小さな指輪物語
「うわぁ! 可愛い」
「アサコ、欲しいの? 買ってあげるよ」
学生時代のボーイフレンド、ツヨシが私にハート形のピンクのガラス玉の付いたデザインリングを買ってくれた。
安物だけれど、心のこもったプレゼント。
でも、卒業と同時に彼と別れ、指輪もどこかになくしてしまった。淡くて幼い恋だった。
「君にきっと似合うよ」
就職後、合コンで知り合い、付き合い始めたヨシヒコから、星をモチーフにしたシルバーリングをプレゼントされた。
「ありがとう。嬉しいわ。はめて」
私の指には星がキラキラ輝いていた。
彼との未来もこの星のように眩しいものになると思っていたけれど、終わりはすぐにやって来た。
「ヨシヒコ、やっと会えたわね。最近そんなに仕事が忙しかったの?」
「いや、そうじゃないんだ。……実は他に好きな女ができたんだ。だから、別れてほしい」
「何よ、それ。ひどいじゃない」
「……ごめん、アサコ」
「分かったわよ。……別れてあげる」
私は喫茶店から出て、夜の街へ向かった。
彷徨っているうちに、橋の上に辿り着いた。
この橋は別名「恋人達の橋」と呼ばれている。
辺りにいるのはほとんどが若いカップルばかりだ。
私は頬に涙を感じながら、ヨシヒコからもらったシルバーリングを川に向かって投げようとした。
その時ふっと横を見ると、私と同世代の男がちょうどネクタイピンらしきものを投げようとしていた。
私達は目が合い、瞬時にお互いの事情を察して苦笑した。
「なんかカッコ悪いところを見られたな」
「……私も」
「一緒に投げようか?」
「……うん」
「せーの!」
彼の掛け声で、私達はそれぞれの思い出の品を投げた。
私の指輪と彼のネクタイピンは一瞬キラリと光ってから、暗い水の底に沈んでいった。
それから一ヶ月後、私は偶然にも街中で彼と再会した。彼の方も私を覚えていて、照れ臭そうに微笑んでいた。
運命的なものを感じた私達は付き合うことになった。
「わぁ! 素敵な指輪。ユウキ、高かったでしょう?」
「婚約指輪だから仕方がないさ」
あれから二年。私達は愛を育み、婚約した。
彼から贈られたのはプラチナ台の大粒のダイヤモンドリング。吸い込まれそうなくらい眩しい光を放っている。
「あの場所に行きたいの」
私はユウキを誘って、夜の「恋人達の橋」へ向かった。
そして、彼に指輪をはめてもらった。彼の愛情の深さをしみじみと感じながら。
「ここで、私達が出会ったのよね」
「妙な出会いだったけど、……アサコに会えてよかったよ」
「私もユウキに会えて本当によかったわ」
満天の星に見守られ、ダイヤモンドの輝きに包まれ、私達は長い長い口付けを交わした。