用に武器を尻尾で掴んだセレナは勢いよく跳びかかると、猫耳族特有の鋭い爪と剣、ふたつの刃でフレイムリザードの皮を切り裂いた。
ダンテの知り合いにも猫耳族の獣人はいるが、尻尾を使って戦うのを見るのは初めてだ。
(尻尾を使った剣術に、爪の追撃……猫耳族でもあまりいない、二股の尾だからできる技か)
さて、感心するダンテの前で、セレナは斬撃を浴びせてゆく。
もちろんフレイムリザードもやられっぱなしではなく、皮に切り傷が増える中、爪を振り回して抵抗を試みる。
「セレナ、下がって。『零れる滴、集まり固まり槍となれ』!」
そんなセレナをサポートすると宣言したリンは、魔導書を開いて呪文を唱えた。
すると、本から淡い水色の光が湧き出てきたかと思うと、水流の槍となってフレイムリザードめがけて飛んでいき、見事にトカゲを串刺しにした。
『ギュイイイ!?』
叫ぶフレイムリザードだが、攻撃はまだ終わらない。
リンの黒髪が逆立ち、今度は緑青色のオーラがリンのまわりに浮き上がる。
「『駆け抜ける息吹』、『我が敵を裂く』――『刃となれ』!」
呪文を唱え終わると同時に、光がつむじ風のように発射され、トカゲの右脚を裂いた。
ダンテはあれが、間違いなく『魔法』であると確信した。
特殊な魔導書や杖に宿る『魔力』と呼ばれるエネルギーを操り、摩訶不思議な力を発現させる特殊技能。
人間や亜人のエルフ族が主に使う力で、獣人が魔法を使うのは珍しいとされている。
なのに、リンは魔導書から溢れる魔力を支配して、自らの力にしているのだ。
(ただでさえ魔法を使わないと言われている獣人が、複数の属性魔法を使いこなすとはな。その分息切れも早いだろうが、新米にしちゃあ十分すぎる)
ふたりともかなり粗削りではあるものの、並の冒険者より優れた才覚の持ち主だ。
冒険者としての経験もないのに、随分と自信家なのも納得できる。
「これで……とどめッ!」
そのうち、セレナの剣がフレイムリザードの幼体の頭を貫いた。
『ギャウウ……!』
気味悪い色のトカゲは呻くと、すぐに仰向けになって動かなくなった。
「いぇーいっ! 討伐せいこーっ!」
「いぇーい」
駆け寄るリンとハイタッチをするセレナは、ダンテに向き直る。
なんともおかしなほど、ふたりとも自慢げな表情だ。
「どう、ダンテ? あたし達、ただの田舎美少女じゃないんだよ?」
「ボク達、けっこう強いからね」
ふんす、と胸を張るセレナとリン。
もっとも、ダンテからすれば、この程度のモンスターは倒してくれないと困る。
「そうみたいだな。だったら、後ろのやつもどうにかできるか?」
「……後ろ?」
なんせ、幼体は前座に過ぎない。
彼女達が本来討伐すべきは、岩場の奥の木々を薙ぎ倒して迫ってきた、それ。
ふたりが振り向いた先にいたのは、さっきと同じ、どどめ色のトカゲ。
「ガキを殺ったんだ、親が来ないわけないだろ」
ただし、ダンテの言葉の意味と同時に、違いは嫌でも理解できた。
暗がりから出てきたフレイムリザードは――家屋ほど巨大だったのだ。
((――でっっっっっっか!))
心の中で叫ぶのと同時に、ふたりの額から滝のような汗が流れた。
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