新しい人生、新しい生活
小鳥のさえずりで目が覚める。朝だ。
藁束と襤褸布で出来たベッドから這い出る。
漆喰を雑に塗りたくった石積みの壁と床板のない土間、窓ガラスのない窓、そして茅葺の屋根が目に映る。
これが、今の俺の愛する我が家だ
どうやら俺は前世の記憶を保ったままこの世界に転生を果たしたらしい。
この世界は、異世界だ。少なくとも現代ではない。
俺の生まれ育った村は辺境にある開拓村だそうで、俺の知っている現代知識は全く通用しなかった。
世界の国々の名前も、現代では当たり前の電化製品、電子機器の存在も何も知らないし、痕跡すらない。電話もねぇ。ラジオもねぇ。と、前世の有名なあの曲じゃないが文明文化の度合いは明らかに前世より劣っている。
電気もガスもなく、薪木が主な資源。普段着は先祖代々お下がりの麻布製のチュニックにズボン、そして靴下みたいな布の靴。
俺の生まれ変わった人種はヨーロッパ系の人種のようだが彼らはキリスト教を信仰していない。女神や精霊などの多神教が主流のようだ。教会に相当する聖堂には十字架ではなく、天使や妖精といった背中に翼の生えた像を崇め奉っている。
そして何より、月だ。2つある。
満天の星空に浮かぶ巨大な月と、その周りを周回する小さな月を見た時は少なからず感動を覚えた。
ここは本当に異世界なんだと。あの慣れ親しんだ、懐かしい、そして忌々しい現代の地球ではないんだと、何処にいるかも分からない神に感謝したものだ。
俺は、俺のままで、新しい人生と新しい生活を享受出来る!
その喜びに幼い自分は歓喜し月に吠えていた。
それが、今生で最高の瞬間だったとは夢にも思わなかったが、な。