②始末書
小学五年生の時のことである。理科の授業で、気象の単元があった。その中で〝百葉箱〟(ひゃくようばこ)なるものが、取り上げられており、校内に設置されている実物を見に行くことになった。
校庭の隅などにある、小さくて白い小屋みたいなものである。
その中に、温度計や湿度計が入っているらしい。
私が通っていた小学校のそれは、プールと藤棚の間にあった。
その日の授業のメインは、百葉箱の中に入っている、温度計や湿度計の実物を見ることだったのだろう。
箱の扉についている、南京錠を担任のW先生が開けようとした。しかし、鍵が錆びているのか、なかなか開く気配がない。
イライラしたのだろう、W先生は
「もう! 壊さなあかんな!」
と言った。
次の瞬間「いぇ〜!」という奇妙な声とともに、クラスメイトのO君が、百葉箱の側面を思い切り蹴った。
――バキッ!!!
という鈍い音とともに、百葉箱の側面が綺麗にくの字に曲がった。あんなに綺麗なくの字は、なかなか見る機会がないと思う。
「壊していいのは、鍵ぃぃぃー!!!」
とW先生が叫んだ。
結局、温度計と湿度計の確認はできず、授業終了となった。
W先生は、きっと始末書を書いただろうと思っている。