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今日から受けよう、討伐クエスト!

 次の日、朝日が昇り始めた頃、ダンテはセレナ達の部屋のドアを叩いた。


「入るぞー」


 がちゃり、とノブを回してドアを開けると、身支度を整えたリンが出迎えてくれた。


「……おはよう」


 まだ何をするかも言っていないうちから、マフラーまで巻いているとは。

 早いうちの準備が習慣のひとつなのだろうと、ダンテは推測した。


「おはよう……リン、だっけか。よく眠れたか?」

「おかげさまで。朝までぐっすりだった」

「そりゃよかった」


 リンは相変わらずの無表情だが、昨日よりも、死んだ魚のような目に輝きが増している。


「ダンテは、どこに行ってたの? 昨日の夜、顔を見てないけど」


 部屋に入り、ダンテが近くのテーブルに腰かける。


「クエストの採取対象は『ヨルヒマワリ』だ。入手難易度は決して高くないんだが、夜にしか咲かない花でな。月が昇るまで待って、採って帰ってきたんだよ」


 納品アイテムの話をすると、リンの眉がぴくりと動いた。


「ヨルヒマワリなら知ってる。ボク、セレナと一緒に採ったことがあるから」

「セレナと?」

「うん。ボクとセレナは幼馴染で、地元じゃ負け知らずだよ」


 ダンテの知る限り、ヨルヒマワリは王都の周りには自生しない。

 地元では、とも言うように、恐らくセレナとリンは王都よりずっと離れたところから、わざわざ冒険者になる為に来たのだろう。

 それなのに、A級冒険者に(だま)されて追放されたのだから、内心は不安だったに違いない。

 改めて、自分が引き取ってやって正解だったと、ダンテは思った。


「なるほどな……で、肝心のセレナは、と……」


 ただ、彼女達のメンタルが強いとも彼は確信している。


「ふごー……ぐごー……」


 特にまだベッドの上で、いびきをかいて爆睡しているセレナは。

 しかも(よだれ)を垂らしているだけでなく、パジャマがめくれて、露出した腹をぼりぼりと掻いているのだ。


「おい、起きろ。冒険者が昼まで寝ててどうすんだ」


 ダンテが(ひたい)小突(こづ)いても、セレナは「ふごっ」と鳴くばかりで目を覚まさない。

 揺れる尻尾を見て肩をすくめるダンテの隣で、リンがため息をついた。


「セレナ、朝は弱いんだ。いつもはボクが起こすけど、昨日お腹いっぱい食べたから、今日はちっとも起きないね」

「道理で、1階のキッチンに皿が山積みになってたわけだな」


 とはいえ、いつまでも寝かしてやる理由はない。


「仕方ない、ちょっと乱暴な手段を取るか」


 すっと指を突き出したダンテは、セレナの鼻をつまんだ。


「……んぐ、ふぐ……!」


 しばらく苦しそうに呻いて、耳をぱたぱたと動かして――。


「――ぶはぁーっ!」


 目をくわっと見開きながら、セレナが跳び起きた。


「なにすんのさ、リン! せっかくA級冒険者になる夢を見てたのに……あれ、ダンテ?」


 猫らしく毛を逆立てるセレナの頭を、リンの代わりにもう一度ダンテが小突いた。


「リンじゃなくて悪かったな、さっさと起きろ」

「ふわぁ……はーい」


 大あくびをしてベッドから這い出るセレナを見るに、アポロスに追放されたのも、危うく殺されかけたのも、すっかり気にしていないようである。

 お腹いっぱいになるまで食事をして、ひと晩眠れば元気になるとは、便利なものだ。


「その様子だと、もう落ち込んではなさそうだな」


 ダンテがそう言うと、セレナは拳をぐっと握って口を尖らせた。


「当然だよ! せっかく王都まで来て冒険者になったのに、アポロスなんかにコケにされたまま黙ってなんかいられないもんね!」

「同感。あいつら、絶対見返してやる」


 どうやら夜を跨いでも、アポロスへの恨みだけは消えていないようだ。


「ハッ。だったら、ちょうどいいクエストがあるぞ」


 ふたりが気力を取り戻したと感じたダンテは、上着のポケットから1枚の紙を取り出し、セレナ達に突きつけた。

 彼女達が顔を近づけたそれは、ギルドでクエストを受注した時にもらえる依頼書だ。


「『フレイムリザード』の()()クエストだ。王都を出て南に進んだ先にある渓谷で、行商人(ぎょうしょうにん)を襲っているらしい」


 下の方には、どどめ色のトカゲの絵が描かれている。

 サイズはともかく、モンスターであるのは間違いない。


「こいつらを仕留めれば、お前達も一発で最低ランクから脱出できるな」


 冒険者はなりたてなら誰でもD級から始まり、何回かの採取クエストを経てC級になるが、討伐クエストを挟めばすぐに昇格できる。

 実力を見せるというのも理由のひとつだが、国お抱えの騎士団の手の届かない範囲のモンスターを討伐した点が、国家への貢献(こうけん)扱いになり、点数を多く稼げる。

 そうして一定数の点数が溜まれば、昇格の為の特別なクエストを受注できる。

 逆に言えば、採取クエストばかりを受けて、その日ぐらしをしているような男は、いつまで経っても昇格の話を持ち掛けられないのだ。


「いつの間に、クエストを受けてきたの?」

「ヨルヒマワリを納品するついでだ。王都の冒険者ギルドは、真夜中や早朝でも一部のクエストが受注できる。受付嬢が常駐してるからな」


 ひらひらと髪を揺らしながら、ダンテが話を続ける。


「で、どうする? お前らはモンスターに殺されかけたらしいし、まだ怖いなら採取クエストを受け直してもいいが……」

「「受けるっ!」」


 彼が最後まで言い切る前に、セレナとリンが顔を寄せて宣言した。


「なら、決まりだな」

「ダンテの方こそ、大丈夫なの?」


 依頼書をポケットにしまうダンテのそばで意気込むふたりだったが、ふと、少し気になる様子でセレナが彼に聞いた。


「大丈夫って、何がだ?」

「宿のおかみさんに聞いたけど、もう何年も採取クエストばっかり受けてるんでしょ? なのにいきなり、討伐クエストに挑んでも……ね、リン?」

「うん。ちょっと心配」


 確かに、ふたりの懸念(けねん)はもっともだ。

 採取クエストで日銭(ひぜに)を稼ぐ男が、討伐クエストを受注するからついてこいと言っても、あまり信用はできない。

 モンスターに頭をかじられるのではないかとすら、ふたりは思っていたのである。


「女の子に心配されるほどヤワじゃないさ」


 ところが、遠くを見つめるようなダンテの目は、妙に落ち着いていた。


「――むしろ、飢えてたくらいだ」


 久方ぶりに獲物を与えられ、狩猟本能を(たぎ)らせる猛獣のようでもあった。


「……?」

「ぼさっとしてないで、準備しろ。すぐに出発するぞ」


 顔を見合わせるセレナ達にそう言って、ダンテは部屋を出た。

 しばらくの間、部屋が着替えや武器の準備の音で騒がしくなった。

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